自分を強く主張するのではなく、一見すると「遠慮がち」に映る――いわゆる「控えめな人」は、積極的に前に出ないことから、自分でもその性格をマイナスに捉えがちですが、「控えめな人ほど周囲から頼りにされる」と、企業研修などで講師を務める三上ナナエさんはいいます。
では、控えめな人はどのような強みを持っているのか。三上さんに解説していただきます。
※本稿は、三上ナナエ著『控えめでも存在感のある人がしていること』(大和出版)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
「遠慮がちで控えめ」は、ポジション選択のひとつ
◎「周囲を見る」「察知する」能力に長けている
控えめな人は自分を前に出すよりも「場を見る」ことに自然に意識が向いています。発言のタイミングを探ったり、空気を読んで周囲の反応を確かめたり。その姿は一見目立ちません。しかし、周りの人が見落としがちな変化を細やかに拾い上げています。
たとえば、相手の声のトーンが少し下がった、いつもより言葉が短い、目線が合いにくいなど、こうした細かな変化は、場をリードしようと前に出ている人には気づきにくいものです。一方で、静かに周りを見渡すことができる人は、「相手が今どういう状態か」に注意が向いているので、変化の兆しを敏感に察知できるのです。自分では無意識であっても、その感度の高さは周囲にとって、大きな支えになっています。
CAの頃、チームの中に「誰よりも早くメンバーの変化に気づく人」がいました。体調が万全ではない様子、いつもより口数が少ないこと、動きのリズムが微妙に違うこと。本人が言葉にする前のほんの小さなサインを見逃さない人でした。
そして決して大袈裟な聞き方をしません。「大丈夫なの?」と詰め寄ることもなく、自然なトーンで声をかけ、さりげなく状況を確認します。相手が話しやすい空気をつくるのがとても上手で、結果として本音や実情を聞き出して、共有してくれるのです。
「今日のフライト時間、長いね」と雑談の形をとって、「実は朝起きたときから若干頭が重くて......」と状況を引き出したり、「さっきよりペースを少し落としてる?」など、評価や心配を全面に出さなかったり、「見えた事実」だけそっと置く言い方なのです。共通しているのは心配以上に配慮が勝っているということ。
そして得た情報は変に広めず、必要な形に整えて上司に伝えます。「今日は疲れが出ているようで朝食も進まなかったようです」「喉の調子からはアナウンス担当は避けたほうが良いかもしれません」と判断材料として伝える情報を簡潔に共有するのです。感情的な評価や憶測は添えません。
その方の配慮のおかげで、人員配置を考える際の精度が上がり、チーム全体が無理なく動けるようになっていきました。目立つ役割ではありませんが、現場が安定する存在。前に出ないからこそ、全体を支える力を発揮していた人でした。
◎周りを支える静かで大きな力
こうした行動は成果として数値化されにくく説明しづらいものです。そのため控えめな人ほど「自分は何もしていないかも......」と感じがちです。しかし、実際には周囲が安心して動ける土台を静かに支え続けています。
前に出ないことは消極性ではありません。むしろ、周囲に目を配り、変化を感じ取り、必要なときにそっと手を差し伸べるための「ポジション選択」です。控えめな人が放っている安心感は空気のように目には見えませんが、空気と同じようになくてはならない存在です。
そのポジションを担っているということ。何もしていないのではなく、前に出ないからこそできていることが確かにあるのです。
<POINT>
「控えめな人」は無理なアピールより周囲が"安心して動ける"土台づくりを選んでいる
選び抜いた言葉を、最善の場で使う
◎「言葉選び」のプロフェッショナル
控えめな人は話し上手という印象はあまりないかもしれません。けれど「どんな言葉を使うか」にはとても慎重です。思ったことを勢いで口にする前に、「この言い方で相手はどう感じるだろうか」と一度立ち止まることができるからです。そのワンクッションが周囲との関係性を確実に守っています。
たとえば、誰かのミスに気づいたとき、相手によっては「それ間違ってますよ」と伝えることももちろんあるでしょう。でも控えめな人は相手を見ながら「念のため確認してもいいですか」「私の理解が違っていたらすみませんが」と言葉を添えられます。内容は同じでも受け取る側の衝撃を和らげることができます。相手は「責められた」というより「助けてもらった」と受け止めやすくなるのです。
こうした言葉選びは優しさというより「配慮の技術」に近いと言えます。相手のプライドや立場、今の心理状態を読み取り「必要以上に傷つけない表現」を選んでいます。
興味深いのは、配慮の技術が高いこの人が、決して何も言わない人ではないという点です。選び抜いた言葉で、言うべきことはきちんと言う。「あの人の言葉はキツくないけれどなぜか納得できる」「指摘されても嫌な気持ちを引きずらない」そんな印象を持たれる人は、組織の中でとても重宝されていきます。
◎場所とタイミングも絶妙
その選び抜いた言葉を、どこで使うか、その使う場所やタイミングにも敏感です。
CA時代のチーフ昇格研修のときのことです。私はその研修を受ける立場でした。事前提出が必要な書類があったのですが、しかしながらその存在自体をすっかり忘れていました。気持ちだけは前向きで「よし! 今日からしっかり学ぶぞ」と意気揚々と会場に入り席につきました。
そのとき、サブのトレーナーの方がそっと私の横に来て、周囲には聞こえないように耳打ちでそっと告げました。「〇〇の書類は今持ってきていますか?」と。その一言で「しまった」と私は気づきました。けれど不思議と大きなショックはありませんでした。皆の前で指摘することなく、「確認」という、こちらの状況を察しながら最小限の言葉で要点を届けてくれた、その配慮が瞬時に伝わってきたからです。
もしここで「提出書類を忘れたんですか?」とみんなの前で言われていたら、おそらく私は、恥ずかしい気持ちと自分を責める気持ちでいっぱいになり、その後の研修内容なんて聞ける状態ではなくなっていたと思います。サブトレーナーの方はさらに「大丈夫ですよ、用紙は用意するので休憩時間に書きましょうか」と解決策まで提示してくれました。
この出来事から言えるのは、選んだ言葉を適切な場所で使うこと、それもスキルのひとつなのだということ。「伝えにくい」と思うからこそ、最善と思う場所とタイミングを選択して伝えることができる。空気に敏感な人だけができる技なのだと感じました。
ちなみに、事例に登場したサブトレーナーの方は、その後20年もかからずに、異例のスピードで会社の役員に昇格されました。言葉を選ぶこと、場所やタイミングを選ぶことは、ときに遠回りに見えるかもしれません。しかし、かえってその時間が、事をスムーズに進める大きなカギになっていることも多くあります。
控えめな人は、当たり前のことをしているだけだと感じるでしょう。でも無駄に人を傷つけないように選択することは、簡単なようで簡単ではありません。その配慮こそが評価と信頼を同時に積み上げている、確かな強みなのです。
<POINT>
「控えめな人」は「ワンクッション」によって、無駄に人を傷つけない