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パリでは茶室に人だかりが...海外で「日本の茶道」がブームになっている理由

池田訓之(株式会社和想 代表取締役社長)

2024年10月15日 公開

近年、日本国内だけでなく海外からも注目されている「茶道」。普段忙しく過ごしているビジネスマンや日本に観光にやってきた外国人など、多くの人々に茶道がうけているのは一体なぜなのでしょうか?

神社・お酒・歌舞伎・相撲など日本文化の様々なルーツがあるとされる山陰地方(鳥取・島根)で呉服店「和想館」を経営。和と着物の専門家である池田訓之氏が解説します。

 

茶道ブームが来ています!

わたしは山陰地方で呉服屋【和想館】を営んでいますが、「着物」と「茶道」をヨーロッパの玄関といわれるロンドンから、ヨーロッパ中に広く紹介したいとの思いで、コロナ前にはロンドンにも出店していました。

和想館ロンドン店に足を踏み入れると、寿司カウンターならぬ、抹茶カウンターがまず登場します。抹茶のオーダーが入ると、目の前で、茶道具を袱紗で清め、茶碗を茶巾で清め、一服の茶を差し上げます。さらにくわしく茶道のことを知りたい方のために、茶道体験講座も月に一度は開催していましたが、いつも予約で埋まっていました。

また、ロンドン店を開く前の2013年には、パリ郊外に日本好きのパリっ子が集まる「ジャパンエキスポ」にも、茶道のパフォーマンスを披露しに参加したことがあります。

こちらは、5日間でなんと25万人が集まります。一回に茶道体験ができる人は5人くらいでしたが、仮設の茶室の周りには、何重にも人が取り囲み、チケットは取り合うようにして一瞬で消え去り、終日黒山の人だかりができていました。現在も山陰の大学に来ている留学生に店の茶室で定期的に茶道体験会を催しております。

今、こうして外国人の間で茶道はとても注目されています、また日本国内でも、芸能人やビジネスマンの間で、人気が急増中です。

実際、私は遠州流という武家茶道の稽古を続けていますが、東京の神楽坂にある、家元の道場で開かれる茶会では、よくテレビで見かける芸能人や、著名な企業の経営者の姿を見かけます。なぜ今、国内外で「茶道」に注目が集まっているのでしょうか?

 

茶道の歴史

現代のこの茶道の礎を創ったのは、室町後期の僧、村田珠光と言われています。

彼は若かりし日には、抹茶の銘柄を当てるという博打におぼれたそうですが(闘茶と呼ばれ、武士階級を中心に流行りました)、一休禅師に支持し禅の修行に励むようになると、闘茶という見た目の派手さを競う茶の飲み方に意義を唱え、簡素な庵に高僧の掛け軸を掛け禅の境地に至りながらお茶をいただくというわび茶を説き始めたのでした。そしてここに茶禅一味という言葉が提唱されます。茶道と禅の目指すところは同じという意味です。

この精神性をもとめる茶の道(わび茶)は、武野紹鴎、そし千利休へと受け継がれ完成します。精神的な充足感をもとめ、物質的には、わびさびの境地、つまり世俗的なものをすべて取り払い削れるだけ削って余分なものがない状態をもとめました。利休に至っては、床の間もなくただ亭主と客があいむかう二畳の茶室まで削りついたのでした。

 

茶道にはまる芸能人やビジネスマンが急増中

そして、昨今は、茶道にはまる芸能人やビジネスマンが急増していると言われていますが、これはどうしてなのでしょうか?

その答えは、「茶禅一味」(茶と座禅のめざすところは同じ、という禅語)という点にあると思います。座禅を組まれたことがありますか? 例えば、静かに座り、吐く息を数え続けるとか、ろうそくの火を見続けるとか。共通しているのは何かに集中して一心になるということです。

日ごろ我々は、絶えず色々なことを思い浮かべて多心になっていますね。思い浮かべることのほとんどがすぐには必要のない事です。必要のないことを思い、心を疲れさせているのが多くの人の毎日です。禅を組み一心になり、多心に振り回されている心の無駄な動きをとめることで、心が楽になり、元気になれます。

さらに、一心を保っていると、いつしか心は無心に入ることができます。無心の世界には、大宇宙の声、天の声が響いています。完璧な世界である大宇宙と一体となれれば、迷いがなくなるというわけです。

私はもう30年間座禅を組んでいます。茶道に出会ったのは15年位前です。最初は、お点前中の心は「次に何をするのだったかな」とざわつき多心でした。でも稽古を繰り返すうちにだんだんと、考えなくても体が勝手に点前を進めてくれるようになります。そのうえで、目の前の一挙手に集中していくと、どこかで感じたのと同じ感覚を覚えるようになりました。

そう、毎日の座禅を組んでいるときの心持と同じ気持ちなのです。目の前の一挙手に一心になっていました。そして、茶室という小宇宙と、さらに大宇宙との一体感を感じられるようになってきました。それは禅を組んでいるときの無の感覚と同じで、とても心地よい時が流れていきます。

情報オーバーロードと言われるように、現代は、情報の量が加速度的に増加していて、日々必要な情報を確認するだけでも、ストレスを感じているのが多くのビジネスマンの心でしょう。多心にならざるをえず心は疲れるばかりです。芸能人も芸能情報の発信媒体は多様かつ大量化し、時代をつかみつづけるには多心にならざるをえない。

そんな日々のなかで、疲れがちの心は、今まで以上に、ひと時の休息を求めています。茶道は、そのニーズにピッタリなのだと思います。だから、茶道に引き寄せられる芸能人やビジネスマンが多いのだと思います。私もその一人であります。

 

外国人に響く、茶道に込められた「和の心」

茶道が外国人にうけているのは、人を思いやる、周囲を思いやるという和の心が学べるからだと思います。これまでにフランスのジャパンエキスポで、和想館ロンドン店で、山陰に来ている留学生に対して、繰り返し茶道を説明してきましたが、うけるポイントは、周囲への心配りが表現されているパフォーマンスの部分です。

たとえば、

1. 最初に茶室に入るときに、座って、扇子を自分の前において、挨拶して入る。この扇子をおくのは、扇子の向こうが上座、扇子のこちらが下座と、結界をはり茶室を敬う、自分を謙譲するためです。

2. 袱紗(ふくさ)で、茶道具を清めていく、これは、道具を清めるとともに、おいしいお茶をたてるために亭主の心を磨き、集中させているのです。

3. 客が茶をいただくときに茶碗を回すのは、亭主は客に茶碗の一番景色のいい部分が見えるように出しますが、客がその一番景色のいい部分に口をつけるときれいな景色を汚すことになるので、茶碗をまわして、正面以外のところに口をつけて茶を頂くのです。

といった説明をすると、いつも「おお~」と感嘆の声があがります。

このように、茶道の作法は、常に自分中心ではなく、周囲との調和を第一義に構成されています。万物に神様を感じ、周囲との調和を重んじる和の心を、所作に落とし込んだのが茶道なのです。

これは、自己主張を重んじる欧米の考え方からすれば、新鮮に感じることでしょう。特に昨今は、世界的な人口爆発下で、個々の国が生き残るために強く自己主張を発するようになってきています。

世界中の人々が、このままでは、地球は壊れてしまうと感じているのではないか。みんな心底では、他者を思いやり自分を抑えることが大切だと感じているのだと思います。だから、思いやりを具体的な行動パタン―として体系化した茶道に、外国人が惹かれるのだと思います。

 

茶道で心穏やか、優しい世界に

このように、茶の道のひとときは、心の雑念が消え、心が落ち着きます。また人を思いやる具体的な作法が身についてきます。茶道をたしなめば、いらいらすることが納まり、また人間関係が自然に穏やかになるというわけです。

正座ができないから、着物が着れないから、茶道は遠慮するなんて話も聞きますが、今は、椅子に座って行う茶道の手前もありますし、洋服で入室できる茶会もたくさんあります。茶道はそんなに窮屈なものではありません。多心の日々から心を解放できるオアシスを、もっとお気軽にご利用いただけたらと思います。

 

著者紹介

池田訓之(いけだ・のりゆき)

株式会社和想 代表取締役社長

1962年京都に生まれる。1985年同志社大学法学部卒業。インド独立の父である弁護士マハトマ・ガンジーに憧れ、大学卒業後、弁護士を目指して10年間司法試験にチャレンジするも夢かなわず。33歳のとき、家業の呉服店を継いだ友人から声をかけられたのをきっかけに、まったく縁のなかった着物の道へ。着物と向き合うなかで、着物業界のガンジーになることを決意する。10年間勤務したのち、2005年鳥取市にて独立、株式会社和想(屋号 和想館https://store.wasoukan.com/ )を設立。現在は鳥取・島根にて5店舗の和想館&Cafe186を展開。コロナ禍前には、着物業界初の海外店舗・和想館ロンドン店も営業。
メディア出演や講演会を通じて、日本の「和の心」の伝道をライフワークとして続けている。著書に「君よ知るや着物の国」(幻冬舎)。

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