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「政府の方針を受け入れるだけではいけない」 熊谷俊人千葉市長が語る、首長の役目

2020年10月07日 公開
2020年10月12日 更新

熊谷俊人(千葉市長)

休校要請で千葉市が独自の対応を行なった理由

熊谷俊人(千葉市長)千葉市の小学校を視察する萩生田光一文科大臣(右)と熊谷俊人市長(中央、写真提供:千葉市)

――2月下旬、政府は全国の小中学校と高校に一斉休校を要請しました。このとき、千葉市は独自の対応を行なっていますが、なぜでしょうか。

【熊谷】国は3週間にわたる休校を打ち出しましたね。しかし千葉市は期間を2週間とし、加えて小学校では1,2年生で保護者がどうしても対応できない場合は学校での自習を可能にしました。

感染対策を講じたうえで、学校現場や保護者の負担に鑑みての判断です。結果、市が独自に編成しているこども未来局と教育委員会が緊密に情報共有したうえで対応した甲斐もあってか、大きな混乱なく今回の措置を全うできた。

3月19日、萩生田光一文科大臣が千葉市の小学校を視察された際、現場に即したわれわれの取り組みを評価されたうえで、「千葉市のような好事例を横展開していければ」との言葉を発したのが印象的です。

政府は国としての大方針を掲げますが、一方で現場の実情がわかっているのは、われわれのような各自治体です。

政府の要請をそのまま運用するのではなく、必要があれば責任をもって調整していくべきです。与えられた裁量のなかで知恵を絞り、工夫しながら実行していく。それが地方自治体、さらにいえば首長の役目です。

――政府が推進している「GoToトラベルキャンペーン」についても評価が分かれています。観光業を守る観点から推進する自治体もあれば、感染症対策を重視して観光客の受け入れに懐疑的な自治体もみられました。この問題はどう考えますか。

【熊谷】政府は、新型コロナの影響で疲弊する観光業を救おうとしたわけで、そのために支援策を用意したこと自体は間違っていないでしょう。ただし、キャンペーンを実施する時期としては拙速だった感が否めない。

まず、支持率が日に日に落ちている政府が賛否両論ある政策を実施すると、批判を前提に報道や世論が反応するリスクを認識しなければなりません。国民の信頼が得られていない状態で大風呂敷を広げたがゆえに、旅行そのものに対してまで、むしろマイナスなイメージをつくってしまった。

ここで重要になるのが、政策を掲げるタイミングと国民とのコミュニケーションの取り方です。支持が得られていない段階では、政策の遂行に慎重を期さなければなりません。

実行するにせよ、社会経済を回す意義とそれによるリスクについて政府はどう考えているか、国民に真摯に訴えるべきだったと思います。

――コロナ対応では、たとえば東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県のように、経済圏として一体となっている圏域で足並みを揃える必要性も指摘されます。地域による横の連携についてはどうお考えですか。

【熊谷】ご指摘はごもっともで、感染症対策は人びとの移動する圏域単位で行なうべきです。いまでも各首長が多岐にわたり連携をとっていることは承知しています。

ところが4月7日に発出された緊急事態宣言を巡っては、東京都による当然の休業要請に対して、残りの三県が歩調を合わせられずに足並みが乱れる場面がありました。休業に伴う協力金を拠出するには財政力が必要で、都と三県の「体力」の違いも背景にあるでしょう。

本来であれば、東京圏として一体である地域すべてが、同じ基準で支援策を行なうのが望ましい。その際、先頭に立って方針をまとめるべきは東京都知事です。

重要なのは、都知事が他の三県の知事と対話を重ねて、共同歩調をどれだけとれるか。これは制度論というよりも、リーダーそれぞれが協力すれば越えられる壁ではないでしょうか。各自治体間の連携の次元を、さらに上げなければなりません。

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