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社会

なぜ日本の中高生は挙手ができなくなったのか?

太田肇(同志社大学教授)

2022年12月20日 公開

 

「空気」はプラスに働くときもあるが...

ただ誤解してはいけないのは、空気や同調圧力は必ずしも「何もしない」ように作用するとはかぎらないということだ。ときには逆に、圧力が行動する方向に働く場合もある。象徴的な例を紹介しよう。

大学では毎年、4月に新入生を対象にした少人数の授業が始まる。最初はクラスの空気が定まっていないので、学生たちはどう振る舞ってよいかわからず、何をするにも少々戸惑い気味だ。とりあえず大人しくしておこうという感じである。

そんななかで空気を読もうとしない学生が突然、自分の意見を主張したり、ウケを狙った発言をしたりすることがある。すると周囲から冷たい視線がその学生に注がれ、教室にシラッとした空気が流れる。

以後、本人はもちろん他の学生も自分から発言しない沈黙のクラスになる。これが典型的なパターンだ。

ところが、たまに留学生や帰国子女がクラスに二、三人混じっていて、彼らが臆せず発言し続けることがある。彼らはあまり空気を読まない。というより読んでもしたがわないので、少々奇異な目を向けられても平気だ。

そのうち他の学生もつぎつぎと自分の意見を言うようになる。発言しても大丈夫、あるいは逆に発言しないと恥ずかしいような気持ちになるのだろう。明らかに空気が変わるのだ。

ここには集団内の空気が濃く、同調圧力が強い社会において、「何もしないほうが得」な構造を変えるためのヒントがあるように思える。

たとえば先ほど紹介した甲子園球場の出来事にしても、近くの人が倒れたら助けに行くのが当然という空気ができたら、指示されなくてもみんなが生徒のもとへ駆け寄るようになるのではなかろうか。

しかしもう一段深く考えるには、いずれの例も空気にしたがって行動したという点を見逃してはいけない。一見すると自ら発言し、自発的に行動しているようでも、ほんとうに自らの意思と判断で発言し、行動したのとは明らかな違いがあるといえよう。

 

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