ストレスへの対処と聞くと、旅行や買い物といった「気晴らし」を思い浮かべる人も多いはず。
しかし、カウンセラーとして人気を集める伊藤絵美氏は、ストレス対応には傷ついた心をケアする「コーピング」や、自身の状態を客観視するための「マインドフルネス」こそが不可欠だと指摘する。(取材・構成:辻由美子)
※本稿は、『THE21』2023年3月号特集「心が強くなる! 『メンタル』整理術」より、内容を一部抜粋・編集したものです。
ストレスの程度を数値化してみる
ストレスとは、心や身体に降りかかってくる刺激に対する反応のこと。私たちは、常にストレスの原因=ストレッサーにさらされながら生きています。
しかし、ストレスをなくすことは不可能です。ストレスをなくす=ストレッサーに反応しなくなる状態など、ほぼ死んでいるようなもの。それを目指すよりは「疲れた心をケアする」ことを考えていくほうが良いでしょう。幸いなことに、心身の不調は自分でもケアすることが可能です。
ではどうしたらストレスを「セルフケア」できるのか。まず大切なことは、自分にどんなストレスがかかっているかを知ることです。ストレスの原因が何かわからなければ、対処のしようがありません。
ですので、まずは「ものさし」で、自分のストレス状態をチェックしてみてください。日々の生活に何の文句もない状態を0、毎日死ぬほどつらい状態を100とすると、今の自分はどれくらいの状態にあるでしょうか。
重要なのは、これを頻繁に、できれば毎日行なうことです。現に私も、毎日熱を測るのと同時にこれを済ませています。つらくなってから自分の状態を正しく把握するのは難しいもの。ストレスにおける普段の「平熱」を知っておくことが、異常を察知するうえで大切です。
特に、頑張り屋の方は「これくらいで弱音を吐くのは気合いが足りない」と無理をして、ものさしにも強気の数字を出してしまいがち。しかし、それではせっかくの継続も水の泡です。
今のご時世、高熱が出ているのを見なかったことにできないように、ストレスも「ありのまま」を記録するのが大切なのです。
自分が今どの程度のストレスを受けているか、その状態に目を向けるのが「セルフケア」の第一歩と心得ましょう。
ストレッサーの「外在化」が対応の効果を左右する
ストレッサー(およびストレス)の存在やその大きさに気づけたら、次はその都度それを書き出してみてください。「今、自分は怒っている」「原因は、上司のあのひと言だ」など、実際に言葉にしてみるのです。
口に出すだけでもいいですが、可能であれば手帳やスマホのメモに書き出すほうが、自分の状態をより客観視することができます。
このように「心身の状態を外部の媒体に出力すること」を心理学用語で「外在化」といいます。一時的にはストレスを思い出して再びムカついてしまうかもしれませんが、それでも「外在化」したほうが心身の状態は改善されるもの。このことは科学的にも広く実証されています。
ストレスを自覚したら「コーピング」でケアしよう
自分のストレス度合いを自覚したら、あとはそれに応じたケアにつなげることが重要です。
心理学では、ストレスへの対処法(心をケアする手法)のことをまとめて「コーピング」と呼びます。ここでは、この「コーピング」における基本的なポイントをご紹介しましょう。
第一に、コーピングは「今、コーピングとしてこれをしている」と明確に意図して行なってください。例えば、怒りに任せて怒鳴り散らすような無意識の行動は「コーピング」ではありません。無意識の反射的な行動は、たいてい根本的なストレスケアにはならないものです。
また、二番目の注意点として「新たなストレスの原因となるようなものを避ける」ことも挙げられます。例えば、ヤケ酒をして翌日二日酔いで自己嫌悪に陥ってしまったら、それこそ本末転倒ですよね。気分を上げるためにお酒を飲み、心地良い気分で眠りにつくならまだしも、翌日に響くような飲み方は「コーピング」とは呼べません。
加えて、三番目として「コストがかかりすぎるもの」も避けてください。妙に高価なものを買ってみたり、贅沢な旅行をしたりといった行動は、ヤケ酒同様に「その後」の揺り戻しが大きいもの。
贅沢気分を味わうなら、入浴剤やアロマで少し奮発するくらいの、費用がかさまない方法を選びましょう。ウインドウショッピングもお勧めです。
また、どんな行動がコーピングとして効果を発揮するかは人それぞれ。ストレスを感じてからケアの手法を模索するのは手間ですし、気力も続きませんから、普段から自分に合いそうな方法を探し、自分用のコーピングリストとしてストックしておくのがベストです。
実際に効くかどうかは、一度試せばわかること。今のうちから自分の「心のケア」につながりそうなことを書き出しておきましょう。
ちなみに、私はこのリストをファイルに入れて持ち歩いています。リストを見るだけでも「私にはリカバリーの方法がこんなにある」というリカバリー効果が期待できますし、実際にストレスを感じたときもすぐ試せるので便利です。
これこそ、携帯のメモなどにリストアップしておいていただけたらと思います。