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「アメリカの弱さ、中国の強さ」マルクス・ガブリエルが考える分断の根源



2021年05月03日 公開

マルクス・ガブリエル(ドイツ・ボン大学教授)

星条旗

COVID-19という全地球的規模のパンデミックが起こっても、結局、国境の壁を超えた人類の団結は生まれなかったと言えよう。ドイツを代表する哲学者マルクス・ガブリエルは、その一因を「アメリカが文化的に異質なものについて無知であること」だと指摘する。アメリカ人が普遍的価値に対して抱いている「根本的な勘違い」とは何か。

※本稿は、マルクス・ガブリエル著、大野和基インタビュー・編、髙田亜樹訳『つながり過ぎた世界の先に』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです

 

実は多様性が存在しないアメリカ

普遍的な倫理に基づいて行動するために人類はもっと連携すべきですが、残念ながら現在、人類は連携が不十分で多くの分断が生まれています。私は「人類には普遍的な倫理的価値がある」と考え、人類の団結を提唱しました。

しかしCOVID-19を巡って国際的な団結はほとんど見られません。WHOがパンデミック宣言を行った1ヶ月後の国連安全保障理事会では、アメリカと中国が対立しました。米中問題にはいくつもの側面がありますが、異なる文化や異なる価値観による分断は倫理的な問題の解決を生みません。

なぜなら私が提唱している「新しい実在論」の観点から見ると、すべての人類は地球という同じ惑星に属しているという、包括的な現実があり、我々は文字通り運命共同体であるからです。

中国もアメリカも倫理的な問題に正しく対処することもあれば、誤った対処をすることもある。アメリカも中国も、普遍的な倫理的価値にだけ基づいて行動しているわけではないため、対立するのです。

米中がすべきこと、いや人類がすべきことは交渉です。アメリカ人が抱える問題は、彼らが文化的に異質なものについて無知であることだというのは広く知られています。彼らは自分たちの政治システムが普遍的価値に基づいていると勘違いしている。

実際には普遍的価値ではなく、非常にアメリカ的な価値に基づいているのに少しもわかっていない。アメリカ人にとっては、文化的に異質なものの存在を認識することは非常に難しいのです。

彼らは文化的な違いを著しく軽んじています。自分たちの国には文化的多様性があると考えていますが、実際には存在しないのです。

アフリカ系アメリカ人がいることは「文化的多様性」ではありません。彼らはただのアメリカ人です。インド系アメリカ人もただのアメリカ人です。ネイティブ・アメリカンもアメリカ人。アメリカにはアメリカ人しかいないのです。

それ以外にいるのは訪問者です。訪問者が少しアクセントの異なる英語を話したとしても、文化的に異質だということには気づかない。気づくのはアクセントの違いだけです。しかし彼らはいろんな英語のアクセントに慣れていますから、やはり本当の意味での「異質なもの」は見えていないのです。

食べ物を例に挙げましょう。アメリカ人はサンフランシスコの和食レストランを「日本のレストラン」と考えているでしょう。でもそれは日本のレストランではありません。中国人やタイ人など、日本人でないシェフがいる。仮にシェフが日本人だったとしても、和食もどきを提供しているに過ぎない。

でもアメリカ人は和食レストランがあるから多文化的だと思っているでしょう。メキシコ料理も然りです。アメリカにはメキシコ料理はない。アメリカにあるのはメキシコ料理もどきであって、本物ではありません。

このように、アメリカ人は文化的に異質なものを理解していると思っていますが、アメリカには文化的多様性は存在しないのです。彼らは多様性に非常に弱い。

一方、中国人は異なる文化を支配するために、文化的に異質なものを研究することが非常に得意です。彼らは共産主義者なので、異質なものに対する理解を非倫理的に利用するのです。中国は極めて高いレベルの、大変賢い共産主義独裁なのです。

中国は人種差別的な思想の上に成り立っています。漢民族という概念は非常に人種差別的で、非倫理的な概念です。

面白いのは、アメリカ人は自分たちが反差別主義者だと信じていますが、実際には差別主義であり、一方、中国人は明らかに差別主義者であることです。このような二国が接触するとき、激しく対立するわけです。

 

アメリカは完全に「ポストモダン」の国

同様に、今のギリシャとトルコの状況を見てみましょう。トルコはイスラム国家の役割を演じていますが、実際にはそうではない。トルコがイスラム国家であるというのはまったくのファンタジーなのに、博物館をモスクに変えたりしている。

ギリシャはギリシャで、まったく異なる背景を持っている。今我々が目撃しているのは、普遍的価値が存在するという考えに対する抵抗だと思うのです。すなわち、「新しい実在論」の反対であるポストモダニズムです。

アメリカは完全にポストモダンの国だと思います。政権も、ソーシャルメディアも、テレビのリアリティ番組も、すべてがポストモダンの雰囲気に包まれています。

フェイクニュースやオルタナティブ・ファクト、真実なんてどうでも良いという空気、容赦ないアイデンティティ・ポリティクス(人種、宗教、民族、性的指向、ジェンダー、障害などのアイデンティティに基づく集団の利益を代弁して行う政治的主張、行動のこと)など、すべてです。

こういう国が今中国と対立している。この対立はもちろん経済に影響しますが、今は明らかにアメリカが負けているように見えます。今起きている対立は、アメリカが戦ったことのないレベル、つまり思想のレベルで起きているからです。純粋に経済的な対立ではないのです。

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