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たかが段ボール、されど売上100億へ...富山のメーカーが“世界一の称号”を得た理由

橋本淳(サクラパックス株式会社 代表取締役社長)

2023年09月11日 公開 2024年12月16日 更新

富山県を拠点に、段ボールや商品パッケージの製造販売を行うサクラパックス株式会社。現社長である橋本淳氏の就任以降、売上100億円、経常利益7〜8%、自己資本率83%と(2023年7月期時点)約15年で売上を倍増させ進化し続けている。

会社の飛躍を支える包装設計の技術力や社員の基礎力はどのようにして生まれたのか? 橋本氏に聞いた。

 

リーマンショックをきっかけに旧態刷新を決意

――段ボールや業界について教えてください

段ボールはリサイクル率98%と、とても優秀な製品です。古紙を主な原料とし、原紙2枚の間に波型に加工された段ボール原紙を挟み込み糊付けして生産されます。

原料や製造工程ともに高い技術力は求められず、その技術も成熟しきっており、改良の余地はほとんどありません。さらに、輸送用の梱包資材のため、重要視されるのは質よりも納期と価格といったところです。

製造現場では段ボール原紙の独特の匂いや接着時に熱を使うため、夏場の工場は40度近く室温が上がり厳しい労働環境となります。

――サクラパックス株式会社は、どのような会社でしょうか

戦後の復興期に、初代が北陸ではじめて起こした段ボールの製造販売の会社です。富山県を中心に石川県、新潟県の地元産業の輸送を支える段ボールを製造してきました。現在では、包装資材をはじめ、強みである包装設計を武器に世界でNO.1の称号をいただく実績を持つほどの会社となりました。

社長就任当時は段ボール業界特有の性質や先代のワンマン経営のツケもあり、「しょせん段ボール」といった考えを持つ社員が多かったと正直思います。

先代社長(父)は利益の上がる体質の会社を作るため地元経済界とのパイプを太くし、トップセールスで注文をとりワンマンで会社を拡大。おかげで赤字を計上したことはなく、業績も安定していたと思います。

しかし、ワンマン経営が30年以上も続いたことにより一般社員から役員に至るまで社長からの指示を待つだけの指示待ち社員と化していました。

自分の持ち場を守って日々同じことを繰り返し、社長が決めた売上目標を達成すればそれでいい。何のために仕事をし、それが誰の役に立ち、どのような社会的な価値を持つかもわからない。社員らが顧客本位の意識を持ち活動するなど夢の話だったのです。

――業績が悪くなかったようですが、なぜ大規模な社内改革が必要だったのでしょうか

2008年、リーマンショックが起きた年に私は3代目の社長に就任しました。世の中はリーマンショックを機に経済活動を縮小させ、国内でも企業が生き残りをかけて激しい競争に突入した時でした。

実は、GDPの動きと段ボールの出荷量は見事に一致します。なぜなら、梱包資材として需要が高いため、経済活動が縮小すれば、比例して段ボールの需要も縮小します。

リーマンショックの影響や国内の人口減や少子高齢化で内需も縮小の道をたどることは容易に想像できます。飛び抜けた技術や独自の付加価値もなく、仕事への誇りや意義を持てない社員。これでは企業として生き残れない。

強い企業にするために、会社経営の核となり、社員を一丸とする確固とした理念。それと社員の意識を顧客第一に変え、顧客本位のマインドを持った会社にしていかなければと痛感、旧態刷新を決意しました。

 

売上高50%UP、利益4倍、脅威の成長を遂げた取り組み

――具体的には何から始めたのでしょうか

経営とは理念と戦略の両輪で成り立つと考えています。ところが、理念も戦略もない状況では思い描く経営はできません。直ちに社員が向かうべき方向を示す理念の作成とその理念を実現に移す人材や強い組織力を養う必要がありました。

経営について思い悩んでいた2011年、東日本大震災が発災、当時私は被災地支援の活動をおこなっていました。そこで受けた衝撃からその後の人生の指針となる「誰かの笑顔のために生きていく、世の中を笑顔にしていく」という考えに出会います。

この考えが会社の在り方にも当てはまると思った私は、それをベースに50人以上の管理職と共に100年後の会社を考えながら、皆で進むべき方向について意見を出し合う2泊3日の合宿をおこない理念を完成させました。

経営理念は社員全員に浸透させて、自らが理念に基づいた行動を起こしてこそ存在意義があります。

そこで、理念に基づく経営方針と行動様式をまとめた冊子『サクライズムブック』を作成。会議やミーティングのたびに繰り返し内容に触れ理念を腹落ちさせる取り組みを実施しました。

――利益をもたらす会社の強み包装設計の技術力や社員の基礎力は、どのように培われましたか

理念を理解し行動に移す「考える力」がなければ理念の浸透は、難しいです。そこで、社員の基礎力を作る人づくり(教育)と組織力の強化もおこないました。

まず、社員が常に考えて行動する習慣化を養う目的として、清掃をテーマにした活動を行いました。各課のグループで年間の計画をたて、そこから逆算し1ヶ月、1週間の行動計画に落とし込み1週間単位で、できたかどうか、何が足りなかったか、次はどうするか、話し合いながらPDCAを回します。

新入社員や中途入社した人、誰もができる清掃という身近な業務で、考える力をつける訓練をおこないました。

加えて、この「考える力」をベースに各部署のマネージャーが会社の基本経営方針に基づいた向こう半期の方針を作り実施する「ミッション活動」、モノづくりの現場では、品質と生産性の改善を図り収益の向上に繋げる「KAIZEN(改善)活動」を展開。

これら3つの活動は全て1ヶ月単位ではなく、1週間単位でPDCAを回します。短いスパンで回すことで迅速に細かい活動が実施できます。また、活動方針が間違っていればすぐに修正が可能となり、より深く行動に移せる仕組みです。

この活動は"SAKURA経営モデル"と称し日々取り組んでいます。そして、この活動こそが弊社の利益を生む最大のエンジンでもあるのです。

また、社員のやりがいを高めるため社内の人事評価制度も見直しました。見直しでは「納得性」と「やりがい向上」を重視しました。

例えば、半年や年に1回の評価で本人評価と上司評価に違いが出たとしたらどうでしょう。納得できなし、やりがいは落ちます。

そこで、毎月1回の評価面談を行い、十数項目において、本人評価と上司評価の照らし合わせを行います。年間12回、その面談を繰り返すことで上司と部下の評価が一致し、納得性が高まり、やりがい向上につながる訳です。

このような活動を通じて、"顧客第一"の考えのもと試行錯誤と改善を繰り返すことで設計技術の向上をもたらし大幅な成長が実現したのではないでしょうか。

経営で大事なことは、そこまでやるかと言われるまでやることと考えています。そこに秘策はなく、経営理念のもと、作り上げた施策をひたすらじっくりじっくりと浸透させて行くことと考えています。

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世界一の称号を獲得するまでに成長

著者紹介

橋本淳(はしもと・あつし)

サクラパックス株式会社 代表取締役社長

1971年5月 富山県富山市生まれ。1994年3月 法政大学経営学部卒業。1994年紙商社勤務(京都)、1995年から米国留学。1996年11月サクラパックス株式会社入社。専務、副社長を経て2008年5月、代表取締役社長に就任。現在14年目。2011年日本青年会議所 副会頭を務め、防災担当として東日本大震災の復興に取り組む。2022年 富山商工会議所 副会頭に着任。
社長就任後、旧態依然の企業体質にメスを入れ、理念ドリブンで組織を改革。徹底した業務の仕組化とPDCAで顧客本位の会社へ再生。トータルパッケージサービス企業として事業領域を拡大、社会貢献事業も多く手掛け、売上100億円、社員350名の有望企業へ成長。

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