左から、貫井徳郎さん、箕輪尊文さん
日本推理作家協会主催の「第72回江戸川乱歩賞」選考会が5月18日(月)に開催され、応募総数465編の中から、箕輪尊文(みのわ・たかふみ)氏の『天使の負託――エンジェル・バレット――』が受賞作に選ばれました。
これを受け、5月20日(水)、受賞作の発表会見が行われました。昭和32年度の仁木悦子氏『猫は知っていた』から、昨年度の野宮有氏『殺し屋の営業術』まで、数多くの大型新人と傑作を世に送り出してきた本賞。新たな歴史を刻む受賞作の概要と、会見の模様を速報でお届けします。
激戦を制した受賞作
今年で72回目を迎える江戸川乱歩賞は、書き下ろし長編ミステリー小説を公募するもので、今回は465編の作品が寄せられました。
厳正な予備選考を経て最終候補に残ったのは、卯上笹生氏の『贖罪に手を汚す』、桑原なつみ氏の『家族毒』、平野尚紀氏の『Monju』、そして箕輪尊文氏の『天使の負託――エンジェル・バレット――』の4作品。18日の選考会での熱議の末、箕輪氏の作品が栄冠を手にしました。
選考委員を務めた日本推理作家協会代表理事の貫井徳郎氏は、「選考委員5人の評価は当初ばらついたものの、議論を重ねる中で受賞作は『天使の負託――エンジェル・バレット――』と意見が一致した」と選考の経緯を語りました。
特に高く評価されたのは、描写のリアリティです。貫井氏は「自衛官はまず洗濯やアイロンがけを徹底的に仕込まれるなど、自衛官の知らない世界が非常に面白く描かれていた」と述べ、「本当に自衛隊に入って書いたのではないかと思ったほど」と絶賛しました。箕輪氏の過去作と比べても「格段に腕が上がっている」と力強く評価しています。
10年越しの受賞
1993年生まれ、東京都出身の箕輪氏は会社員。東京工業大学大学院修了後も執筆活動を続けてきました。
江戸川乱歩賞への初応募は第63回。第65回・第67回で候補入りを果たしながらも受賞には届かず、今回の第72回でついに悲願を成し遂げました。
会見で箕輪氏は、「約10年間、江戸川乱歩賞学校で"小説とは何か"、"ミステリーとは何か"を考えてきた感覚だった」と、長い年月を振り返りました。
落選を重ねながらも書き続けた理由については、「悔しさというより、書くこと、考えること自体が楽しかった」と語ります。「毎年落選してがっくりもしたけれど、それでも"何か書けることはないか"と考え続けることが楽しかった」と、創作への真摯な姿勢をのぞかせました。
作品の着想源として箕輪氏が挙げたのは、2017年の南スーダンにおける自衛隊のPKO活動です。派遣の実態を調べるなかで、自衛官たちが懸命に任務に取り組んでいる姿とともに、「単純にはいかない部分」もあると感じたといいます。
今後の作家活動への抱負については、「これからが試練だと、身が引き締まる思いです」と決意をにじませました。
受賞作は9月頃に講談社より刊行予定です。選考経過と講評は、6月22日発売の『小説現代』7月号に掲載されます。
「天使の負託――エンジェル・バレット――」あらすじ
平和維持活動(PKO)で起きたある出来事から逃れるように、ピザ配達員をしている元自衛官・本庄恵梨香。彼女がピザを届けた女子高生が、胸を撃ち抜かれた死体として発見される。その手に握られていたのは、恵梨香が東エリトリアに PKO で派遣された時に受章した「国連メダル」だった。殺人事件の重要参考人となってしまった恵梨香は、自分の力で事件の真相を探り始める。
一方、恵梨香の元同僚であり、同じく過去の悪夢に苛まれる、もう一人の元自衛官・野島武。彼の元には姉をホストクラブ「エンジェル・バレット」に奪われたという地下アイドル・南川杏子が現れる。杏子から、「人を殺せるクスリ」の調達を強要される野島。戸惑いながらも杏子との交流を深めていくが――。
何かから逃げるように生きてきた恵梨香と野島。謎めいた女子高生殺人事件は、二人が隠蔽した過去と繋がっていた。