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「他人のせいにしない子」を育てるには“経営教育”が有効な理由

岩尾俊兵(應義塾大学商学部准教授)

2023年05月15日 公開

岸田政権では先日新しい資本主義実現会議を行い、終身雇用からジョブ型雇用など、経済機構の変化に対応するように、リスキリングの推進をする旨発表しています。それに伴い、文部科学省でも金融教育や起業家を育てるアントレプレナーシップ教育などの義務化に注力しています。

現在は、高度経済成長期を経て緩やかに停滞した日本社会のこれまでの構造に安寧している人、時代の変化を感じ取り、焦燥に駆り立てられている人などが混在し、端境期ともいえるかもしれません。

経営学者の岩尾俊兵さんは、そんな時代に生きる力として「経営」の知識を皆が等しく身につけることの重要性を訴え、特にこれからの世の中を支えていく子どもたちに向けて、物語形式で、起業・マーケティング・株式など経営に関する知識がわかりやすく学べる『13歳からの経営の教科書』(KADOKAWA)を上梓しました。

また、小学校・中学・高校・大学の学校教育現場から社員研修にまで使える経営教育/起業家教育の教材を無償で配布・公開しています。本記事では、その教材から一部をご紹介します。

※本記事は経営教育の民主化のために、『13歳からの経営の教科書』を基に新たに書き下ろした「経営教育実践マニュアル・教科書ガイド」からの抜粋です。

 

いまの社会に必要なのは「経営の心と知」

現代は、技術発展と環境負荷は急速に進み、複雑で不確実で先行きの見えない社会でもあります。こうした複雑で不確実な社会では、一人の能力で対処できる問題はほとんどありません。

だからこそ「異なる知性と感性を持つ他人の力を借りる力」すなわち「経営の心と知」が、これからの社会を生き抜くために必須になります。

いまの社会に必要なのは、すべての人が経営の心と知を持ち、互いに建設的な意見を出しあい、協力し、高い目標に向かって進んでいくことです。そしてそれは、経営の心と知に関する教育が、誰にでも、無料または非常に安価に(一生のうちで数千円程度で)、開放されることで達成されます。

このことを私は「経営教育の民主化」「イノベーションの民主化」「マネジメントの民主化」「価値創造の民主化」などと呼んでいます 。

すなわち、日本中、世界中の学校、家庭、職場などで、こうした経営教育がおこなわれ、まずは日本が、その先に世界が今よりもっと豊かになることが究極の目的です。

経営教育の民主化によって、アイデアのある人が、他者の力を借りやすく、アイデアを実現させやすくなるということです。もちろん、すでに「私はいまも経営者だ。大きなお世話だ」と思う方も大勢いらっしゃると思います。きっと普段から頑張っておられる経営者や経営者候補の方だと思います。

しかし、そうした方々はきっと「従業員や家族がもっと経営の心と知を持ってくれれば、経営の問題を建設的に議論できるようになれば、今よりもっと楽なのに」と思ったことも多いのではないでしょうか。

それに、せっかくの経営の心と知を子孫にも未来にも残さずに自分だけでとどめておくのはもったいないことです。

だからこそ、経営の心と知をまだ十分に持っていない人には経営教育の必要がありますし、すでに経営の心と知を持っているという人にとっても経営教育の担い手になる必要があるわけです。

経営教育の民主化は、経営教育を受ける人の一人一人にも下記のような利点があります。すでに経営の心と知を持っていると自負する方々も、周囲がみんな下記のような心構えになれば、非常に建設的で創造的だと思われるのではないでしょうか。

それは、①自分が人生を経営しているという考え方を持つことで、他人も自分も責めずに済み(悪いのは自分でも他人でもなく、経営のやり方だったと思える、ということです)心豊かになる、②目標に対する成果が得られやすくなる、という利点です。

どんな人も、考え方を変えれば「自分の人生株式会社の社長」です。たとえば、一見経営とは何も関係がなさそうな受験でさえ、きちんとプロジェクト管理をしている人とそうでない人とでは、成果に大きな差が出ます。もちろん、仕事は言うまでもありません。

人生を経営するという視点を持てば、たとえ周囲の目からは失敗した場合にも、それは失敗ではなく「成功のために必要な失敗経験を得る」という必要な一歩だと思えるようになります。

また、人生において「ひとのせい」にする気持ちが減ります。誰の目にも「ひとのせい」なことは、実際にはたくさんあります。でも、自分にとっての目の前の問題が「ひとのせい」ならば、その解決方法は誰が持っているでしょうか?

当然その「ひと(他人)」です。「ひと(他人)のせい」なのだから論理的に当たり前です。

しかし、人生において、解決方法が他人に握られているというのは気持ちのいいものではありませんし、幸せとはいえません。

そこで、「経営」を学べば、「ひとのせい」だったものを「自分で解決できる方法」を思いつきやすくなります。他人にすべてを決められず、問題を解決する楽しみを得ることもできます。その上で、目標や夢だって実現しやすいでしょう。

このように考えて、家庭や学校や塾や地域活動などで大人が子供に経営を教えるための教育マニュアルを公開することにしました。たとえば、次の2つの例のように、このマニュアルに書いている授業案を子供たちに読んであげてマニュアルについている設問を一緒に考えて頂くだけでも、経営教育の第一歩になると思います。

 

どうしてロースカツカレー弁当は「材料の合計」よりも高くなるの?

みなさん、「ビジネス」という言葉をきいたことはありますよね。じゃあ、ビジネスとは何かについてきちんと説明できるひとはいますか? たとえば次のようなこともビジネスの第一歩ですよね。

ロースカツとカレーとご飯とプラスチック容器をどこかから買ってきて組み合わせます。ロースカツは300円くらい、ご飯とカレーは100円くらい、プラスチック容器は10円くらいで買えます。もちろん、カツとご飯とカレーを自分で作ればもっと安くなります。

この4つを組み合わせると「ロースカツカレー弁当」ができあがりますよね。このロースカツカレー弁当なら、カツとカレーとご飯と容器それぞれの値段の合計よりも高く買ってくれる人が出てくるかもしれないと思いませんか。

実際、カレー屋さんのロースカツカレー弁当は1000円くらいします。カツとカレーとご飯とプラスチック容器という部品ただ組み合わせただけなのに、買ってきた部品より値段が高くなるのってちょっと不思議だと思いませんか。

これもビジネスのひとつです。では、なんで部品を組み合わせただけで、元の値段より高くなったと思いますか? それは、部品を組み合わせることで、これまでなかった価値が付け加わったからです。

価値というのは、具体的には、部品が組み合わせられることで幸せを感じる人が増えて、または幸せの量が増えて、その人がその幸せの分をお金で支払ってくれたということです。ロースカツカレー弁当にすることで喜んでくれる人が増えるということです。

だとすれば、ビジネスとは、目の前の人を一人ずつ幸せにすることとも言えます。どこかからモノを手に入れて、何かの変化を加えて、またどこかに売ること。これがビジネスです。大事なのは、そのときに必ず何らかの価値を付け加える必要がある、ということです。

もちろん、ビジネスはお金儲けだけではない。お金があまり儲からない、あえて儲けないビジネスもあります。たとえば教育や医療はその代表例です。こういった、お金よりも社会貢献を大事にするビジネスをソーシャルビジネスと言ったりします。

「じゃあビジネスって経営とほとんど同じじゃないの?」と思った人は相当するどいです。

でもビジネスと経営は同じではありません。経営というのはビジネスを成り立たせ、さらにビジネスを上手く運営するために必要な考え方と行動のことを指すからです。

具体的には、経営とは、目標を立てて、その目標を実現するための手段を考えて、それを実行して、さらにこの3つを修正しながら何度も繰り返すことを言うからです。

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「砂」を売るにはどうすればいいだろう?

著者紹介

岩尾俊兵(いわお・しゅんぺい)

應義塾大学商学部准教授

慶應義塾大学商学部准教授。平成元年佐賀県有田町生まれ、父の事業失敗のあおりを受け高校進学を断念、中卒で単身上京、陸上自衛隊、肉体労働等に従事した後、高卒認定試験(旧・大検)を経て、慶應義塾大学商学部卒業、東京大学大学院経済学研究科マネジメント専攻博士課程修了、東京大学史上初の博士(経営学)を授与される。

大学在学中に医療用ITおよび経営学習ボードゲーム分野で起業、明治学院大学経済学部専任講師、東京大学大学院情報理工学系研究科客員研究員、慶應義塾大学商学部専任講師を経て現職。

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