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いつまで「欧米のモノマネ」を続けるのか? 日本のイノベーションが“口だけで終わる”理由

2021年07月09日 公開

太田肇(同志社大学政策学部教授)

太田肇

戦後、先進国のキャッチアップをすることで成長してきた日本。しかし、ここにイノベーションが生まれない理由があると、同志社大学教授の太田肇氏は指摘する。なぜ、日本はいつまでも変われないのか?

※本稿は、太田肇 著『同調圧力の正体』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

組織と個人の蜜月時代が終わった

振り返ってみると昭和の時代は、組織と個人にとってまれにみる共存共栄の時代だったといえるだろう。個別の問題はあるにしろ、組織が成長し、繁栄することはメンバー個々人の利益にもつながった。そして組織の同調圧力も、その効果や必要性が実感できるだけに抵抗も小さかった。

ところが時代の変化によって組織と個人の利害が必ずしも一致しないケースが増えてきた。「蜜月時代」の終焉である。蜜月時代のつぎに訪れたのは、組織による引き締めの時代である。その意味で共同体主義がいっそう露骨になったといえる。

1989年(昭和64年)1月7日、昭和天皇の崩御によって長く続いた昭和の時代が終わり、平成という新たな時代の幕が開いた。

平成とほぼ同時にスタートした1990年代。世界に視野を広げれば、1989年にベルリンの壁が崩壊し東西冷戦が終結した。そしてインターネットの普及に代表されるIT革命により、グローバル化、ボーダレス化がさらに加速した。

そう、平成時代の始まりを告げる1990年代を象徴するキーワードは「グローバル化」「ボーダレス化」「IT化」である。

けれども日本社会の動きはこうした世界の潮流と連動しないばかりか、むしろ逆行するかのような様相さえ呈した。

象徴的な写真がある。某大企業の入社式風景を平成初期と現在とで比較した写真をみると、平成初期の写真は服装も髪型も個性的で、会場は自然な笑顔に溢れている。

いっぽう、現在の写真は全員がリクルートスーツに身を固め、髪型も一緒。マナー研修で教えられたとおり背筋をピンと伸ばして手を前に組み、緊張した面持ちで視線をまっすぐ前に向けている。

この会社が特異なわけではなく、どこの会社にもみられる変化のようである。そして外見の変化があらわすように、現場の声に耳を傾けてみても同調を促す社内の圧力が強まったことがうかがえる。

背景には社会全体の空気がいっそう内向きになったことがあると指摘する人が多い。1995年に発生した阪神淡路大震災、2011年の東日本大震災を機に、「絆」という言葉が独り歩きし、運命共同体的な連帯が称揚されるようになったことも大きい。

 

平成は「敗北の時代」

そして平成時代の日本は、グローバル化の潮流から取り残されて世界の中での地位、プレゼンスを低下させ、当初の予想をはるかに超える長い低迷期を経験したのである。それが顕著にあらわれたのは、やはり経済面である。

経済同友会の代表幹事だった小林喜光氏は、朝日新聞のインタビューで「平成の30年間、日本は敗北の時代だった」と喝破した。(注1)たしかに国民一人あたりのGDP(国内総生産)は1992年には7位だったのが、2000年には16位に低下した。(注2)国際競争力も1992年の1位から、2000年には21位にまで急落している。(注3)

ちなみに両指標とも、その後さらに低落傾向が続き、今日まで回復の兆しがみられない。このことからも、工業社会における成功体験が新たな時代に適応するうえでいかに重い足かせとなっているかがわかる。

グローバル化にしてもボーダレス化にしても、閉鎖的な共同体の論理と真っ向から対立する。

またIT化は人間に求められる要素を根本から変えた。共同体型組織の特徴である均質な知識・能力や、統制のとれた働き方を必要とする仕事がITに取って代わられたのだ。

とはいえ分野によっては統制のとれた働き方と、そこから得られる仕事の「完璧」さが求められることに変わりはない。それどころか、世界全体がシステムとしてつながったいまの時代には、一つのミスさえ許されなくなっている。

しかし、人間がいくら完璧を目指しても限界がある。そこで完璧さが不可欠な仕事はITなどに任せ、人間は創造や洞察、高度な判断といった人間特有の能力を生かせる仕事に専念する。

世界の趨勢(すうせい)として、このような役割分担が徹底されつつある。ところが日本では、いまだに人間の力でそれに立ち向かおうとしているようにみえる。

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