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新型コロナ対策は2類でも5類でもない「P類」で

2022年02月24日 公開
2022年02月24日 更新

黒木登志夫(東京大学名誉教授)

黒木登志夫(東京大学名誉教授)

東京大学名誉教授の黒木登志夫氏は新型コロナウイルスについて「変異を繰り返すこのウイルスは、予想できないことが多い」としながらも抜本的な対策として自らの私案を示す。

※本稿は『Voice』2022年3⽉号より抜粋・編集したものです。

 

オミクロンの恐ろしい感染力

オミクロン株の感染者数の予測

オミクロン株は最初、南アフリカ、ボツアナで2021年11月15日に初めて存在が報告されたが、それから三カ月後の2022年1月15日には、世界の150カ国に広がっている。すごい伝染力である。

2021年12月1日には、日本では最初の感染者が入国の際に発見された。これまでの経験からすると、検疫でコロナウイルスが検出されると、3週間目には市中感染で広がり始める。

そして、そのとおり、3週間後の同年12月22日に大阪で市中感染が発見された。しかし、オミクロン株の感染力を考えると、今回のような厳しい水際対策を実施することで、市中感染は一週間程度抑えられていたのではないだろうか。

オミクロン株のすさまじい感染の増加を図3に示す。将来予測をするため、感染者数を対数変換したところ、「倍加日数3日」つまり、3日で感染者数が倍になり、そのあとも倍々ゲームで増えていくというおそろしい数字が出てきた。

30日で感染者は1000倍になるのだ。これはがん細胞顔負けの増殖速度である。この図3をつくった2022年1月22日現在、全国の1日当たりの感染者数は五万人であるが、この調子で増えていくと二月の初めには100万人に達し、二月の末には一億2000万人の日本人全員が感染するかもしれない。

ただし、イギリスやアメリカでは、オミクロン株は人口の0.25%が感染したときにピークアウトしている。日本でいえば25~30万人が感染したときに相当する。とすれば、日本におけるピークアウトは1月下旬ごろになる計算だ。

オミクロン株には、スパイクタンパクに30以上、全体では50以上の変異が入っている。おそらく多くの人は、こんなに変異が入ると大変なことになると思うかもしれない。しかしわれわれ研究者にとっては、これほどの変異をもちながらも、感染性を失っていないことのほうが不思議であった。

コロナウイルスは、1ヶ月に2回の割合で変異することがわかっている。とすると、オミクロンウイルスは25週くらい前から変異が始まっていることになる。それなのに、ここまでオミクロン株がみつからなかったのは不思議である。

しかし、オミクロン株の遺伝子nsp14の変異によって説明がついた。変異の場所はAY.29の部位とは異なるが、おそらく、オミクロン株もゲノム複製の校正と修復に影響を与えたのであろうか。

 

「終わりの始まり」のシナリオ

オミクロン株は、いまだにすごい勢いで感染を広げている。その倍加日数は3日。これは、われわれが経験したことのない速さである。しかしその割には、世間は落ち着いているようにみえる。新型コロナが存在する生活に慣れてしまったのだろうか。

感染しても重症化することはないと安心しているのであろうか。いつかはピークを過ぎると安心しているのだろうか。じつは私も意外に落ち着いている。その理由は次の三つのシナリオを描いているからである。

(1)いつピークの頂点に達するか
オミクロン株はこのまま増え続けることはなく、ピークに達して下降線に入るのは間違いない。指数関数的に増加した感染者は、指数関数的に減少する。問題はどこまで下がるかである。第5波のAY.29には、nsp14に変異が入っていたために99.6%まで下がったが、第6波のオミクロン株もすでにnsp14に変異があるので、ゼロ%近くまで下がることを期待したい。

(2)進化も終わりに近づいた
2年以上に及ぶ感染の旅のなかで、コロナウイルスは進化した。天然痘よりも感染力が強くなったデルタ株、そしてオミクロン株は、現在存在するウイルスのなかで、いちばん感染力が高いといわれている麻疹を追い抜くのではとさえ思ってしまう。

しかしオミクロン株は、これまでのコロナウイルスが住み慣れた人間の肺の「奥の院」を捨てて、空気の通り道にすぎない気道あるいは「参道」に住居を移した。このため、症状も風邪のようになり、重症化も少なくなった。これは病原性ウイルスとして進化の出口かもしれない。

(3)インフルエンザに近くなった
2022年になり、コロナ医療はインフルエンザのそれに近づいてきた。コロナワクチンはインフルエンザワクチンよりずっと優れているし、薬だって、軽症、重症用に使い分けができるようになった。コロナとインフルエンザを比較したとき、いちばん違うのは致死率である。オミクロンの致死率はまだわかっていないが、これまでのウイルスよりもインフルエンザに大分近づいたのではなかろうか。

そして4番目のシナリオは、オミクロンが「終わりなき始まり」になることである。このシナリオだけは、当たってほしくない。

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