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「一汁一菜は手抜きではありません」土井善晴さんが語る“一杯の味噌汁”の力

土井善晴(料理研究家)、土井光(料理研究家)

2022年03月29日 公開 2024年12月16日 更新


右:土井善晴さん/左:土井光さん(撮影:おいしいもの研究所)

土井善晴さんが料理研究家の父・勝さんから引き継ぎ、48年もの長きにわたってお茶の間から愛された看板番組「おかずのクッキング」が、この3月をもって終了する。

本番組の最終回のテーマでもある「一汁一菜」は、土井善晴さんが、日々の食事づくりに悩む人に向けて提案した究極の家庭料理の形である。そんな「一汁一菜」と、その要となる「お味噌汁」にかける土井先生の想いとは。

※本稿は土井善晴・土井光 共著『お味噌知る。』(世界文化社)より抜粋・編集したものです。

 

すべての料理の始まりは、一杯の「お味噌汁」

湯に味噌を溶けば、味噌汁です。よく醸された味噌なら、味噌そのものが旨みだから問題なくおいしいものです。少し塩気を感じますが、それはご飯とのバランスで解決します。

ちなみに、ご飯に味噌を乗せればおかずになり、そこに、お茶をかければ、味噌茶漬け、お鍋で煮れば味噌雑炊です。

「味噌をお湯で溶く」、溶いたものという基本から、その先は、自分で目的に合った方法を、思い思いに(組み合わせて)プラスして味噌汁は発展させることができるのです。自分で工夫すればいいと思います。

味噌汁がおかずになるように、「油の旨み」と「コク」を出したければ、具材を植物油で炒める。だしの出る食材(きのこ、油揚げ、ベーコン、脂のある肉、魚)を入れる。

一方、味噌汁だけを味わいたいなら、だし汁(昆布、煮干し+水)に味噌を溶く。…という具合です。

このように、時と場合によってさまざまな味噌汁があります。

皆さんがさまざまな味噌汁のイメージを頭に描くことができれば、時と所と場合に応じた味噌汁を作れるということになります。頭に思い浮かんだものを実現するのが人間です。

将来、自分がどんなふうになりたいかを想像してみてください。

自分の人生と味噌汁を一緒にするのはどうかと思いますが、将来をイメージすることで、実現する確率はグンと上がるのだそうです。予測が現実と繋がって、実現しやすくなることは心理学的に証明されているそうです。これを「予測の自己実現」と言います。

ひと椀の中のお味噌汁の世界は、とても小さいですが、そこには無限の変化と可能性があります。それを「有限の無限」と言います。味噌汁の工夫だってクリエーションだと思います。経験の積み重ねというトレーニングになります。

厳密に言えば、二度と同じ味噌汁は、作れません。

味噌汁のおいしさは人間が作るものではなくて、生まれてくるものです。

味噌汁を作ることは、お料理することです。繰り返します。一汁一菜は手抜き料理ではありません。日本の食文化…自然と人間がうまくやっていくための知恵…にあるお料理の始まりです。

 

料理することは、自立すること

お料理を始めると、味噌汁を作ることに含まれる「基本の調理」から、これを繰り返すうちにだんだんわかってきて、いろいろなお料理ができるようになります。

「野菜を炒めて、水を入れて、味噌を溶いた味噌汁」から始まって、炒め物ができるようになる。「お芋を茹でて、味噌を溶いた味噌汁」を煮詰めれば、お芋の味噌煮ができます。煮物に繋がりました。お料理とはそんなもんです。いろいろな料理を早く作れるより、ゆっくりきちんと作ることの方が尊いと思います。

疲れてお料理をする元気がない時、どうすればいいですかって、聞かれました。そんな時は早く寝ることです。疲れを癒すことが大切です。誰もあなたを咎めません。恥じることも、心傷めることもありません。そういうものです。

つらくて、何も食べたくない、食べられないという人がいました。自分で野菜を使って味噌汁を作ってみてください。そこに貴方を傷つけるものは何ひとつありません。

お料理することに慣れてください。最初からできる人はだれ一人いません。だれかがするのを見て、真似すればいい、よく見てください。必ずできるようになるものです。

一人でお料理やってみることで、その経験を生かして、だんだん、いろんなことを身につけてもらえたらいいなと思います。

お料理することは自立することです。自立して、自由になって、自分の人生を楽しくやってください。そして、好きな人にお料理を食べてもらってください。あなたは、すでに、その人を幸せにしているのです。それは愛ですね。

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落とし卵といろいろ野菜の味噌汁

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