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いつ起きても不思議ではない...中央防災会議が警鐘を鳴らす「もうひとつの大地震」

2022年03月10日 公開

安宅和人(慶応義塾大学環境情報学部教授・ヤフー株式会社CSO)

日本周辺のプレート

東日本大震災から11年が経った。今年1月にはトンガの海底火山が大噴火するなど、自然災害はますます激甚化している。我々は何に目を向け、自らの命を守るべきなのか。慶應義塾大学環境情報学部教授・ヤフー株式会社CSOで、政府の「デジタル・防災技術ワーキンググループ 未来構想チーム」座長を務めた安宅和人氏が、人類のサバイバルについて語る。

※本稿は『Voice』2022年4月号より抜粋・編集したものです。

 

災害のなかで最も厄介な火山噴火

2011年の東日本大震災から11年を迎えた。あらためて説明するまでもなく、日本列島はつねに大地震の脅威に晒されており、僕たちはその備えに万全を期さなくてはいけない。また、日本で起こりうる災害は地震だけではない。津波や火山の噴火、豪雨など、さまざまな天災が想定される。

僕は以前に本誌で「ヒューマン・サバイバル」と銘打った緊急連載を行なったが(2021年5月号~7月号)、日本の外に目を向けても、今年1月には南太平洋の島国トンガの海底火山が大噴火するなど、世界では自然災害がますます激甚化している。

そんな時代において、人類はいかに「ディザスター・レディ(disaster-ready)」な社会を構築するべきなのか。今回はとりわけ、日本の対応を中心に考えていきたい。

先のトンガの海底火山の噴火では、最も厄介な天災が噴火であることをあらためて痛感させられた。あまり知られていないが、噴火は電気と物流に始まるインフラ停止リスクがきわめて高い。

じつは、火山灰の主成分は「灰」ではなく、岩石の破片や鉱物の結晶、いってみればガラスの粉だ。目に入れば大変危険であり、電気配線、ガイシ(碍子:電気を絶縁して電線を支えるための器具)に雨とともに降り注げば送電障害、そこから始まる二次災害を引き起こす。実際にトンガの噴火でも、現地では大規模な通信障害が起きた。

現代社会で電気が通らなくなれば、社会生活を営むうえで致命的だ。停電によって電車が止まるうえ、インターネットが利用できないために必要な情報も得られない。さらにいえば、仮に電気が復旧したとしても、線路に積もった火山灰で電車が動かない可能性が高い。

また噴火口の周辺地域では、噴き上がる水蒸気、火山灰などの摩擦電気により、多くの場合、火山雷が発生する。トンガの噴火ではじつに1分間で5000~6000回も発生したという。また大きな噴火の際、周囲数km圏ではまずガスの比率が高い火砕サージ(時に時速300km)が、次により密度の高い火砕流(時に時速100km)が発生しうる。いずれも1000度を超えることがある火山災害のなかで最も危険なものである。

加えて、噴火で山頂付近の雪や氷河が解けたり、雷とともに雨が降れば、積もった火山灰が火山泥流(時速数十km)として山の麓に押し寄せうる。

1985年、南米コロンビアのネバド・デル・ルイス火山噴火では山頂の東45kmのアルメロ市(常在人口29,000人)の大半が火山泥流に覆われ、2.1万人の死者を出した。1991年フィリピン・ピナツボ火山の噴火の際には、火砕流は山頂から20km、火山泥流は同40kmまで到達した(防災科学技術研究所自然災害情報室による)。

ご承知のとおり、日本は世界有数の「火山大国」である。全国には111の活火山が存在し、その数は世界の活火山の7%を占める。とくに注視すべきは、日本人の誇りともいえる富士山だ。

富士山は1707年の宝永大噴火以後、300年以上も噴火していないが、貞観の巨大地震(869年)を挟む800年から1083年までの時期には12回もの噴火が記録されている。過去の周期に鑑みれば、眠り続けている富士山がいつ「目覚めて」もおかしくない。

 

日本列島の「顔」と「心臓」に大打撃

もしも富士山が大噴火した場合、どのような事態が想定されるだろうか。2020年3月、政府の中央防災会議「大規模噴火時の広域降灰(こうかい)対策検討ワーキンググループ」は「大規模噴火時の広域降灰対策について(案)」という報告書を公表している。その中身では、鉄道は微量の降灰で地上路線の運行が停止、3mmの降灰で停電し断水、地下路線もストップ。物資の面でも買い占めや道路の交通支障によって配送が困難になると指摘されている。

報告書では風向きによっていくつかの被害ケースが示されているが、多くのケースで噴火から3時間もすれば首都機能のかなりの部分が停止に近い状態になるという。偏西風の関係で風は基本的に西から東に吹いているため、被害の大部分は富士山の東に位置する首都圏だ。

しかし、仮に噴火当初に東から西に風が吹いていた場合、火山灰は中部地方に飛散したのち、やがて風向きが逆に変わると首都圏が次の「被災地」になる。もしも、日本列島の「顔」である東京と、工業生産的な「心臓」である名古屋、それをつなぐ東海道エリアが緊急停止状態に陥れば、その影響はいうまでもなく「全身」に及ぶだろう。

さらに富士山の近くには伊豆東部火山群が聳えており、紀伊半島を通り九州に抜ける日本最大の断層帯(中央構造線)がある。2016年の熊本地震はこの西端付近で起きたものだ。阿蘇もその上にあり、南には桜島がある。

またあまり知られていないが、熊野の聖地は、約1400万年前に世界的な大量絶滅を引き起こした熊野カルデラの真上にある。災害のなかでもきわめて厄介な噴火の脅威に日本列島が晒されている事実を我々は認識する必要がある。

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