終売の危機の「チョコレート効果」を大ヒットさせた明治の逆転戦略とは?
2023年10月12日 公開 2024年12月16日 更新
「日本人の力なんて必要ない」と言われて...
―売上が低迷しているなかで、色々な試行錯誤をされていきました。
はい。私は製造部門から、カカオの研究や商品開発を行う研究所に異動となり、「チョコレート効果」の担当になっていました。そこでは、食べやすくなるよう仁丹(じんたん)のような小さな粒にポリフェノールを詰めたものや、コーヒーとのマリアージュを楽しんでもらうものなど、食べてもらうための展開をいろいろとやっていましたね。
ポリフェノールは、苦くて渋い成分なので、ポリフェノールが多く入っていると、チョコレートはどうしても苦くなってしまいます。おいしさとポリフェノールのバランスをとらなくてはならない。
その問題を解決するため、世界中のカカオを研究しました。カカオは産地や種類によって、味もポリフェノール量もまったく違うのですが、当時は商社から買ったカカオの中から選ぶしか選択肢がなく、天然物ということもあり不安定。
しかし、もしカカオ自体を自分たちでコントロールできれば、好みの味にコントロールできるのではないだろうか──。
その考えを会社に伝えると「GO」を出してくれたので、そこから中南米の農場へ頻繁に足を運ぶようになりました。弊社の中では私が一番ジャングルに行っています(笑)。
カカオの収穫時期が10月~5月くらいなので約7~8カ月、この間、向こうに1カ月行って、日本に1カ月帰ってくるという生活を約4年間繰り返し、合計1年以上は行っていましたね。
結果、カカオポリフェノール量を多く含みながらも苦すぎず、カカオ本来の華やかな香りと上質な苦味が味わいことのできる今のチョコレート効果ができあがりました。
―実際に現地を訪れたときには、インフラや農業の設備が整っていない状況だったそうですね。
そうですね。インフラなどもそうだったのですが、そのなかでも一番衝撃を受けたのは、仕事の概念の捉え方の違いでしたね。
日本人のやり方はまったく通用しません。「一緒に良質なカカオ豆作りを行うことは、生活を支えることになる」と伝えても、「別に俺たちは困っていない」「日本人の力なんて必要ない」「楽をして稼ぎたい」といった感じです。
しかし、そこで諦めることはしませんでした。
カカオの使われ方を説明したり、実際にチョコレートを食べてもらったり......そうして100軒以上の農家さんをまわり、意を汲んでくれた約60軒の農家さんとカカオ豆作りをスタート。
弊社の長年の研究による知見を使った発酵や加工技術をもっとも簡単にできる方法で現地にインストールし、何度も足を運ぶことで信頼関係を築き、ともに歩むことになりました。この関係性は17年も続いています。
カカオの健康効果のエビデンスを示し、大ヒットへ
株式会社明治食品開発本部長・宇都宮洋之さん
―そのようなご苦労をされるなかで、大ヒット商品への道を模索し続けた「チョコレート効果」に転機が訪れたんですよね。
長い歳月をかけてカカオの研究と真摯に向き合い続けたことで、少しずつお客様に高カカオチョコやそれに含まれるカカオポリフェノールの健康価値が浸透していきました。
その結果、「チョコレート効果」が再注目されるようになり、低空飛行を続けていた売り上げは2015年に、2010年ごろの約10倍にアップ。
カカオポリフェノールはからだにとどめておけないので、1日3~5枚を毎日コツコツ食べるチョコチョコ食べを推奨することで「チョコレート効果」を習慣的に食べる人が増えたことに伴い、大容量サイズや仕事や勉強中にもつまみやすい小粒でリクローズ可能なパウチタイプなどラインアップを増やし、2020年には、200億円を超える大ヒット商品にまで成長しました。
――今後は、「カカオ」を通してどのようなことをされていきたいのでしょうか。
カカオの新たな可能性を提案する今は、カカオの力をチョコレートだけにとどめておくのはもったいないという気持ちがあり、「カカオの有効成分を積極的に摂取していきませんか?」というカカオの新しい可能性を見出していく提案を、私の定年までにがんばってやりたいなと思っています。
その収益をカカオ農家とともに分かち合うことで、彼らの生活水準が上がり、さらによいカカオが生産される環境を整えていく。こういうサイクルが作れれば本望です。