「50年以上賃貸」「葬儀費用は22万円」お金の心配をしない老後ひとり暮らし
写真:林ひろし
人は誰もが平等に年を重ねるが、貯金・年金・介護と、迫る老後の生活に不安を覚え、早い段階から準備をする若者が増えていると聞く。世の中で囁かれているほど、老後は怖いものなのだろうか…。
「お金の怖さについては知っているつもりです。だから、借金はしない。「あるお金でやっていく」という思いがありました」そう語るのは、孫が撮影する「Earthおばあちゃんねる」で登録者数6万人の人気シニアYouTuber・多良美智子さん。
87歳の現在も50年以上住む古い団地で、愉しいひとり暮らしを続ける美智子さんに、希望に満ちた「おひとりさま老後」のコツを聞いた。
※本稿は、多良美智子著『87歳、古い団地で愉しむ ひとりの暮らし』(すばる舎)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
「家はいらない」身軽で気軽な団地暮らし
今の団地に住んで55年。ずっと賃貸です。
商家に育ったので、良いときも悪いときも知っています。悪いときは食べるものにも困るほど、浮き沈みのあるものでした。
お金の怖さについては知っているつもりです。だから、借金はしない。「あるお金でやっていく」という思いがありました。
家を買おうと思ったことは一度もありません。
周囲はみな持ち家でしたし、昭和の時代は「マイホームを持ってこそ一人前」という風潮もありました。でも、住宅ローンを組み、その返済に追われるのが嫌だったのです。
夫が「家を建てようか?」と言ってくれたこともありましたが、「ここがいいの。家はいらない」と答えました。
借金はしないし、財産も持たない。お金をかけるなら、子どもたちの教育にかけたいという気持ちでした。
都心から離れた場所にある団地は、家賃が安く、とても助かりました。賃貸は身軽で気楽です。
団地では、設備が壊れたら修理をしてくれるので、管理がラクです。お風呂は住んで10年経ったとき、最新のものに交換されました。家賃は3000円上がりましたが、シャワー付きを選ぶことができました。
1970年代のことです。とても助かったのを覚えています。その後、トイレもウォシュレット付きに変えました。
持ち家ではないので、私の死後、遺産相続で子どもたちがもめることがないのも、いいですね。
普段の生活も、無駄なお金は使わないように心がけてきました。夫は普通のサラリーマンでしたから、贅沢はできません。家計は任されていたので、節約するところはしっかり節約して。
使うなら、食べ物など、好きなものに使いたいと思っていました。とはいえ、私が作るものは庶民的なおかずばかりで、高級食材を買ったりはしませんでしたが(笑)。
大好きなおしゃれや習い事、旅行などにも、工夫しながら費用を捻出しました。
使うところ、節約するところにメリハリをつけ、どうにか乗り越えてきました。
わずか22万円?葬儀は残された人の気持ち次第
夫のお葬式は、自宅で家族葬にしました。祭壇も作らず、22万円ですみました。
以前、新聞に家族葬の記事が載っており、「こんなふうにしたい」と取ってありました。それを葬儀屋さんに見せたところ、「できますよ。こんなプランはどうでしょう?」と提案してくれました。
けれども、当初のプランには様々なオプションがつき、もっと高額でした。そうしたら、娘が葬儀屋さんに「母はこれからひとり暮らしをしていくので、節約をしないといけないんです」と言ってくれました。
娘と長男で「狭くて祭壇は置けないのでいらない」「花と写真はこちらで用意します」「お通夜はうちでやるからいらない」とどんどん内容を削っていったら、22万円になりました。
娘は、夫が亡くなる前に3件ほどお葬式を取り仕切り、お金をかけずにできることがわかっていたようです。
私と子どもたちとその家族だけの、完全な家族葬だったので、夫の思い出話をしながら、気を使わず、みなで賑やかに送ることができました。
お葬式にはお坊さんも呼ばず、戒名もなしです。九州にいる私の姉妹には、四十九日が終わってから伝えました。
みんな高齢で、飛行機で来てもらうのは大変なので、これでよかったと思います。その点でも、お金がかからずにすみました。
仏壇は元々、亡くなった夫の母の写真を飾りたいなと思い、狭いわが家に合うものを探し、購入してあったものです。小ぶりで目立ちすぎないデザインが気に入っています。扉は引き戸になっています。
「22万円でお葬式をした」と言うと、誰もが驚きます。なかには、「300万円かかった」と言う人も。
見送り方は、残された人の気持ち次第ですね。私も夫のように、お金をかけずに家族だけでひっそりと見送ってほしいと思います。
お墓については、私は不要と考えていました。海にでも散骨してもらえればと。でも、長男に「お墓がないと、きょうだいの縁が薄れる」と言われ、なるほどなと思いました。
そこで、夫がまだ存命のときに、「私たちはどこでもいいよ。あなたたちがお墓参りに行きたいと思える場所を探して」と子どもたちに伝えました。
すると、海の見える、山の上の霊園を選んでくれました。見晴らしがよく、素敵な霊園です。
車でないと行けないような場所なので、夫のお墓参りには子どもたちに車で連れて行ってもらいます。でも、手元に分骨しており、毎日仏壇に手を合わせているから、「頻繁に行かなくてもいいのかな」と思っています。