孫正義のエネルギー革命 「アジアスーパーグリッド構想」
2012年06月28日 公開 2024年12月16日 更新
※本稿は自然エネルギー財団監修『孫正義のエネルギー革命』(PHPビジネス新書)より一部抜粋・編集したものです
アジアスーパーグリッド構想とは
自然エネルギーにシフトしなければならないというのは、すでに国民のコンセンサスと言えます。2011年8月には「再生エネルギー特別措置法案」も国会を通過し、日本政府としても自然エネルギーの普及に向けて舵を切りはじめました。
いまこそ我々は新しい代替エネルギー、新しいエネルギー政策を考えるべきで、そのために政策決定者、マスコミ、国民が意見を交わし、議論を高めていかなければなりません。そして私が自然エネルギー推進のために本書で提唱したいのが、「アジアスーパーグリッド(高圧直流送電網)」構想です。
アジアの国々をケーブルでつなぎ、自然エネルギーで発電した電力をやりとりするというもので、これが実現すれば自然エネルギーの弱点と言われる「コストが高い」「大量に電力を供給できない」「不安定である」という問題は、すべて解決します。
たとえばモンゴルのゴビ砂漠では一年を通して素晴らしい風が吹き、太陽が照っています。この風力と太陽光を使った電力の潜在量は2テラワットにのぼり、今日の世界的な電力需要の3分の2に匹敵する量です。
アジアだけなら、これだけで全体をカバーすることも可能なパワーです。そして、モンゴルと日本をスーパーグリッドでつなげば、日本の電力問題はいっきに解決します。
もちろん1カ国に依存するのは危険で、ほかの国々から電力を調達することも考える必要があります。
アジア全体を見回すと、電力についてさまざまな可能性があることがわかりました。たとえば電気料金ひとつとっても、ブータンでは1キロワット時あたり2セントです。
これは日本の電気料金のわずか1割に過ぎず、しかもブータンでは電力が余っていて、国内で使い切れない電力をインドに売っているほどです。もしブータンと日本がつながれば、日本がこの安い電力を使うことも可能になります。
アジアの国々で自然エネルギーを使った発電を行い、発電した電力をアジア中に張り巡らせた送電線網を使って融通しあう。実現すれば日本だけでなく、アジアの国々が抱える電力に関する悩みは、いっきに解消します。
あるいは日本国内でも今後、素晴らしい太陽光発電の技術が開発され、安価で大量の電力を供給できるようになるかもしれません。この電力をアジア各国に売り、日本が電力の輸出国になる可能性もあるのです。
荒唐無稽な話と思う人もいるでしょうが、じつは目を転じるとヨーロッパでは、すでにかなり緻密な送電線網が構築されています。
隣り合った国同士をケーブルでつなぎ、自然エネルギーで発電した電力をやりとりしあうことは、すでに当然のように行われているのです。
陸続きでなくとも、海底にケーブルを敷き、電力をやりとりしている国々もあります。ヨーロッパでできるのであれば、アジアでもできるはずです。
完全なゼロからのスタートでなく、ヨーロッパに先行事例があるのは頼もしいかぎりです。この構想を進める中で、ヨーロッパの人々が得た成果も取り入れながら、アジアに一刻も早くスーパーグリッドを築き上げたいというのが、目下の私の願いです。
すでにモンゴルをはじめ、アジアやヨーロッパの人たちとの話し合いも進めています。
私は政治家ではなく、実業家です。実業家としてこの構想を事業として進めていきたいと考えています。たんに夢見るのでなく、実際に行動していけば、たとえ志半ばで倒れたとしても、「危険なエネルギーは使わない」という思いを持った人がいる限り、誰かがこれを続けてくれるでしょう。
ビジネスで一番難しいのは、購買者を見つけることです。購買者さえ見つかれば、物事はうまくつながります。電力の場合、アジアから見れば高い電力料金を払い、かつ脱原発に向かおうとする日本は、最大の購買者と言えます。
逆に言えば、アジアスーパーグリッドが実現したときの最大の受益者は、自然エネルギーによる安全で安定した電力を安価で購入できる日本になります。
日本がリーダーシップを取り、「我々が買います」と宣言してアジアスーパーグリッドを構築していけばいいのです。アジアの国々にとっても輸出のチャンスを提供でき、まさにウィン‐ウィン(どちらも勝つ)の関係が成り立つのです。
ウィン‐ルーズ(一方が勝ち、一方が負ける)であれば、抵抗したり、文句を言う人々が現れるでしょうが、ウィン‐ウィンの関係が成り立つのなら、必ずいつか人びとの理解を得られるものです。