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注目を集める「墓じまい」...都市部と地方で温度差がある理由

釋龍音(僧侶)

2023年02月13日 公開

近年多くの人が頭を悩ませる「お墓」問題。管理が難しく、墓じまいを選択する人も増えています。時代の移り変わりと共に変化する、お墓の在り方、そして新たな選択肢として注目を浴びている「納骨堂」について、僧侶の釋龍音さんが解説します。

※本稿は、釋龍音著「多様化するお墓 尼僧が伝えたい令和の弔い方」(インプレス)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

実家の墓じまいを希望する人の増加

地方から上京し、就職、結婚して子どもができると、実家から足が遠のきがちです。やがて親のどちらかが入院したり要介護になったり、亡くなったりして、遠距離でも実家に駆けつける機会が増えていきます。

そうして、もう一人の親を見送る時が来ます。あなたが一人っ子なら一人で、きょうだいがいるなら協議しながら、実家の片づけ、家屋の処分、仏壇の廃棄、相続の問題など、さまざまな手続きに追われ、かなりのエネルギーを注ぎ込んで一つ一つ解決していくのです。

そのような地方出身の中年夫婦・高齢夫婦、未婚の中年、独身の高齢者にとって、避けて通れないのがお墓の問題です。

実家に帰った時に先祖代々のお墓(累代墓)へ参ったことはあっても、菩提寺との付き合いがなかったり、住職と顔見知りではない場合、お墓を引き継ぐのが億劫になっても不思議ではありません。

あるいは、公営や民営の墓地に親が眠っている場合も、そこが現在の居住地から遠ければ、お墓参りのためだけに帰省するのは億劫というのが多数派でしょう。

生まれ故郷の地縁を大事にしている人は別かもしれませんが、都心の生活に慣れ親しんだ中高年にとって、累代墓を守るのは、頭の痛い問題のはずです。

とはいえ、息子・娘である自分はまだ親のお墓を守るのにやぶさかではないが、自分自身がこのお墓にやがて入るのかと考えた時、子どもたちに墓参りの負担はかけさせたくないというのが人情。

そうなると実家のお墓を閉じて、自分の子どもたちに無理をさせないかたち、つまり「墓じまい」が解決策として浮かび上がってくるのです。

家督を継ぐのが長男とされていた時代を経てなお、昭和から平成のリーマンショックあたりまで、ごく普通に「○○家の長男が先祖の墓を引き継ぐもの」という意識が日本人に刷り込まれていたと思います。

しかし戦後、急激に進んだ核家族化により「家制度」が空洞化し、社会的魅力を失うと、「先祖代々の○○」という考え方そのものが古くさくなっていきます。

○○家の長男は菩提寺の檀家・門徒であり、喪主として葬儀・法要をそこで執りおこない、法事のたびに親戚が集まって会食、住職とも談笑し、お供物をはずみ、立派な仏壇にはいつも花が生けられている...。

実は、このような景色は、私の実家のような地方ではまだ普通なのですが、東京にいると温度差を感じずにはいられません。

さらに少子化とコロナ禍が変容を加速させました。もっともコロナ以前から、子どものいない夫婦や、いても娘だけという夫婦、未婚・独身(離婚した人を含む)の中年は増え続けています。

 

増える一人世帯と「多死社会」

地方出身者の都市流入について触れておくと、日本人の総人口は1億2483万人(総務省統計局「人口推計」2022年10月1日現在)で、11年連続で減少。出生数(1年間に赤ちゃんが生まれる数)は81万1622人(厚生労働省「人口動態調査」2021年)で、明治32年の調査開始以来、過去最少となりました。

けれども一方で、東京圏では人口増加が続いており、2018年では約3658万人(国土交通省「東京一極集中の現状と課題」)、これは全人口の約3割にあたります。これに名古屋圏と関西圏を合わせた三大都市圏の人口は、全人口のおよそ5割に相当、著しく都市部に人が集中しているのがわかります。

東京圏とは法律で定義された用語ではないのですが、東京、神奈川、埼玉、千葉の東京都心から50~70キロメートルの範囲内にあるエリアを指します。つまりそれだけ仕事(雇用)が都市部に集中しているということでしょう。

次に、結婚についてですが、婚姻数は50万1138組(厚生労働省「人口動態統計」2021年)で、これまた戦後最少を記録。最も多かった1972年の約110万組の半分になりました。

一般に団塊の世代と言われるのは1947~1949年(昭和22~24年)に生まれた人たちで、終戦からほどなく日本はベビーブームが起こりました。この団塊の世代が結婚適齢期を迎えたのがだいたい1970年代の初め頃で、これは最多の婚姻数を記録した1972年とも合致します。

万国博覧会が日本で開かれたのは1970年、大阪の地でした。筆者もこの年、初めて新幹線に乗り、家族4人で万博見物に出かけました。

岡本太郎の太陽の塔はよく覚えていますが、それ以上に印象に残っているのは、月の石を見るために並んでいるうち気分が悪くなり、救護テントで休むはめになったこと。父親は娘より見物優先で、そのままはぐれ、夜の閉場時間まで会うことができませんでした。

まさに高度経済成長まっしぐらの時期、日本には明るい未来しか見えておらず、1979年にはエズラ・ヴォーゲル博士著『ジャパン・アズ・ナンバーワン』がベストセラーとなり、1980年代のバブル期へと突入していくわけです。

さて、人口が減り、結婚するカップルも減少すると、未婚・独身者の数が増えるのは必然と言えます。

「令和2年国勢調査」(総務省統計局)によると、日本の総世帯数は5573万世帯で、人口は減り続けているにもかかわらず、世帯数は増加しているのが特徴です。1世帯(1家族)あたりの人員は2.21人で、これも縮小の一途をたどっています。

注目すべきは世帯人員が1人の「単独世帯」が約2115万世帯と、最も多いこと。独居老人の問題がクローズアップされるのも当然です。

未婚率に関しては、男性の生涯未婚率が28.3%で、4人に1人は独身という割合を切っており、この数字は1980年の2.6%と比べると、恐ろしく増えていることがわかります。

一方、女性は17.8%。補足しますが、配偶者と死別・離別して現在は独身である人は含まれません。生涯未婚率とは文字どおり、生涯結婚しないであろう人の割合を算出したものです。

さらに、お葬式やお墓の問題をより複雑にしているのが、離婚です。

2020年(令和2年)の離婚件数は19万3251組で、増えてはいません。前述した婚姻数が約50万組ですから、ざっくり5分の2が離婚していることになります。

かく言う私もバツイチの尼さんなのですが、離婚について言うと、同居期間が長い夫婦の離婚、すなわち熟年離婚が増えている点に注目したいと思います。

同居期間別に見た離婚件数のうち、20年以上同居した夫婦の場合、1985年(昭和60年)が2万434件=全離婚件数の12.3%だったのに対し、2019年(令和元年)では4万395件=20.8%になっています。

婚姻期間35年以上の夫婦に至っては、昭和60年が1108件だったのが、令和元年は6361件と5倍以上になっているのです。

「おまえ百まで、わしゃ九十九まで。共に白髪の生えるまで」と、仲良く歳をとる夫婦もいる一方、そうではない夫婦もいるということ。私自身もそうですが、まぎれもなく現代の世相を生きているということです。

これらの離婚の状況は、お墓のことにも大きく関わってきます。

というのも、女性は離婚すると、元夫のお墓(嫁ぎ先のお墓)には入れず、生家(自分が生まれた家)のお墓にも入りづらい立場になります。

きょうだいの誰かが生家を継いでいて、お墓の骨壺保管スペース(カロートと言います)に余裕がある場合はともかく、一度家を出た人間(俗に言う、出戻り――私もです)が実家のお墓に入るのは躊躇してしまうのが現状ではないでしょうか。

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遠くのお墓より近くの納骨堂

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