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生き方

杏さんが、フランス移住で手に入れた「思いがけない縁の広がり」

杏(俳優)

2024年05月29日 公開

俳優の杏さんは、「自分から行動することで、運がめぐってくる」と語ります。フランスへの移住、YouTubeでの情報発信など、新たな挑戦に取り組んだことで生まれた、予期せぬ出会いと縁とは?

取材・文:鈴木裕子 写真:金井尭子
スタイリング:中井綾子(crêpe) ヘアメイク: 犬木 愛(AGEE)

※本稿は、月刊誌『PHP』2024年6月号より、一部編集・抜粋したものです。

 

やりたいことに挑戦すると、新たな出会いが生まれる

今のところ、家族ともども健康でいられ、仕事の面でもやりたいことができ、困ったときやちょっとつらいなというときにそばにいてくれる友達もいる。運がいいなと思います。

一昨年にフランスでの生活を始めてからは、これまでとは少し違う縁の広がりを感じています。日本でかかわりのあった人たちが仕事やプライベートでフランスにいらっしゃるときに会うことができたり、共通の知人・友人を通じて連絡をくださったり。

とにかく、いろいろな形でいろいろな人と話す機会が増えました。日本にいたらここまでゆっくり話をする機会はなかなか取れないような気がして、その意味でも、すごく貴重な時間を過ごせていると思います。

いい運や縁に恵まれるためにと意識してやっていることは特にないのですが、何か新しいこと、やりたいことに挑戦すると、新たな出会いがあり、縁が生まれたような気がします。

 

自分が発信したことでつながったご縁

たとえば、私は日常生活や自分の興味・関心のある事柄についてYouTubeに動画をアップしているのですが、それを見てくださった方とご縁がつながって、会いたいと思っていた方にお目にかかれたり、興味のあることを深掘りできたりするんです。

先日は、東京消防庁に上級救命技能認定証を更新するための再講習を受けに行って、その様子を撮影した動画をアップしました。東京消防庁の方が、私が資格を取得していることを知って、「ぜひ」とご快諾くださったことがきっかけです。

AEDの使い方など、応急手当についてみなさんに広くお伝えできるという意義をすごく感じましたし、映像を活用して応急手当を口頭指導できる「Live119」というシステムを体験させてもらったり、消防庁の中をご案内いただいたりして、私自身、応急手当に対する関心がさらに高まりました。するとまた、どんどんやりたいことが増えるんですよね(笑)。

今は、情報通信技術が進化して、個人が情報を発信できるようになりましたし、リモートで距離を超えて会話することもできます。それによって、思いがけないところで縁がつながったり、今までだったら不可能だったことが可能になったりする。これからも、おもしろいことがどんどん起こるような気がして、楽しみです。

 

今の自分だからこそめぐり合えた役

俳優というのは、役や作品など何かを人から与えてもらって初めて成立する仕事なので、やはり運や縁を強く感じることがあります。

「かくしごと」という映画で主役の千紗子という女性を演じたのですが、この作品に参加できたことは、まさに運に恵まれたと思います。千紗子は、長年絶縁状態にあった父親が認知症を発症したことで故郷に戻り、渋々ながらも父親を介護しています。

そんなある日、事故で記憶を失った少年を助けるのですが、その体に虐待の痕を見つけ、彼を守るために「私が母親」と嘘をついて一緒に暮らし始める......というストーリーです。

実生活のなかで私は「母親」なので、仕事ではそこからはかけ離れたものを中心にやりたいと思っているんです。でも今回は千紗子を演じたいと思いました。母親としてさまざまな経験を積んだ今の自分なら、嘘をついてまで彼と親子の関係を築こうとする千紗子を演じられる気がしましたし、演じたいと思ったんです。

ただ、当時、私は渡仏を控え複数の仕事を同時進行していて、一日でも予定がずれたら撮影に臨めないというスケジュールで動いていました。コロナ禍にあって、いつ撮影が止まってもおかしくない状況のなか、無事に撮影を終えられたのは奇跡と言っていいくらいです。撮影が終わったのは、渡仏の2日前。運がいいなあとつくづく思いました。

この作品は「ヒューマン・ミステリー」と銘打たれているように、単に千紗子と少年の愛情の物語ではありません。千紗子、少年、千紗子の父親や友人──登場人物の多くが嘘をつくなかで物語が進んでいきます。

みな、なぜ嘘をつくのか、嘘をつくことは本当に悪いことなのか。自分がこの人だったら、この状況に立たされたら、どうするだろうと考え、時に肝を冷やすような感覚を覚えながら、ミステリーとしても見ていただける作品に仕上がったと思います。

ラストシーンが印象的で、それが出演を決めたもう一つの大きな理由でもあるのですが、いざ現場に入ってそのシチュエーションに身を置くと、恐怖にふるえて叫びだしたくなりました。話の流れからすると、心温まるシーンになっても不思議ではないのに、私は逆にゾクゾクッとしてしまった。みなさんは、どう感じられるでしょうか。劇場に足を運んで、見ていただけたらと思います。

この映画は、北國浩二さんの小説『噓』が原作です。そこには映画では描ききれなかったドラマがあり、また、あえてそこまで描かないのが映画の醍醐味でもあると私は思っています。映画と小説どちらも味わっていただけると、よりおもしろいかもしれません。

 

【杏(あん)】
1986年、東京生まれ。2001年にモデルとしてデビュー。’07年に俳優デビューすると、NHK 連続テレビ小説「ごちそうさん」、ドラマ「花咲舞が黙ってない」シリーズなどで主演を務め、以来数々のドラマや映画で活躍。’23年には映画「窓ぎわのトットちゃん」で声優を務めるなど、活躍の幅を広げる。フランス・パリ在住。主演を務める映画「かくしごと」が6月7日より全国公開予定。

 

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