「本当は27番がよかったんですけど...」会見で見せた、大谷翔平とトラウトの関係性
2017年12月、エンゼルスに入団し、メジャーデビューを果たした大谷翔平。6年目のシーズンを迎える今、投打両方の活躍でチームを支える中心人物だ。今や世界が認める超一流メジャーリーガーとなった大谷のデビュー当時を紹介する。
※本稿は、ジェイ・パリス著・関麻衣子訳、『大谷翔平 二刀流メジャーリーガー誕生の軌跡』(&books/辰巳出版)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
メジャーでも変わらない大谷の信念
"ハイ、マイ・ネーム・イズ・ショーヘイ・オオタニ"。
当時もっとも注目を集めていた一人の野球選手がエンゼルスファンにこの6語で自己紹介をした。2017年の暖かな12月9日に行われた大谷翔平の入団会見は、野球史で長く語り継がれることだろう。
日本人の二刀流スター選手である大谷は、並みいるメジャー球団の垂涎の的であり、そんな彼がロサンゼルス・エンゼルスを選択したことは、チームにとって大勝利に他ならなかった。
投げることにも打つことにも秀でた貴重な存在を得た日であることは間違いない。そして大谷は、恥じらいと若さの溢れる第一声で世間に語りかけた。
二刀流の才能は大谷独特のものであり、投手か打者のどちらかに専念したほうがいいという意見もあったのは事実だ。それでも大谷は投打双方に高い能力を持ち、二刀流でメジャーに挑んでいこうという不屈の精神を持っていた。
野球が発展してきた歴史を振り返ると、確かに一つのスキルだけを磨くのが常識となっている。投手としての腕を磨くなら、打撃は控えなければならない。打者として活躍するなら、登板は避ける。どうしてもという場合は最小限に。
ところが大谷があらわれて、インサイドアウトのスイングで逆方向へヒットを打つかのように、この常識を覆してしまった。彼のパフォーマンスは圧倒的で、そのクオリティは二刀流が絵空事などではないと信じるに足るものだった。
もし大谷が、周りから二刀流など諦めてどちらかに専念するよう、説得されたとしたらどうだろう。
「"ピッチャーなのにバッティングもできる"とか、"バッターなのにピッチングもできる"というのを目指しているわけじゃないんです」大谷は北海道日本ハムファイターズで最後のシーズンを迎えるにあたり、共同通信社にそう語っていた。
「そうではなくて、ただどちらもやりたいんです。子どものころから、ずっとどちらもやりたかった。野球を始めたときも、一流のピッチャーになるんだとか、一流のバッターになるんだとか思っていたわけじゃない。いいバッティングをしたい、いいピッチングをしたい。それをいつも望んできました」
その思いは、1919年のベーブ・ルース以来の二刀流選手という触れ込みに周囲が懐疑的な目を向けても、揺らぐことはなかった。
「"ピッチャーに専念すればもっといいピッチャーになれるのに、なぜそうしないんだ"と言われても、僕が言えるのは、どうしてもいいバッターにもなりたいということだけですね」
大谷の偉大さは、ユニフォーム姿で見せるパフォーマンスの質や、160km超えの投球や137m超えのホームラン、そしてそれに酔いしれる大観衆だけで測れるものではない。
心の奥底で、彼は他人と違うことをやってみたいという思いを抱いていたのだ。自分だけの独自の野球をやりたいという、確固たる信念を持っていた。
単純に考えれば、練習時間を投打の双方に半分ずつ割り当てればいい。しかし、大谷は誰よりも努力した。そうすることで、人々の常識を覆そうという大谷の挑戦は、誰も予想しなかった野球を可能とし、周りの意識を変えていくことになった。
大谷の信じられないようなプレーは1世紀近くも人々が目にしていなかったものであり、 それゆえに彼の人気には一気に火がついた。
ファンが大谷に惹きつけられるのは、メジャーリーグという高いレベルの場で彼が新たな挑戦をしているからでもある。彼自身にしか見えないであろう山頂を目指して邁進して いく姿が、人々の心をとらえるのだろう。
大谷翔平の流儀
さらに、大谷独特の"流儀"もまた、称賛の的となっている。
親の目線で見てみると、大谷は非常に礼儀正しい人物であることに気づく。日本の文化をそのままに、大谷は誰かに近づくときに礼をする。それが相手チームのキャッチャーや審判であっても、その日の最初の打席に入るときには礼を欠かさない。
打球がとらえられてアウトとなれば、戻って自分が放り投げたバットを取りに行く。フォアボールで歩く際は、足首、肘、手首からサポーターを外し、綺麗にまとめてバットボーイに渡す。
ところで、メジャーリーガーにはヒマワリの種を食べる習慣がある。大谷もキャンプに参加したときから食べるようになり、味も気に入ったようだった。
しかし、大谷の足もとを見ても種の殻は見つからない。それは試合中、あちこちに動きまわっているせいではない。
礼儀正しい大谷は、地面に吐き捨てた殻を球場の職員に掃除させることはしたくない。だからいつも紙コップを手もとに置き、そこに殻を捨てている。
二刀流という独特のプレーをやり通す際には、様々な場面で柔軟性が必要となってくる。大谷はメジャーリーグのロッカールームになじめるのだろうか、という疑問を持つ者もいるかもしれない。
心配は無用だ。たとえば、チームメイトのタイラー・スキャッグスが大谷のロッカーの前を通り、スマートフォンの画面に没頭している彼を見つけたとする。
スキャッグスが大谷の頭をポンと叩いてちょっかいを出すと、大谷は笑顔を見せ、二人とも笑い出すのだ。
大谷のロッカーがあるのはクラブハウスの西側の端で、将来は殿堂入りが確実なアルバート・プホルスとも近い。コンクリートの仕切りがあるとはいえ、他にさえぎるものはないので、大谷は多くのチームメイトから親しげに声をかけられている。
まるで弟のように大谷をからかうのも、彼の挑戦がどれだけ大きなものかチームメイトが知っているからなのだろう。リラックスさせることで、歴史的な試みに挑む大谷を仲間として支えようとしている。