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マスク事業参入で大赤字...「まずはリサーチ」で始める事業が失敗に終わるワケ

内田和成(早稲田大学名誉教授)

2023年08月10日 公開 2023年08月10日 更新

 

「まずインプット」では成果が出ない理由とは?

だが、「情報のインプット→それを踏まえてのアウトプット」という流れは、多くの人の中に染みついている。

例えば、新規事業や新商品開発の際、「まずは市場のリサーチから始めよう」というケースはいまだに多い。

「調査の結果、世の中には大きく分けてAニーズ、Bニーズ、Cニーズがあり、一番数が多いのはAニーズだということがわかった。それに向けた商品を考えよう」という流れだ。これはまさに「インプット→アウトプット」というプロセスである。

だが、現在は不連続な時代だ。売れた商品の後追いをして成功する確率は大幅に下がっているし、顧客の顕在化されたニーズを追うよりも、今まで世の中になかった斬新な発想こそが求められる時代でもある。こうした「インプット」から入るアプローチでヒット商品が生まれる可能性は、限りなく低くなっている。

さらに言えば、なんの仮説もなく「とりあえず市場を調査する」というアプローチでは、調査範囲も広くならざるを得ない。男性に聞くのか女性に聞くのか。どのくらいの年齢層の人に聞くのか。あらゆる性別のあらゆる年齢層にあらゆる質問をするとなると、当然、時間もコストもその分増える。

「まず、なるべくたくさんの情報を集め、整理する」というスタンスでは、差別化が難しいどころか、時間もお金も無駄になる。つまり、競争力を失う要因ともなり得るのだ。

 

誰が「コロナ禍」や「ロシアのウクライナ侵攻」を予想できたか

「なぜインプットから入ってはいけないのか」について、もう1つ述べておきたいことがある。それは、世の中がどんどん「不確実な時代」になってきているということだ。

今までの常識が全く通用せず、「まさか」と思っていたことが次々と起こるのが現代だ。例えばほんの数年前、新型コロナウイルスのパンデミックによりマスクをしなければ外出できない時代が来るなどと言えば、誰もが冗談だと思ったことだろう。

「ロシアがウクライナに軍事侵攻する」ことを予想できた人が、どれだけいただろうか。今後も、これまでの常識ではあり得ないと思うようなことが、次々と現実化していくことになるだろう。

同時に、変化のスピードも格段に速くなっている。例えば、コロナ禍の発生直後である2020年の2月頃からいわゆる「マスク不足」が発生し、店頭からマスクが消えるとともに多くの企業や店舗が新たにマスクを扱うようになったが、5月頃にはもう街に在庫が溢れかえっていた。慌ててマスクを扱った会社の中には結局、大損したところもあったことだろう。

不確実性が高まったうえに変化のスピードが速くなったせいで、世の中の変化を予測することが格段に難しくなってしまった。

要するに、最新の情報をどんなに集め、分類したところで、予想もつかないような「まさか!」という出来事が頻発することが、容易に予想できるのだ。

 

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