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皮膚がんの原因になることも...日本人が陥る「温水洗浄便座への依存」

佐々木みのり(大阪肛門科診療所・副院長)

2024年01月16日 公開 2024年12月16日 更新

出残り便がある人は、温水洗浄便座の水で肛門を刺激して硬くなった便を出そうとしたり、下着を汚さないように必要以上におしりを洗ったりしています。そして、多くの日本人が、おしりに当たる水の刺激に慣れて、温水洗浄便座がないトイレでは排便できない「温水洗浄便座依存症」になっています。(イラスト:うてのての)

※本稿は、佐々木みのり著『便秘の8割はおしりで事件が起きている!』(日東書院本社)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

出口に便があるから、おならをすると下着が汚れる

「下着に便がつく」、「おならをすると便が出る」といった予期せぬ便もれ(便失禁)の悩みを抱えている人が増えています。

便のニオイが気になって人づきあいが悪くなったり、仕事や勉強に集中できなくなったりなど、さまざまな悪影響を引き起こします。しかし、筋力の低下している高齢者でも、痔や病気でもなく、このような症状がある場合は、便失禁ではなく「ニセ便失禁」かもしれません。

出残り便があると肛門にも便が挟まった状態となることがあり、下着を汚しやすく、おならのような少しの刺激でも便が外に出やすくなって、便もれ事件が起きてしまうのです。

肛門は、排便時以外は「肛門括約筋」によって便が外にもれないようにしています。

しかし、肛門括約筋は常に一定の力で締まっているわけではなく、便が近くまで下りてくると反射的にゆるむように、締まりがきつくなったりゆるくなったりしています。

まれに、締まりがゆるくなった瞬間に出し切れずに肛門に挟まっていた便がヒョイと外に出て、下着を汚すことがあります。

これが、「ニセ便失禁」の真相です。便がもれるのは必ずしも肛門の締まりがゆるいわけではなく、肛門の締まりが正常な人にも起こりうる問題です。

 

温水洗浄便座で便汁を作っていませんか?

「下着が便で汚れる」という人の中には、便というよりも便と水が混ざった「便汁」が原因となっていることがあります。便汁とは、排便後におしりを拭いてもキレイにならず、温水洗浄便座を使って念入りに洗ったときに温水が肛門の中にまで入ってしまい、中の出残り便と混ざってもれ出てしまったものです。

そして、まさか温水洗浄便座の水が原因とは思わず、便失禁だと思って病院にやってきます。しかし、いざ診察してみると、ほとんどの人は肛門の締まりに問題はなく、痔などもありません。出残り便をしっかり出し切れば下着の汚れもなくなります。

温水洗浄便座の水は便汁となるだけでなく、デリケートな肛門の皮膚を傷つけてさまざまなトラブルを引き起こします。

出残り便がある人は、温水洗浄便座の水で肛門を刺激して硬くなった便を出そうとしたり、下着を汚さないように必要以上におしりを洗ったりしています。すると濡れた紙が皮膚についてかゆみを起こしたり、肛門のまわりの皮膚がただれる「肛門周囲皮膚炎」や、肛門縁の皮膚が切れる「切れ痔」の原因となったりします。

そしてもれなく、おしりに当たる水の刺激に慣れて、温水洗浄便座がないトイレでは排便できない「温水洗浄便座依存症」になっています。

少し前までは、医師たちも温水洗浄便座の使用を勧めていたので驚くかもしれません。ですが、近ごろ、おしりの洗いすぎやケアのしすぎによる弊害が問題となっています。おしりの洗いすぎは、痔をはじめさまざまなトラブルを招きます。

洗いすぎることで皮膚を守っている皮脂膜がはがされて皮膚が乾燥してごわごわになり、かゆみの原因となります。

さらに、温水洗浄便座の水圧によっても皮膚が傷つき、炎症が起こることも。ひどくなると皮膚がんを招いてしまい、まさに「過ぎたるは及ばざるがごとし」ということに。おしり洗いは、ほどほどが大切です。

 

出口の便秘の究極が「糞づまり」

出口の便秘→鈍感便秘(便意を感じない便秘)という負の連鎖が続いているおしりでは、便がどんどん大きな塊となっていきます。

その先に起きるのが「便栓塞」、いわゆる「糞詰まり」という疾患です。おなかが張って痛くなり、ひどくなると食欲がなくなり、吐き気をもよおします。強い便意がきても、激痛で排便が困難になることもあります。

そうした症状を自覚できたらまだいいのですが、大きな硬い便をすり抜けて新しくできた軟らかい便が毎日少しずつ出る人も。そういう人は、便栓塞はもちろん、便秘にすら気づいていないので、後々、とってもやっかいなことになります。

便栓塞になるほど肛門で"成長"した出残り便に、通常の下剤や浣腸は効きません。薬を使っても硬くなった便の表面を溶かす程度で、塊を出すことはできないのです。

しかも、硬い便が肛門を傷めるために排便を我慢するようになり、出残り便はますます大きくなっていきます。すると直腸のセンサーがマヒし、便意もますます起こりにくくなります。

こうなると心配なのは、便による圧迫や刺激によって直腸の内壁に潰瘍をつくったり、腸閉塞を起こしたりすること。単なる「糞詰まり」と簡単に考えず、受診して「摘便」してもらうことが大切です。

 

痔主の多くに共通しているのが出口の便秘

肛門の疾患の中でももっとも多い「痔」は、人に相談しづらいためか、多くの人が勘違いや間違った思い込みで症状を悪化させています。

痔とは、「肛門やその周辺に起きる良性疾患の総称」で、肛門に生じるトラブルのうち、がん以外のすべてのものを指します。肛門にかゆみがある「肛門そう痒症」や、温水洗浄便座での洗いすぎによる「温水便座症候群」なども広い意味で「痔」に含まれ、日本人の3人に1人が"痔主"経験者といわれるほど身近なものです。

そして、さまざまな症状がある中で、"痔主"の多くに共通しているのが、出口の便秘です。「痔は、便秘の結果なるもの」と思っている人が多いようですが、1週間排便がなくても「おなかの便秘」の人は痔になりません。

反対に、診察に訪れる"痔主"の9割以上が毎日排便があり、そういう人も診察すれば必ずといっていいほど出残り便が確認できます。よく、「うちは親も痔で家系だから」「座り仕事だから仕方がない」と言う人がいます。

しかし、痔になりやすい体質や仕事があるわけではなく、痔は「排便の結果」です。間違った排便を正さずに投薬や手術をしても、症状をくり返すだけ。痔の改善には原因となった排便を正すことが必要です。

 

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