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生き方

禅に学ぶ「イライラが止まらない」ときに効果的な呼吸法

枡野俊明(曹洞宗徳雄山建功寺住職)

2024年10月31日 公開

仏教において、三毒とは、私たちの心を煩わせ、苦しみの原因となる3つの根本的な煩悩のことを指します。貪(とん/貪欲な心)・瞋(じん/怒り)・痴(ち/愚かさ)。これらの悪感情を表に出さず、遠ざけることができる「呼吸法」とは? 曹洞宗徳雄山建功寺の住職である枡野俊明さんによる書籍『罪悪感の手放し方』より解説します。

※本稿は、枡野俊明著『罪悪感の手放し方』(日本能率協会マネジメントセンター)の一部を再編集したものです。

 

イライラを心で整えるのは難しい

罪悪感を含め、あらゆる煩悩を遠ざける方法として、「呼吸」があります。

例えば「部下を怒鳴りつけてはいけない。それは重々承知しているけれども、怒りの感情を押し止められそうにない」。こんなとき、どうするか。

それは必ずしも「怒りっぽい」人だけのお悩みではないと思います。私の目にも昔に比べて「切れる」人が増えた印象がありますが、それがその人の本性だとは、到底思えないのです。

むしろ、会社や学校、家庭からの「こうでなければいけない」という期待に応えようと必死に頑張っている人のほうが多いのではないでしょうか。しかしながら、大きすぎる期待はプレッシャーとなり、そのプレッシャーに耐えかねた精神は、いつか限界を迎えます。

そんなときは、呼吸に意識を向け、文字通り「一呼吸を置く」のが、禅の作法です。何も考えず、「ふう~~~~」と息を長く吐いてください。呼吸とは、呼(はいて)から吸(すう)もの。最後まで吐くことができれば、吸うのにコツはいりません。

禅には「調身(ちょうしん)、調息(ちょうそく)、調心(ちょうしん)」という言葉があります。姿勢を整え(調身)、呼吸を整える(調息)と、心も整う(調心)という意味です。

思い出してみてください。イライラしているときや、クヨクヨしているときに、頭のなかで「落ち着こう、落ち着こう」と頑張っても、心は乱れるばかりでしょう。呼吸はハッハッハと浅く短くなり、胸がいっそう苦しくなっていきます。

心の乱れを、心で整えるのは、これほどに難しいのです。心を整えたいなら、身体に意識を向けたほうがいい。そのための呼吸なのです。

今にも感情が爆発しそうで余裕がないときは、先ほど申し上げたように、「ふう~~~~」と息を長く吐くだけでも結構です。

ただし、坐禅で用いる丹田呼吸(腹式呼吸)を覚えると、より効果的です。丹田呼吸をするためには、まず調身です。骨盤を立て、背筋をまっすぐ伸ばします。この姿勢で腹式呼吸を行います。おへその下2寸5分(75ミリ)のところにある丹田を意識し、1分間に3、4回程度のペースで呼吸を繰り返すと、心が落ち着いていくのがわかるはずです。

このとき、背中が丸くなったり、前かがみになっていると呼吸がおなかに落ちず、胸式呼吸から腹式呼吸に切り替わりません。ご注意ください。

 

悪感情は「おなかにとどめる」

三毒を撒き散らして後悔しないよう、「まずい」と思ったら丹田呼吸です。禅では、感情を「おなかにとどめて、頭にあげない」という言い方をします。

例えば、誰かの言葉で怒りや悲しみの感情が湧いたとします。そのとき「こんなにひどいことを言うこの人は、自分に対して悪意を持っているに違いない。許せない、ひどいめにあわせないと、こちらも納得できない」という具合に、気持ちに収拾がつかなくなるのが、感情を頭にあげるということです。

中国の古い格言に「綸言(りんげん)汗の如し」という言葉があります。出た言葉と汗は後で取り消すことができません。感情にまかせて罵詈雑言の類を口にすれば、人間関係に傷がつき、最悪の場合、そこで縁が切れる恐れもあるでしょう。感情をおなかにとどめる、つまり、さらりと受け流すことができれば、そうした事態を回避できます。

もう一つ、感情をおなかにとどめるのに、いい方法があります。

それは大本山總持寺の貫首をされていた板橋興宗禅師さんの教えで、心のなかで「ありがとさん、ありがとさん、ありがとさん」と3回唱える、というもの。

どのような感情も、一瞬大きく揺さぶられることがあっても、呼吸を整えていれば、じきに平静さを取り戻します。その時間を稼ぐための、ちょっとしたおまじないが「ありがとさん、ありがとさん、ありがとさん」です。

 

著者紹介

枡野俊明 (ますの・しゅんみょう)

曹洞宗徳雄山建功寺住職

1953年、神奈川県生まれ。曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー、多摩美術大学名誉教授。大学卒業後、大本山總持寺で修行。禅の思想と日本の伝統文化に根ざした「禅の庭」の創作活動を行い、国内外から高い評価を得る。芸術選奨文部大臣新人賞を庭園デザイナーとして初受賞。ドイツ連邦共和国功労勲章功労十字小綬章を受章。また、2006年「ニューズウィーク」誌日本版にて「世界が尊敬する日本人100人」にも選出される。近年は執筆や講演活動も積極的に行う。

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