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喫煙所の未設置は行政の怠慢

2021年11月15日 公開
2023年06月23日 更新

橋下 徹(元大阪府知事・弁護士)

 

ルールの下で容認する寛容さ

――ちなみに橋下先生は大阪府知事や大阪市長の時代、喫煙者の職員に対してどのように対応してきましたか。

【橋下】勤務時間中のリフレッシュという意味合いがあるので、かなり悩みましたね。大阪府知事のとき、早朝に職員集会を開いて講話を始めたら「勤務時間外だから残業代を払ってほしい」といわれたことがあります。つい返す刀で「それなら、代わりに勤務中の喫煙時間分は給与を削る」と答えてしまったこともあります(笑)。

最終的には、当時乱れていた役所の風紀を正すために勤務時間中の喫煙は一律に禁止し、違反者には停職1カ月という「超」厳罰を課しました。

――「たばこを吸う人は生産性が低い」などともいわれますが。

【橋下】生産性については結局、職員のパフォーマンスのみで判断する以外ありません。たばこの影響は正直わかりませんが、喫煙にかなりの時間を割いていることは間違いないですね。

じつは松井一郎さん(大阪市長・日本維新の会代表)が大阪府知事の時代、先ほどの秋葉原と似た出来事が起きたことがあります。昼休みに喫煙者の職員が大阪城公園に集まり、たばこを吸っていた。大阪城公園は観光地でもあるので案の定、府にクレームが来ました。内外でさまざまな議論が起こりましたが、松井さんは全面禁煙には反対の立場で結局、吸える場所を設けることにしました。

――やはりおっしゃるように、中間領域での喫煙所が必要ですね。

【橋下】そうしないと、吸い殻のポイ捨てのような行為が常態化して美観はおろか、治安まで損なわれかねません。

ルドルフ・ジュリアーニ氏(弁護士)はニューヨーク市長の時代に、「割れ窓理論」を唱えました。一枚の割れた窓ガラスを放置すれば次にもう一枚、窓ガラスが割られ、さらなる犯罪の連鎖を生むという。同様にゴミや落書き一つであっても、行政がきちんと対応しなければ、やがて街全体の衰退・崩壊を招くというわけです。ジュリアーニ氏はアメリカ大統領選挙の「不正」を訴えてニューヨーク州弁護士の資格を一時停止されてしまったけれども、細かな規律維持が地域の秩序維持につながることをよく理解していました。

シンガポールでも、ゴミのポイ捨てに対する罰金は最高1,000シンガポールドル(約8万1,000円)。再犯は最高2,000シンガポールドルに加えて清掃労働が科せられるなど、たいへん厳しい。たばこをめぐる規律維持のルールが、結果として地域の秩序維持につながり「他者危害」を抑える側面もあるのです。

――もう一度、喫煙者のマナーも含めて自由社会の原則に立ち戻り、政策を整理すべきでしょうね。

【橋下】僕は個人的にたばこの臭いが好きではなく、食事のときなどは吸ってほしくない。しかし、「他者危害」が強くない行為を一切禁止し、国民の趣味嗜好の自由を認めない国家というものも気持ち悪い。「他者危害」が強くないのであれば、たとえ他人の嫌いな行為であっても一定のルールの下で容認するという寛容さが、国民・国家には必要なことだと思います。国家・行政が個人の好き嫌いを罰則をもって管理するのは、僕の信条にそぐわない。したがって国家・行政が、国民の喫煙の自由を認めながら、非喫煙者や住民が迷惑を受けないよう、いわゆる中間領域においては喫煙所を徹底的に確保するというのが最善の策だと思います。

 

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