味が良く健康にも嬉しい発酵食品の「塩麹」を、普段の調味料に取り入れてみませんか。老舗麹店「糀屋本店」の女将で、塩麹人気の火付け役である浅利妙峰さんが、その魅力を紹介します。
※本稿は 『糀屋本店の塩麹レシピ』(PHP研究所)より一部抜粋・編集したものです。
麹と塩麹の話 麹が作るのは「日本の味」
味噌や醤油、酢や日本酒など、日本の食卓に欠かせない発酵食品のおもな原料となるものが麹です。
麹は、蒸した穀類や豆類に「麹菌」と呼ばれるカビを生やしたものです。米に生やせば米麹、麦に生やせば麦麹になります。
発酵食品は、東南アジアなどの高温多湿な地域で発達しました。発酵に使われるカビは地域によってさまざまですが、日本でおもに使われる麹菌は日本の環境でしか育たないため、「国菌」に指定されています。日本の麹菌を使って作る発酵食品は、まさに「日本の味」なのです。
うま味を引き出し、保存性を高める
麹は、食材やほかの微生物と協力しておいしさを生み出します。
麹菌が米や麦に生える過程で、3つの酵素ができます。でんぷんを糖(甘味)に分解するアミラーゼ、タンパク質をアミノ酸(うま味)に分解するプロテアーゼ、脂肪を分解するリパーゼです。麹を使うとおいしさが増すのはこのためです。「塩麹」を使うと料理がおいしくなるのも同じ理由です。
保存料や添加物がなかった昔は、麹がその役目を果たしてもいました。麹は発酵する過程で人体に有害な腐敗菌の繁殖を抑えるので、食品の保存性も高くなります。
さらに、麹は免疫力を高め、腸内の善玉菌を増やします。発酵食品を食べる機会が減ったことも、現代人のアレルギーや生活習慣病の増加の一因と指摘する方もいます。また、麹菌が生む抗酸化物質が老化の原因となる活性酸素の働きを抑えることから、麹(麹酸)は化粧品などにも使われています。
私たち麹屋は麹を作る時、麹の原料となる「種麹」を種麹屋から買います。種麹は「もやし」とも呼ばれます。昔は、稲穂についた大豆ほどの大きさの「稲麹」から種麹を作っていたそうです。稲麹は、別名「宝玉」。稲を黒くする稲麹病のもととも言われていますが、昔は種麹になるありがたいものでした。ちなみに稲麹は、無農薬栽培の稲にしかつきません。
簡単に作れる万能調味料
麹は味噌や醤油を醸すだけでなく、塩麹にも使われています。
塩麹は、野菜や魚を漬ける調味料として使われてきたということが、江戸時代の書物 『本朝食鑑』に記されています。食材の持ち味を引き出す塩麹があれば、いつもの食事がおいしくなります。発酵食品を食べる機会が減っている現代の食生活でも、麹を手軽に取り入れることができます。
そこで私は、「平成の大改革!」と称して、調味料の基本の「さ(砂糖)・し(塩)・す(酢)・せ(醤油)・そ(味噌)」の「さ」を、やはり麹を使って作る甘酒に(砂糖が高級品だった時代、庶民の甘味はみりんや甘酒が支えていました)、「し」を塩麹に替えて料理を始めました。これで、基本の調味料はすべて発酵調味料になります。
塩麹の作り方は簡単です。麹と塩と水を混ぜて、少し寝かせるだけ。食材のうま味を引き出す万能調味料は、自宅ですぐに作れます。料理にも手軽に使えます。
塩麹が教えてくれる素材の味
生物の塩に対する欲求は太古の昔からのものです。それは、生命の起源が海にあることと無関係ではないと思います。体が無意識に記憶している味=塩を使って、人々はシンプルに料理をし、命をうけつないできました。そこに麹を加えれば、食卓はもっとおいしくなります。私が作る料理の味付けは、ほとんど塩麹のみです。
現代は、おいしい調味料がたくさんあります。調味料をどんどん加えて味が奥深くなる一方で、複雑になりすぎてもいます。今はシンプルな味、素材本来のおいしさが求められています。調味料を少しずつ引き算していくと、行き着くところは、素材の持つ味。体が喜ぶ、本物の味。そのことに気がつけば、自分がおいしいと感じるものが分かります。
調味料をいくつも使わなくても大丈夫。塩麹を1つ使うだけで、豊かな食卓になります。どんな料理も作れます。
塩麹料理、始めましょう。
(あさり・みょうほう)
老舗麹店「糀屋本店」女将
1952年、大分県生まれ。320年以上続く老舗麹店「糀屋本店」の女将。学習塾を経営しながら3男2女の母として忙しい日々を送っていたが、母の死をきっかけに家業に戻る。味噌や甘酒に使うだけに留まらない麹の力を改めて感じ、基本の調味料の「さしすせそ」をすべて麹を使って作りたい、麹の力を普段の料理でも手軽に使ってもらいたいと一念発起。「塩糀」や「こうじ納豆」など麹で作った調味料を使った料理教室が人気を博し、塩麹人気の火付け役に。「普通の食材で、さっとできて、ぐっとおいしい」麹レシピを発信中。