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ハーバード大で授業より価値があった「寮生活」 隣部屋にStripe創業者、ノーベル平和賞候補...

PHPオンライン編集部

2026年06月05日 公開

2026年4月5日、東京・下北沢の「SHIMOKITA COLLEGE(シモキタカレッジ)」にて、ケンブリッジ大学・飯田史也教授の新刊『あなたの一生を支える 世界最高峰の学び』の刊行記念イベントが開催されました。

会場となったSHIMOKITA COLLEGEは、本イベントの登壇者である小林亮介氏が代表を務めるHLABが運営する、日本初の「居住型教育施設(カレッジ)」です。高校生、大学生、そして社会人という異なる世代が寝食を共にし、日常的な対話や共同生活を通じて互いに学び合う「多世代共生」のコミュニティです。

なぜデジタル化が進む今、あえて「リアルな場」を共にするカレッジが必要なのか。本稿では、小林氏が語ったカレッジの重要性についてレポートします。

 

なぜ今、カレッジなのか

「なぜデジタル化がこれだけ進んでいる世の中で、カレッジが今必要なのか」「それが日本で実現可能なのか」「我々がどういう形でそれを実現しようとしているのか」という三点をお話しします。

簡単に自己紹介をすると、私は19歳の時に現在の会社を立ち上げ、全寮制の教育とカレッジをどう作るかということを専門に取り組んできました。

そもそものきっかけは、ハーバード大学に留学した時の経験でした。学びの多くは授業の中ではなく、寮の中にあったのです。

すごいなと思った同級生が二人いました。一人は、寮で隣の部屋に住んでいたジョン・コリソン。決済企業Stripeを創業した人物です。1年生の頃から何かを作っているなとは思っていたのですが、2年生になっても戻ってこず、私たちが卒業する頃にはStripeがビリオンダラーカンパニーになっていました。

もう一人は、アマンダ・グエンという友人です。彼女は在学中に性暴力の被害に遭い、その経験から法律の問題に向き合い、NPOを立ち上げ、27歳でノーベル平和賞候補に挙げられました。

こういう人たちが身近にいると、良い意味での焦りが生まれます。遠い存在ではなく、同じ食堂でご飯を食べて、同じ授業で苦労していた仲間。そのような近い距離感にいる人が、自分の学びやモチベーションに大きな影響を与えるのです。これはハーバードだから起きることではなく、本来どこでも起き得ることだと思っています。

寮での体験、友人との関係...それらが大学に通った中で最も大きな価値だったと感じています。「なぜこれが日本にないのか」「どうすれば実現できるのか」という問いが、今の仕事につながっています。

 

大学という場で得られる体験の価値

全世界の教育テクノロジーへの投資額は、2020年のコロナ禍を境に大きく増加しました。2022年頃からは世界中の大学の授業がオンラインで無料公開され始め、情報がタダに近づいていく流れが加速しました。

デュオリンゴやカーンアカデミーのAI家庭教師、edX、Coursera、YouTube――今や専門的な学びはほぼ無料でできる時代になっています。これ自体は、非常に良いことです。

一方で、「アンバンドリング」という言葉があります。これまで大学にひとまとめにされていた機能――例えば、学位というシグナリング、授業などのコンテンツ、家庭教師的な指導補助など...が学校から切り離されてスマホで提供されていく中で、「学びのプロセスや体験そのものや、そこで出会う人のコミュニティに教育の一番の価値があるのではないか」という議論が生まれています。

ディズニーランドはYouTubeで見ても、体験したことにはなりません。それと同じように、大学という場で得られる体験やコミュニティの価値が改めて問い直されているのです。

 

ハーバードが「居住型教育」を重視した理由

2012年、私がまだハーバードに在籍していた頃、大学は授業をオンラインで公開するという取り組みを始めました。

もともと大学は「知の拠点」でした。しかし活版印刷の発展によって書籍が広まり、図書館が知の拠点となったようにり、情報が安くなるにつれて、ついには授業そのものまでオンライン化されるようになりました。

こうした流れを受けて、ハーバード大学は「デジタル」と「レジデンシャル(全寮型)」という2つを柱に据え、ビジョンとミッションを書き換えました。

ビジョンには「居住型のリベラルアーツ教育における世界的なスタンダードをつくる」と掲げ、ミッションには「多様な住環境の中で、異なる背景を持つ学生が集まり、アイデンティティを成長させながら知的変容を起こし、社会の変革につなげていく」と記されています。

これは、カレッジの機能そのものを明確に定義したという意味で、非常に大きな転換でした。

これまでの教育は、何を学ぶべきかがあらかじめ与えられている「Known Unknown」の世界でした。数学Ⅲのように、学ぶべき内容が定まっている世界です。そうした学びはデジタルでも効率的に実現できます。

しかし「何のために生きるのか」「どんな問いを解くのか」といった、そもそも問い自体が定まっていない「Unknown Unknown」の世界は、デジタルだけでは対応しきれません。何を探せばよいのかもわかっていないからです。人と人とが向き合い、対話を重ねる中でこそ出会える世界や生まれるものがあると思っています。

今、世界に目を向けると、ハーバードに限らず日本や欧州の大学でも、全寮制教育を重視する動きが広まっています。学生同士が同じ時間を共有することで生まれる価値、「出自や関心、経験が異なる互いから学び合う」経験が、改めて見直されているからです。

「うちの学生には無理です」「日本人にはできません」と言われることも少なくありませんでした。

しかし実は、アメリカでもカレッジ型教育は最初からあったわけではありません。当初はドイツ型の研究大学をモデルに作ったものの、学生同士が互いを知らないために授業への出席が減り、学ぶ意欲が失われていった。そこで1900年代頃に入り、イギリスのカレッジ制度を取り入れたのが始まりです。後から移植された文化が、今や世界中に広がっています。日本にも、慶應義塾や松下村塾のように、師匠と学生が共に学ぶ伝統は深く根付いています。

 

日本でカレッジをどう実装するか

しかし日本では、学校、塾、部活で時間がほぼ埋まっています。その中でカレッジ的なものを入れようとしても、場所が残されていません。

そこで私たちは、夏休みという時間に着目し、サマースクールという形で始めました。

2011年以来、毎年夏、全国各地で世界中の大学生を集め、日本の高校生と共に短期間を過ごすプログラムを実施しています。

最初は、私がハーバードの同級生20人を日本に連れてきて、「ハーバード生と枕投げしましょう」と声をかけて集まった高校生と一緒にと自分の高校の後輩と一緒に泊まり込むという形で始まりました。わずか1週間のプログラムですが、参加した高校生たちがその後、一緒に過ごした海外の大学生の寮に押しかけて宿泊するということをやり始めたんです。こうして日本からた海外大学への進学の動きが加速したことを受け、奨学金制度も設立しました。

柳井正さんが初年度のサマースクールにスピーカーとして来てくださったことがあり、それが柳井正財団の海外奨学金の設立と300名近い学生を海外のトップ大学に送り出すこととの提携にもつながっています。

今後は、SHIMOKITA COLLEGEを皮切りに、全国でカレッジを増やしていく活動を続けていきます。自社で全国に10〜15拠点というレベルで展開できれば、「ただの寮」ではなく「学びのための場所とソフト」を作ろうという意識が、社会に広がり、日本の大学が全寮化したり、一般的な学生マンションが学びの場になったり、カレッジが広がっていくのではないかと思っています。

著者紹介

飯田史也(いいだ・ふみや)

ケンブリッジ大学教授

1974年、東京生まれ。ケンブリッジ大学工学部教授、ケンブリッジ大学コーパスクリスティカレッジフェロー、東京大学大学院工学系研究科教授。理学博士。小中・高・大・院と日本で教育を受けたのちに海外留学生活を始める。2006年にスイス・チューリヒ大学博士課程修了後、ドイツ・イエナ大学と米国・マサチューセッツ工科大学で研究員、スイス連邦工科大学チューリヒ校の教員を経て2014年より現職。研究の専門分野はロボット工学で、スイスと英国で16年間教壇に立ち、200人以上の教え子を世界中に輩出してきた。

篠田真貴子(しのだ・まきこ)

エール㈱取締役

東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒、米ペンシルベニア大ウォートン校MBA、ジョンズ・ホプキンス大学国際関係論修士。日本長期信用銀行、マッキンゼー、ノバルティス、ネスレを経て、2008年12月より18年11月まで㈱ほぼ日(旧・東京糸井重里事務所)取締役CFO。退任後「ジョブレス」期間を経て、20年3月よりエール㈱の取締役に就任。社外人材によるオンライン1on1を通して、企業の組織改革を支援している。

小林亮介(こばやし・りょうすけ)

HLAB創設者/代表

米ハーバード大学卒、米スタンフォード大学経営大学院MBA、同教育大学院修士課程修了。19歳でHLABを創設。教育ビジネス·大学経営を専門とし、多様な学生や若手研究者、ビジネスパーソンが共に学ぶ寮「カレッジ」を軸とした教育環境デザインに従事。米EdTechスタートアップや全寮制インターナショナルスクールの立ち上げ、PEファンドでの投資実務を経験し、現在は大学や事業者、行政と協業して「HLAB COLLEGE」やサマースクールを全国で運営。大学経営の視点から、次世代育成と科学技術にお金が流れるを仕組みづくりに尽力している。本業の傍ら、海外大学進学の奨学金設立や個人でも若手研究者·学生への指導も行っている。三極委員会『ロックフェラーフェロー』、Forbes Under 30などに選出。

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