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昭和天皇の側近まで...陸軍親ソ派による「共産主義国家の建設」という野望

2021年12月09日 公開

岡部伸(産経新聞社論説委員、前ロンドン支局長)

岡部伸

敗戦間近、日本政府はこともあろうに、すでに参戦を決意していたソ連に対して、戦争終結の和平仲介を依頼することに決した。その裏には、陸軍に巣くう親ソ派、共産主義者たちの暗躍があった。

※本稿は、岡部伸著『第二次大戦、諜報戦秘史』(PHP新書)を一部抜粋・編集したものです。

 

なぜソ連参戦情報が活用されなかったのか

ヤルタ会談直後にストックホルムから小野寺信少将が参謀本部に打電したソ連参戦情報は、大戦末期の日本の政策に活かされることはなかった。大本営の「奥の院」によって、握り潰されたのはこの「小野寺電」だけではない。

3月に入り、ドイツのリッベントロップ外相からソ連参戦の情報を聞いた大島浩駐ドイツ特命全権大使は、これを外務省に伝えたと、戦後に防衛庁(現防衛省)の聴取に答えたことが、「防諜ニ関スル回想聴取録」(防衛省防衛研究所戦史研究センター史料室所蔵)に書かれている。

つまり、ドイツが降伏した5月以降、欧州の前線から外務省、海軍軍令部、陸軍参謀本部にソ連が参戦するという情報が伝わっていたのだ。

では、なぜこれらのソ連参戦情報が活用されなかったのか。ソ連仲介による終戦工作が先にあったからだ。1944年半ばから、ソ連を通じて連合国と和平交渉を進めようとしていたグループにとって、これらの情報は不都合だった。

 

日本政府の重要メンバーが共産主義者たちに降伏

大戦末期の日本が不毛なソ連仲介に国運を賭けた理由は何だろうか。この謎を解く鍵が英国立公文書館所蔵の「ウルトラ」のなかにあった。スイスのベルンに駐在する中国国民政府の陸軍武官が6月22日付で重慶に打った「アメリカからの最高機密情報」と題された電報があり、次のように記されていた。

国家を救うため、現在の日本政府の重要メンバーの多くが完全に日本の共産主義者たちに降伏している。あらゆる分野部門で行動することを認められている彼ら(共産主義者たち)は、すべての他国の共産党と連携しながら、モスクワ(ソ連)に助けを求めようとしている。日本人は、皇室の維持だけを条件に、完全に共産主義者たちに取り仕切られた日本政府をソ連が助けてくれるはずだと(和平仲介を)提案している

すなわち中国の国民政府の武官は、皇室の維持を条件に、ソ連に和平仲介を委ねようとしている日本の重要メンバーが、共産主義者たちに操られていると分析していたのである。ソ連参戦情報は最初から抹殺される運命にあったのだ。

「HW12」のレファレンス番号に分類されている「ウルトラ」文書をヤルタ会談が行なわれた45年2月まで遡り、さらに終戦までチェックした。判明したのは、この中国武官は日本の終戦工作のすべてを把握し、ソ連の対日参戦の動きを逐一、捉えていたことである。

これらの電報を重慶に打っていた中国の武官とは、いかなる人物であろうか。一連の電報のなかには、Robert Chitsuin という名前が記されているものがあった。

国民政府の資料では、大戦末期のベルンには「斎焌(チツン)」という武官が駐在しており、「ウルトラ」に登場するChitsuin と同一人物だろう。

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