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「リバタリアン」はなぜ民主主義を否定するのか? 激変するアメリカ現代思想

2022年01月19日 公開

岡本裕一朗(玉川大学文学部名誉教授)

岡本裕一朗

トランプ大統領の登場は、アメリカの思想を激変させた。自由と民主主義を至上のものとしてきた「アメリカの常識」が、いま揺らぎつつある。「リバタリアン」が民主主義を否定する根拠はどこにあるのか?

※本稿は、岡本裕一朗著『アメリカ現代思想の教室』(PHP新書)を一部抜粋・編集したものです。

 

リバタリアンの起業家ピーター・ティール

インターネットを利用した決済サービス「PayPal(ペイパル)」の創業者、ピーター・ティール(1967―)。「シリコン・ヴァレーの頂点に君臨する」と言われ、テスラ社のイーロン・マスクとも親交が深く、フェイスブックを最初期から支えた投資家である。

彼は、スタンフォード大学で哲学を専攻し、その行動には思想的な裏づけがあった。大学でも講義し、その内容は『ゼロ・トゥ・ワン』として出版され、日本でもよく知られた超大物投資家である。

その彼が、政治的にとりわけ注目されるようになったのは、2016年にトランプが大統領候補として選挙活動を行なっていたとき、トランプ支持を打ち出したことだ。それまで、トランプを支持するハイテク業界の有力者はいなかったが、ティールが支援することで流れが大きく変わったのである。

このとき、ティールが依拠していたのが、「リバタリアニズム(経済的自由を含め、個々人の行動の自由を積極的に推進することを志向する思想)」だった。

ティールのトランプ支援の根拠を探るために、彼が考える「リバタリアニズム」がどんなものか、明らかにしよう。そのために取り上げるのが、リバタリアンのシンクタンク「ケイトー研究所」から出されているティールのエッセイである。タイトルは「リバタリアンの教育」で、2009年に執筆されたものだ。

そのエッセイでティールは、10代のころから「リバタリアン」であったことを告白している。リベラリズムのような「税金の厳しい取り立て」や「全体主義」には強く反対してきた、と語っている。このあと、彼は決定的なテーゼを述べている。

最も重要なことは次のことだ。私はもはや、自由と民主主義(デモクラシー)とが両立する、とは信じていない。 (ティール「リバタリアンの教育」)

今まで、自由と民主主義は、「リベラル・デモクラシー」という形で、一体のものとして考えられてきた。ところが、ティールはこの一体化を切り離し、自由のために民主主義を批判するわけである。もちろん、この短いエッセイで、ティールが民主主義をどう批判するかについては、ほとんど明らかにされていない。

驚くべきは、彼が「私たちの世界には、本当に自由な場所は存在しない」と考えていることだ。そのため、彼は「政治を通して脱出することではなく、政治を超えて脱出すること」を課題にしている。

そこで、「自由のための新たな空間」を生み出す可能性として、三つのテクノロジーを示している。その一つ目が「サイバースペース」、二つ目が「宇宙空間」、三つ目が「海上自治都市」である。これを見ると、イーロン・マスクが宇宙開発企業を設立したのも、頷けるだろう。彼らにとって、「サイバースペース」は、不自由な世界から脱出するための、一つの自由な空間だったのである。

しかし、どこに脱出するかは別にして、ティールが民主主義を批判し、リバタリアンを宣言したのは重要である。民主主義は、平等性を原則にしているので、女性差別や民族差別とは対極に立つ。ところが、民主主義が批判されると、こうした差別はどうなるのだろうか。

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