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自律神経の専門家が教える「体の不調が起こりにくくなる」呼吸法

小林弘幸(順天堂大学医学部教授)

2024年07月29日 公開

忙しい毎日のなかでも実行可能な、医学的に正しい呼吸法で、病気を寄せつけない健康な体を作りましょう。『PHP』2024年8月号では、順天堂大学医学部教授の小林弘幸さんに自律神経をコントロールする呼吸法についてお話を聞きました。(構成・文:高橋裕子 イラストレーション:なかむら歌乃)

※本稿は、月刊誌『PHP』2024年8月号より、一部編集・抜粋したものです。

 

健康の決め手は自律神経と腸内環境

健康の秘訣はきれいな血液を全身にめぐらせることです。きれいな血液はサラサラと流れて全身に酸素や栄養を届けます。すると免疫機能が正常に働くので、病気を寄せつけません。

ところが、よごれた血液はスムーズに流れず、全身の細胞は酸素や栄養が不足がちになります。「血液の質は腸で決まる」といわれ、腸内環境が整っていれば、きれいな血液が作られます。また、自律神経が整うと血流がよくなります。

ところが現代人は、ストレスや偏った食事、運動不足、不規則な生活などで腸内環境や自律神経が乱れがち。これらを改善するためには生活習慣の見直しが必要であり、その中でも特に大切な一つが、ふだん無意識に行なっている「呼吸」なのです。

 

呼吸法で自律神経をコントロール

呼吸の役割は、酸素と栄養を肺や血管を通して体のすみずみまでいきわたらせること。本来、私たちは一分間に12~20回の呼吸をするところ、最近はストレスで呼吸が浅く、速くなっている人が増えています。

呼吸は自律神経がつかさどっています。呼吸が浅く、速くなると交感神経が優位になり、血管が収縮して血流が悪くなります。さらにそれが常態化すると生活習慣病やうつなど心身の不調を招きます。逆にゆっくりとした深い呼吸は副交感神経の働きを高めます。血管をゆるめて血流をよくし、健康寿命を延ばしてくれます。

私が考案した「長生き呼吸法」は自律神経と腸内環境を一緒に整える最強の健康法であり、しかも一日1分でok。ぜひ毎日の習慣にしてください。

 

自律神経、腸内環境と呼吸の深い関係

呼吸にはどんな効果があるのでしょうか? 自律神経のバランスと腸内環境を整えるメカニズムを解説します。

 

\自律神経のバランスを整える/

・深く吐くと副交感神経の働きが高まる

心身の健康を維持するためには、交感神経と副交感神経の両方を高いレベルで働かせることが必要です。私たちは呼吸をするとき、肺を囲む肋骨のまわりの筋肉や横隔膜を動かすことで肺を収縮させています。その横隔膜の周囲には、意識しなくても呼吸できるように自律神経が集まっています。

ストレスを受けやすい現代人の多くは副交感神経の働きが弱まっている状態。長生き呼吸法でゆっくり深く息を吐くと横隔膜の動きが大きくなり、副交感神経が刺激されて活性化します。その結果、自律神経のバランスが整うのです。

 

・長く吐くと血流がアップする

肺を納めている胸腔には血流量を調整する「圧受容体」があります。息を吐く時間が長くなるほど圧受容体に圧力がかかって血流がアップし、連動して副交感神経も刺激されます。長生き呼吸法で息を「吐く」時間が、「吸う」時間よりも長いのはそのためです。

 

\腸内環境を整える/

・ぜん動運動が活発になる

腸は自律神経の支配下にあります。交感神経が指令する拡張と、副交感神経が指令する収縮が繰り返されるぜん動運動によって、腸
は食べ物からとった栄養を体内に吸収し、老廃物を肛門へと移動させていきます。自律神経のバランスが整ってぜん動運動が活発になれば、便秘にならずに善玉菌優位の腸内環境が保たれます。

 

・横隔膜による腸のマッサージ効果

横隔膜は膜状の筋肉です。長生き呼吸法で横隔膜が上下に動くことで腸がマッサージされ、腸の機能を回復させます。

 

腸内環境が整い、血流がアップすると......

・きれいな血液が全身をめぐる

自律神経のバランスが崩れてぜん動運動の機能が低下すると、便が長く腸内にとどまり、そこで発生した有害物質が血液に乗って全身
をめぐります。よごれた血液は細い末梢血管を通りにくく、酸素や栄養をきちんと運べません。しかし、長生き呼吸法で自律神経を整えることで、きれいな血液を全身にめぐらせることができます。

 

・免疫がアップする

腸には全身の免疫細胞の7割が集中しています。腸内環境が良好であれば、腸内細菌が免疫細胞を活性化させたり、免疫細胞の暴走を
抑よく制せいしたりして、免疫システムを正常に機能させることができます。さらに血流がよければ、免疫細胞が血液に乗ってスムーズに全身に送られ、それぞれの持ち場で病原菌と闘うことができるのです。

 

長生き呼吸法

呼吸で自律神経を整えると同時に腸をマッサージする一石二鳥の呼吸法です。1日1回、1分間行ないましょう。

①姿勢を整える

脚を肩幅に開き、肩の力を抜いてまっすぐに立つ。肋骨の下あたりをつかむように両手をお腹の横に置く。

②6秒吐く

上体をまっすぐ前に倒しながら、ゆっくり口から息を吐く。息を吐きながら、両手で脇腹の肉をおへそにグーッと集めるようにして、腸に刺激を与あたえる。

③3秒吸う

背中を反らしながら、ゆっくり鼻から息を吸う。息を吸い込みながら、脇腹にあてた両手は②の状態からゆっくりゆるめていく。

[ポイント]
・ 「吸う」よりも「吐く」時間を長くする
・意識的にしっかり呼吸する

●呼吸数と回数にはこだわらなくてOK

「6秒で吐く」「3秒で吸う」というのはあくまでも目安。時間を計ったり、正確に数えたりする必要はありません。1日1回、1分間が基本ですが、時間があれば1回1分以上でも、何回行なってもOKです。ただし、「面倒くさい」「忙しいのに」......などネガティブな感情を持ったまま行なうと、自律神経が乱れて逆効果なので、注意しましょう。好きな音楽を聴くなど、リラックスしながらやってみましょう。

 

うまくできない人のためのストレッチ

浅い呼吸に慣れてしまうと、呼吸筋が固まって肺がうまくふくらまず、深い呼吸ができなくなります。呼吸筋を柔軟に動かすストレッチをしましょう。

・猫背解消ストレッチ

猫背を解消して肺を大きくふくらませるストレッチ。猫背や肩こり解消にも効果大。

[やり方]
いすに座り、頭のうしろで手を組み、肩甲骨同士を近づけるように上体を後ろに反らせる。合計10回行なう

 

・脇腹伸ばしストレッチ

脇腹を伸ばして横隔膜がついている肋骨の間を広げます。肋骨と骨盤をつなぐ腰の筋肉もほぐれ、胸郭が開きやすくなります。

[やり方]
ひざ立ちになり、両腕を頭の上で組み、ひざが浮かないように上体を横に倒す。左右1回ずつを1セットとし、10セット行なう。

 

長生き呼吸法でみるみる不調が改善!

自律神経のバランスが整って血流がよくなり、腸の働きが活発になると、相乗効果でさまざまな不調が改善されます。

●肩こり

血中の老廃物が流され、肩こりの症状が軽減されます。息を吸うときの、胸を開いて背筋を伸ばす動きも、肩こり解消に有効です。
深い呼吸は呼吸筋のトレーニングそのもの。また、酸素を効率的に取り込んでカロリーの燃焼を促進。ダイエット効果が期待できます。

●生活習慣病

血管が適度にゆるむ、血栓ができにくくなる、インスリンの分泌量が上がるなど、高血圧や糖尿病などの生活習慣病の改善につながります。

●うつ

うつ病は脳内伝達物質セロトニンが不足することで生じると考えられており、セロトニンの90%は腸で作られています。自律神経を整えて腸内環境を良好に保つことで、うつ病を改善する効果が期待できます。

●腰痛

ゆっくり深く呼吸をすると腹圧が高まり、インナーマッスルが鍛えられて体幹が安定します。体幹が安定すると、腰にかかっていた負担が軽減されます。

●冷え性・むくみ

体内で作られた熱が血流に乗ってスムーズに末梢の血管まで届きます。血液が余分な水分や老廃物を回収するのでむくみも解消。

●肥満

深い呼吸は呼吸筋のトレーニングそのもの。また、酸素を効率的に取り込んでカロリーの燃焼を促進。ダイエット効果が期待できます。

 

著者紹介

小林弘幸(こばやし・ひろゆき)

順天堂大学医学部教授

1960年、埼玉県生まれ。92年、順天堂大学大学院医学研究科博士課程を修了後、ロンドン大学附属英国王立小児病院外科などの勤務を経て帰国。順天堂大学小児外科講師、助教授を歴任後、現職。自律神経研究の第一人者としてアスリートや芸能人のアドバイザーを務めるほか、TV出演などメディアでも活躍中。著書に、『なぜ、「これ」は健康にいいのか?』(サンマーク出版)、『一流の人をつくる整える習慣』(KADOKAWA)など多数。

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