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生き方

「胸が苦しくなる」のは体からのSOS...心身の疲労が取れる全身ストレッチ

大沼竜也(鍼灸師)

2024年09月12日 公開

なんだか気持ちがモヤモヤする。すぐにネガティブな感情が湧いてくる...。こんなときは、頭で考えるのではなく、体に目を向けてみましょう。マイナスの感情を切り替えたいときに効く、体にフォーカスした心身のほぐし方を鍼灸師の大沼竜也氏が紹介します。

※本稿は、大沼竜也著『心と体のコリをほぐすセルフリセット』(大和出版)から一部抜粋・編集したものです。

 

胸は「情」の中枢である

明日のことを考えるとき、仕事の人間関係を思い出したとき、恋愛に悩んだとき、過去の嫌な出来事がフラッシュバックしたとき、胸が苦しくなる――。

胸という場所は「ハート」というように、あたたかくなったり、ぽっかり穴が空いたり、苦しくなったり、傷ついたり、実に多彩な感覚を覚える部分です。

心が疲れたときに起きる体の症状として、上位3位にランクインするくらい「胸が苦しくなる」は臨床でもよく聞きます。それだけ人間には欠かせない、何か重要な要素を占めている場所であることは間違いありません。

この胸は、日本古来の見方で「情」の中枢と考えられていました。情というのは、ざっくりといえば「人間味」といえます。単に体の部位としてここを指す場合は「胸」、精神的な意味合いを含めて指す場合は「ムネ」と表します。

「ムネ」への印象は、どこか人間の遺伝子レベルまで浸透している節があります。例えば漫画では、実写で表現できないようなデフォルメをして、キャラクターの特性を表します。情に厚い、熱血、頼りがいがあるなど、人間味に溢れたキャラクターは、「ムネ」が目立つように描かれる特徴があります。「ドラえもん」のジャイアンは、その典型的な例ではないでしょうか。

 

手と呼吸で「ムネ」をあたためる

そのような「ムネ」に近い部位が苦しくなるのは、「相手からのエネルギーを受け取る準備ができていない」と捉えることもできます。

例えば、他人はあなたに、好意や応援、期待というエネルギーを注いでくれます。ですが受け取る器が整っていなければ、それをためておくことができません。

もちろん、あなたが人に対して注ごうとした場合も、思っているように人を愛せなかったり、あたたかな気持ちを向けられなかったりします。

大人になるにつれ、ストレスが少しずつその器を壊していったのだとすると、昔の自分とのギャップに違和感を覚えるでしょう。中には「私ってこんなに冷淡だったっけ?」とつらくなる人もいます。

このあたたかな気持ちや情熱をためておく器が崩れるということは、身体的にみると、胸を構成する「肋骨」や「胸郭」が疲弊していたり、何らかのダメージを受けている可能性があります。

つまり、体にアプローチすることで、心理的な胸の苦しさは解消できるのです。心がそのまま形になったような「ムネ」は、呼吸に大きく関わる肋骨の中に位置します。そのため、呼吸でアプローチするのが最も簡単です。

まず片方の手で胸をさすり、さすったところがほんわかあたたかくなるイメージを持ちます。胸の少し上側をさすってふわーっと。少し下側、全体をさすりながらふわーっと、あたたかくときほぐれるようにさすります。

ある程度胸の意識が高まったら、胸に手をやさしくピタッと当てたまま、胸の内側を膨らますように、張りが出るように息を吸い込んでいきます。

難しいと感じる方ほど力が入りやすいもの。大切なのは、ここでも全身をだらっとすることです。うまく胸の位置に気持ちよさが感じられると、胸の苦しさが取れると同時に、心理的なつらさも軽くなるのがわかると思います。

 

「深呼吸」で胸郭をストレッチする

完全にダウン、というほどでなくても、誰しも調子のアップダウンはあります。そんなパッとしない状態における大切なマインドとして、「アップダウンはあっても、平均的なレベルを向上させることはできる」という考え方があります。

特にモヤッとした調子の悪さには、普段から意識が薄い体の部分に、疲労が溜まっている可能性があります。そのひとつが、呼吸に関わる部分です。

あなたは普段から深呼吸を意識していますか?

マインドフルネスや瞑想がポピュラーになった現代だからこそ、ひとつおすすめの呼吸法をお伝えします。

それは、肋骨で構成される「胸郭」のストレッチです。このワークでは、吸ったり吐いたりの意識はそこまで気にしません。特に呼吸法に慣れていない場合、「○秒吸って○秒吐く」といった呼吸のコントロールは、緊張が生まれやすいからです。

呼吸を運動として捉えたとき、主に働く筋肉は「横隔膜」です。焼肉でいえばハラミ。その横隔膜が動くことで、肋骨が構成している胸郭に空気が入ったり出たりします。

胸郭は、左右12本ずつ肋骨が連なっていて、それぞれの隙間には筋肉と神経や血管が張り巡らされています。動きも少ない上に、小さく、筋肉の数も多い。加えて、心理的なストレスの影響を受けやすい呼吸に関わる部位のため、日常的に緊張が生まれやすく、疲労が溜まりやすい部分です。

 

「胸郭」を伸ばすことで、全身の疲労が取れる

落ち込んだときにシュンと体が小さくなるのも、緊張によって息が詰まるのも、胸郭が小さく固まることが原因です。

でも、腕や足と違って意識が薄いため、疲労に気がつきにくいという特徴があります。「うぅ~ 肩が凝った!」とはいいますが「あぁ~ 胸郭が凝った!」とはいいませんね。いたらなかなかの変人だと思います。つまり、この部分を物理的にときほぐすことで、漠然とした疲労感や調子の悪さを解消できるのです。

やり方はシンプルです。

手を上へ伸ばして、背伸びをします。少しオヤジくさく「うぁ~」と声を出すのも、吸い込んだ空気が漏れすぎるのを防ぎ、胸郭が効率よく伸ばされるためとても意味があります。背伸びしたときのあの声にも、ちゃんとした理由があるのです。

ただ背伸びをするだけでもいいのですが、せっかくなのでもう少し細かくやってみましょう。手を高く上げて背伸びをしながら、ちょっとだけ前側に体を倒して、背中を伸ばす。今度は後ろへ、胸を伸ばす。

高く上げた手を少し右に傾けて、左脇を伸ばす。反対に左へ傾けて、右脇を伸ばす。こうして胸郭全体を伸ばして刺激を与えることで、呼吸をするときに空気が存分に行き渡るような胸郭が出来上がります。

 

著者紹介

大沼竜也(おおぬま・たつや)

鍼灸師

大沼鍼灸院長。1991年宮城県生まれ。幼少期にカトリック系の教育を受け、東西文化の融合に対する寛容な視点を培う。旧赤門鍼灸柔整専門学校を卒業後、医療・介護領域での豊富な臨床経験を基盤に、2018年仙台市で大沼鍼灸を開業。身体心理学およびソマティック心理学に基づき、精神領域と身体運動の相互関係を変容させる独自のアプローチを実践し、クライアントの心身のバランスを取り戻すことに貢献している。
また、全国規模でのワークショップやセミナーを主催し、専門家向けの学習プログラム【somatics(ソマティクス)】を展開。一般向けには、レジリエンス(精神的回復力)を高めるセッションプログラムを提供し、多方面から支持を集めている。

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