10月に行なわれた杭州アジア大会で銀メダルを獲得したバスケットボール女子日本代表。最年長の髙田真希は今大会もしっかりと存在感を示し、メダル獲得に貢献した。そんな彼女は、3年前に会社を設立するなど事業家としての顔ももつ。トップアスリートと経営者を両立させる背景にある思いに迫った。
※本稿は、『Voice』(2023年11月号)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
選手とファンが触れ合う機会を増やしたい
――現役の女子バスケットボール選手として活躍し続けている髙田さんですが、3年前に会社を設立された理由は何でしょうか。
高校卒業後、デンソーアイリスに選手として入団した当初は、やはりバスケットボールプレイヤーとして結果を残すことだけに集中していました。とにかく日々の練習や試合の準備に精一杯で、そのほかのことは考えられませんでしたね。
その後、日本代表に選ばれるようになり、国際試合などを経験していくなかで、「自分が好きなバスケットという競技の魅力を、もっといろいろな人に知ってほしい」という想いが心のなかで芽生えるようになりました。
日本国内で行なわれる女子バスケの試合は、残念ながら満員になることはあまりなくて、どちらかと言えば空席が目立ちます。20代後半でリオ五輪に出場したころから、どうすればもっと多くの人に足を運んでもらえるかを考えるようになりましたね。
そこで思ったのが、選手とファンの皆さんが触れ合う機会を増やしたい、ということだったんです。
そうすることで、もともと自分のことを知らなかった人でも「この人、日本代表なんだ」「一緒にバスケをやって楽しかったから試合も観たい」など、次の行動に繫がるかもしれませんから。
選手とファンが交流する場面と言えば、以前は試合会場くらいでした。また、日本代表としても活動していると、オフシーズンのイベントに出向けないことも増えてしまいます。そうした状況を変えようと思い、2020年2月の会社設立に至りました。
――選手生活と会社の経営を両立するうえで、年間ではどんなスケジュールを送っていますか。
女子バスケは国内のシーズンが10月から翌年の4月ごろまでです。その後、約3週間のオフを挟むと、選ばれていれば日本代表としての活動が始まって、8月から10月に重要な国際試合を迎えるサイクルですね。代表に選ばれていなければオフは1、2カ月です。
――代表としての活動もあれば、1年のあいだはほとんど練習や合宿、試合をされているのですね。
だからこそ限られた時間を有効活用することを意識していますし、3週間のオフ期間などに会社のイベントなどを開催しています。また、時期を問わずメディアからのオファーはなるべく受けるようにしていますね。
ただ、自分はあくまでも現役のバスケットボール選手です。ファンの方からすれば、一番観たいのは自分がバスケットする姿でしょうし、期待しているのはコート上での活躍のはずです。
それは自分自身、会社を経営しながらよく理解しているつもりだし、誤解をされたくもありません。現役である以上、選手としての活動を絶対におろそかにしてはいけないと自覚しています。
選手と会社経営の両立で生まれる原動力
――現役選手と会社の代表を兼ねることで生まれる相乗効果はありますか。
ありますね。たとえば、イベントでは自分のことを知らない人と出会うことができます。そうした方たちが試合に来てくれることが多くて、選手としてはとても大きなモチベーションになるんです。
自分がより良いプレイをすることで「やっぱりバスケ選手はすごいな」「また観に行きたいな」と思ってもらいたい。そのためにはもっとプレイの質を上げなきゃいけないし、恥ずかしくないプレイを心がけています。
自分は今年、34歳を迎えましたが、年齢を重ねると体力面で落ちてくる部分もあります。このままのプレイスタイルでいいかなと思うこともあって、それがアスリートとしての引退に繋がるのかもしれません。
でも自分は、たくさんの人と新たに出会い、その人たちのためにももっと上手くなりたいと思っている。すると自然と練習にも熱が入るんですよ。会社としての活動が軌道に乗ることで、アスリートとしての日々の原動力に繋がっていることは間違いありません。