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THE21書評から

『THE21』編集部

2011年01月21日 公開 2022年08月17日 更新

『ランドラッシュ』

NHK食料危機取材班 著
新潮社/1,575円(税込)

食料危機はくるのか?
日本の農業はどうするべきか?

 TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)への参加をめぐって、国内の農業を今後どうすべきかの議論が盛んになったが、世界の農業は激動している。アフリカの貧困国・マダガスカルの政府は韓国企業・大デ宇ウロジスティクスと、耕作可能地の半分を99年間、無償で貸す契約を結んだ。そのことを2008年 11月に英『ファイナンシャル・タイムズ』紙が報道するや、同国ではデモが頻発し、翌年、政権が崩壊。その後、成立した暫定政府はクーデター政権とみなされて、国際的な承認を得られていない。
 (1)『ランドラッシュ』は、外国に農地を獲得して食料を生産する企業や政府の動きを追う。とくに李明博政権の強い支援で海外進出する韓国と、政府と民間の足並みが揃わない日本とは対照的だ。
 農業といえば農水省だが、本書には農業の海外進出のために奔走する外務官僚が登場する。政府としては、食料危機に備えるという外交戦略上の目的がある。しかし、民間企業としては、食料価格の上昇はビジネスチャンスだが、海外生産した食料を日本に売る必然性はなく、より高く買ってくれる国に売るのが当然だ。
 また、農業の海外進出には「新植民地主義」だという批判もある。発展途上国にとって、経済成長と先進技術導入の機会ではあるが、労働者の搾取も起こっている。
 食料危機への懸念は、2006~08年に食料価格が上昇したことで強くなった。しかし、ほんとうに起こり得るのだろうか。(2)『食料を読む』は、経済(学)的に考えて、あり得ないと説く。「需要が増えているのに供給が増やせないから価格が上昇する」と考えがちだが、「価格が上昇すれば供給が増える」と考えるべきであり、実際、世界の食料生産はまだまだ伸ばせると論じる。
 (3)『「食料自給率」の罠』も食料危機は起こり得ないとし、日本の農業は畜産や野菜に集中すべきだとする。たとえば、小国オランダは、その選択と集中によって、世界最大の農産物純輸出額(輸出額から輸入額を引いた額)を誇る。そもそも、食料自給率の上昇に必要な穀物の生産には広い農地が必要であり、日本には向かない。
「世界では実際に飢餓が起きている」という反論もあるが、それは「政治の失敗」という人災であって、農業の生産量の問題ではないとする。
 また、先進国で食物が大量に廃棄されている現状を描く(4)『世界の食料ムダ捨て事情』を読むと、とても食料危機が迫っているとは思えなくなる。本書によると日本が2001年に施行した「食品リサイクル法」は世界的にみて画期的だったそう。食物の廃棄量を減らすのは、どこの国でも重要な問題。「もったいない」精神の国・日本が世界の食料問題解決に一役買えるといいのだが。(S.K)

『食料を読む』
鈴木宣弘・木下順子 著

『「食料自給率」の罠』
川島博之 著

『世界の食料ムダ捨て事情』
トリストラム・スチュアート 著・中村 友 訳

THE21 最新号紹介

THE21 2011年2月号

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