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生き方

不妊治療を始めるも...交際10年で結婚、すぐ離婚した“夫婦のすれ違い”のワケ

ダイアン・カードウェル(ジャーナリスト)、満園真木(訳)

2023年11月14日 公開

 

終わりにする決断

とにかく歩いた。商店街を行ったり来たりし、ずっときれいだと思っていた並木道を抜け、ゴーワヌス水路にかかる石橋を渡って対岸のパーク・スロープのはずれまで。

もう涙は止まっていた。水面を見おろし、端から突きだしている木の杭の束と、工業地帯から港へと南に流れる月光に照らされた川に目をやった。

夢見た暮らしを追いもとめ、ここで何年費やしてきただろう。それはなんのためだったんだろう。エリックと別れたら、赤ちゃんも犬もなし。気の合う愉快な友人とその子供たちを地元産の肉と家で育てた野菜でもてなす、楽しい庭でのディナーパーティもなし。

あまりにも長くエリックといたから、彼なしの人生が想像できないし、また相手を探さなければならないなんて考えられなかった。

たぶんもう子供も産めない。

終わりだということはその夜でもう明らかだったが、わたしが受けいれるまでには何カ月かかかった。エリックは新しい仕事のためバンクーバーへ引っ越したが、数週間に一度カップルカウンセリングを受けに帰ってきて、そのたびにわたしも向こうへ行くべきか話しあった。

11月の曇った朝、だんだんとブルックリンに帰ってくるのも間遠になっていたエリックが戻ったとき、ふたりでキッチンに立ち、庭に一本だけ残しておいたハナミズキの木をみつめていた。

その木にはくっきりした緑の筋入りの濃いピンクの花が咲き、それが春の数週間だけ白くなった。庭にはもやがかかり、聞き慣れたほがらかな鳥のさえずりをのぞいて静かだった。

わたしが隣のエリックに顔を近づけてキスをしようとすると、彼は頬を差しだした。

 

過去の自分を責める

それから少しして、わたしたちは正式に別れた。かつて深い愛情に感じられていたものを終わらせるにあたり、おたがいできるだけ傷つけあわないよう努力して。

動揺と恥ずかしさで、友人にもろくに言えなかった。結婚に失敗し、父を失望させてしまうこと──結婚式で「ダイアン、おまえがとても誇らしいよ」と生まれてはじめて言われたのに──だけが恥ずかしかったのではない。こうなると予想できなかった自分への恥ずかしさもあった。

ずっと自分では冷静で立ち直りの早いタイプのつもりでいたし、友人知人にも情緒が安定していて独立した女性だと評価されているように思っていた。男との関係がうまくいかないとわれを失ってしまう女ではなく。

でもそれがまさにわたしだった。なんて自分のことがわかっていなかったんだろう。鏡に映る贅肉しか目に入らない拒食症の女の子みたいだ。

わたしは夜になるとワインに慰めを求めた。流行りの店のバーカウンターにすわり、どことなくパリっ子っぽいイメージを与えるべく、本を片手にするのを忘れなかった。

でもそれは見せかけにすぎず、わたしが家に誰も待っていない、失恋の痛手とみじめさで新しい相手を見つけようとする気力もない、孤独で悲しい女だという事実を覆い隠す薄いヴェールでしかなかった。

毎朝、目をさますと泣いていた。身体が重くてベッドから出られず、全身の筋肉がマットレスの上で丸まっていたがっていた。どうしてこうなってしまったんだろう、と思った。どうしてもっと早く修復しようとしなかったんだろう。そして、いつになったらこんな負け犬の気分から解放されるんだろう。

 

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