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カウンセラーが説く「家庭内のトラウマ」と「HSP気質」の切り離せない関係

名越康文(精神科医)、武田友紀(HSP専門カウンセラー、公認心理師)

2023年10月20日 公開

 

繊細さを封印して前に進み、ダウンしてしまう人たち

【名越】バリバリ仕事をしているときの武田先生に、一気に限界が来る様子も語ってくれていますが、ちょっとしたサスペンスですよね(※)。今の日本では、かつての武田先生のような状態にある人が下手したら100万人ぐらいいるんじゃないか。そんなことを考えさせられる臨場感がありました。

【武田】忙しすぎると、自分が「つらい」ということすらわからなくなっていくんですよね。前に進むためには「繊細な感覚」を封じておかないといけなくて、そうすると、つらさも感じなくなってしまう。頑張り続けてはダウンするのを繰り返したり、うまく休めなかったり。

これって、私のところに相談に来てくださる方たちにも"あるある"の現象なんです。今回は主に自分の体験を通して、名越先生に「これってどうなんですか?」とお聞きすることができました。

※会社内でも花形の部署、商品開発で仕事をしていた武田さんは、残業につぐ残業で、他部署の人から「武田がそろそろやばいから、なんとかしてあげてください」と上司が忠告されるほどおかしくなっていたそう。そんなある日、朝会社に行こうとしたら涙が止まらなくなり、会社に行けなくなった、というエピソードが本書で語られている。

 

「繊細さん」と「トラウマ」を合わせて知っておく意味

【名越】後半は、いい意味でのリベンジパートですよね。"リベンジ"って日本語だと"復讐"と訳されるけれど、ここでは意味がちょっと違いますね。これからを生きる人たちに対して、かつての武田先生と同じ轍を踏ませない、という意味でのリベンジ。

あるいは、今まさに"焼けた鉄の上を歩いている"人が、自分がどこに立っているのか、早く気づいてもらうというリベンジです。「繊細さん」という名前で興味を持った方も、トラウマに関する章をじっくり読んでいただくことで、新しい知見に触れられる可能性があると思うんです。

【武田】トラウマを抱えていたとしても、それが問題になるかどうかは、人生の時期や環境によって変わるのだと思います。パートナーなどまわりの支えがあったり、自分に合う仕事をすることで、トラウマがあっても問題にならないことがあります。

一方で私のように、長時間労働や子育てなどの環境下で、子供時代のトラウマが表面化することもあります。

ですから、トラウマをどこまで治すのかは、そのときの必要性と相談者さんご本人の判断によると思います。全てのトラウマをなくそうとすると、どこまででも治療が続いてしまいます。大きな困りごとが解消して、今の生活がだいたい穏やかになったら、治療はそこまででいいと思います。

【名越】自分自身が苦しくて負担になったり、対人関係に大きな支障をきたしたりすることが少なくなれば、それが的確なラインだという気がします。そして楽になっていくにしたがって、1日24時間のうち、打ち込めること、興味のあること、そして人と一緒に分かち合える時間を少しずつ増やしていけばいい。

まさに1日も1カ月も1年も、限られた時間に違いないのだから、そういった建設的な時間で埋めていくことで、結果としてトラウマの影響を減少させることになると思います。もちろん、治療を続けたい人は続けてもいいのです。

【武田】トラウマを癒やすには、カウンセラーなどに「話す」だけでは不十分で、実は"体の状態"を変化させていかなければいけません。職場で常に緊張していたり、休みの日も何かしていないと落ち着かない、といった体の状態を変えていく必要があるんです。

じゃあ、実際どうすればいい? どんな治療をするの? みたいな話も、名越先生との対談でご紹介させていただきました。

この本は、「HSPのことを知って少しは楽になったけど、まだつらい」という方に読んでほしいですね。HSPだけではなくトラウマについて知ることで、生きやすくなるヒントが得られると思います。

 

【名越康文(なこし・やすふみ)】

精神科医。近畿大学医学部卒業後、大阪府立中宮病院(現:大阪精神医療センター)にて、精神科緊急救急病棟の設立、責任者を経て、1999年に同病院を退職。引き続き臨床に携わる一方で、テレビ・ラジオでコメンテーター、映画評論、漫画分析など様々な分野で活躍中。著書に『「鬼滅の刃」が教えてくれた 傷ついたまま生きるためのヒント』(宝島社)、『SOLOTIME~ひとりぼっちこそが最強の生存戦略である』(夜間飛行)『【新版】自分を支える心の技法』(小学館新書)『驚く力』(夜間飛行)ほか多数。「THE BIRDIC BAND」のヴォーカル・作詞/作曲者として音楽活動をするほか、完全会員制動画チャンネル「名越康文TVシークレットトーク」も運営中。

 

【武田友紀(たけだ・ゆき)】

HSP専門カウンセラー、公認心理師。自身もHSPである。九州大学工学部機械航空工学科卒。大手メーカーで研究開発に従事後、カウンセラーとして独立。HSPが感性を活かし、のびのびと生きることを大切にしたカウンセリングとHSP向け適職診断が評判を呼び、日本全国から相談者が訪れる。著書に60万部を突破したベストセラー『「繊細さん」の本』(飛鳥新社)、『「繊細さん」の幸せリスト』(ダイヤモンド社)などの“繊細さんシリーズ”がある。ラジオやテレビに出演する他、講演会も開催し、HSPの認知度向上に努める。

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