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「人生に前向きな人」と「否定的な人」を分ける“嫌な記憶との付き合い方”

榎本博明(心理学博士)

2022年12月29日 公開 2024年12月16日 更新

仕事のできる人とできない人の違いはなんだろうか。多くの場合、仕事の成果を決める最大の要因は、能力ではなく、モチベーションにあるといわれている。一方で、何に対してもやる気がみなぎっている人もいれば、やる気の乏しい人もいる。

個人のモチベーションは、何によって決まるのだろうか。心理学博士の榎本博明氏に、モチベーションを高める方法を聞いた。

※本稿は、榎本博明著『記憶の整理術』(PHP新書)より、一部を抜粋・編集したものです。

 

未来展望がモチベーションを左右する

明るい未来展望がもてるかどうかも、モチベーションを大きく左右する。やっても報われる可能性が低いと思われることに全力でエネルギーを注ぐというのは、だれだって難しいだろう。頑張ればきっとうまくいくと思うことができるからこそ、頑張れるのだ。

松下電器(現・パナソニック)の創業者である松下幸之助氏は、ものごとをうまく成し遂げるには、「自分は運が強い」と自分自身に言い聞かせることが大切だと言う。

その結果、仕事でも何でも、何か困難に直面しても、自分は運が強いから何とか乗り切れるだろう、きっと良い状態を生み出すことができるだろう、といった信念のような強い思いが、いつの間にか身についていた。

そのおかげで、さまざまな困難にも、心を乱すことなく、勇気がくじけることもなく、何とかやってこられたという。

京セラの創業者である稲盛和夫氏も、「うまくいく」と信じることが大事だと言う。うまくいくと自分自身が信じていないことに対して、努力などできるはずがない。

強烈な願望を抱くとともに、心からその実現を信じることによって、困難な状況を打開し、ものごとを成就させることができる。実現できると信じるからこそ、そのための方法を必死に考え、努力と創意が生まれるのだという。

でも、自分たちのような一般人の場合は、なかなかそういうわけにもいかない。成功に裏づけられた人生を華々しく歩んでいる人たちといっしょにされても困る。なにしろ自分には、誇れる成功体験などないのだから。そのように思われるかもしれない。

うまくいくと信じる心も、明るい未来展望も、肯定的な自分の過去をもとにしてはじめてもつことができるというのは、その通りだと思う。

これまでにうまくいった経験の積み重ねがある場合は、明るい未来展望を描くことができるだろう。これまでにうまくいった試しがないという場合は、明るい未来展望を描くのは難しいに違いない。

マーケティングでも、過去の売り上げ実績をもとにして将来の需要予測を立てるのが原則である。それと同じというわけだ。

未来展望は、過去の実績にもとづいて描かれる。ということになると、前向きの未来展望をもち、モチベーションを高めるためには、前向きの過去をもつことが必要ということになる。

では、前向きの過去をもてるのは、これまでに成功体験をいくつも重ねてきた並はずれた成功者に限られるというのだろうか。それではほとんどの人が救われないではないか。そう思われるかもしれない。

だが、けっしてそうではない。うまくいくことを信じ、明るい未来展望をもって頑張れるかどうかは、過去の客観的な姿で決まるのではなく、過去に対する主観的な解釈で決まるのである。このことをもう少し詳しく説明しよう。

 

過去を振り返り、物語にまとめる

上向きの人生の流れにつながるように回想記憶を整理するには、どうしたらよいのだろうか。

そのために私が開発した方法が「自己物語法」である。その原理を簡単に説明しよう。

私たちは、それぞれ自分の物語を生きている。それは、年表のように過去の出来事を単に羅列したものではなく、個々の出来事が因果関係で結ばれるなどして、全体がひとつの意味のある流れをもった物語となっている。

それを、幼児期から現在まで、エピソードで語ってもらおうというもの。そのことを通じて、自分のアイデンティティを再確認できる。語り方の方法には「面接式」「記述式」「グラフ式」の3通りがある。

実際の自己物語は、さまざまなライフイベントをいくつもの上昇線や下降線でつないだものとなっている。

【Aさんの場合】子どもの頃は勉強ができず、家庭的にも恵まれず、あまり良い人生ではなかったけれども、働き始めてから能力を発揮し始めて成功した、というように上昇線を描く自己物語もある。

【Bさんの場合】反対に、若い頃は仕事も順調で、人間関係にも恵まれて、充実した日々を送っていたのだが、40代の転職をきっかけにしてあらゆる運から見放され、過去の栄光を心の支えにするみすぼらしい人生になってしまった、というように下降線を描く自己物語もある。

【Cさんの場合】子どもの頃、親がとても厳しく、幼稚園や小学校で失敗をしたり悪い点をとったりするたびにひどく叱られた。だから、割と成績は良かったけれど、性格的に萎縮して、失敗を恐れてチャレンジできないことが多かった。
人の顔色を窺うような習性が身につき、それが良い面としては周囲の人に気配りできるようになったが、悪い面としては人の意向ばかりを気にして自分のホンネがわからなくなってしまった。
でも、中学生のとき、生徒ひとりひとりのことをしっかり理解しようとしていろいろ話しかけてくれる先生に出会って、自分の人生は大きく好転した……。

こういった具合に、個々の出来事を単に並べるのではなく、個々の出来事に今の自分につながる意味を与えつつ「自己物語」を綴っていく。それを促す方法が「自己物語法」である。

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文脈を読み取り“出来事の流れ”を掴む

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