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「忙しくて本が読めない」を解決するには? 三宅香帆さんが希望を見出した1つの手段

PHPオンライン編集部

2024年10月21日 公開 2024年12月16日 更新

オーディオブック書籍ラインナップ数 No.1の「audiobook.jp」を運営する株式会社オトバンクは、10月21日(月)に「オーディオブック大賞2024」の授賞式イベントを開催しました。本イベントには今年4月に発売され、1週間で累計10万部を突破した大ヒット書籍『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』著者の三宅香帆さんが登壇。デオトバンク代表取締役会長の上田渉さんと、「働く」と「読書」をテーマにしたトークセッションが行われました。本稿ではイベントの模様をお伝えします。

 

ユーザーが選んだベストオーディオブック

【聴き放題部門】
大賞:『成瀬は天下を取りにいく』宮島未奈(新潮社)
https://audiobook.jp/product/269102

 

準大賞:『もしも徳川家康が総理大臣になったら』眞邊明人(サンマーク出版)
https://audiobook.jp/product/262132

 

【文芸部門】
大賞:『汝、星のごとく』凪良ゆう(講談社)

https://audiobook.jp/product/268350

 

準大賞:『兇人邸の殺人』今村 昌弘(東京創元社)
https://audiobook.jp/product/267933

 

【ビジネス書籍部門】
大賞:『JUST KEEP BUYING 自動的に富が増え続ける「お金」と「時間」の法則』ニック・マジューリ、児島修[訳](ダイヤモンド社)

https://audiobook.jp/product/268362

 

準大賞:『とにかく仕組化――人の上に立ち続けるための思考法』安藤広大(ダイヤモンド社)
https://audiobook.jp/product/267805

 

読書離れの原因は、スマホだけではない

【上田】今年9月に文化庁から読書に関するデータが発表されました。1ヶ月に本を全く読まない人が6割を超えていて、1冊ぐらいの人が3割弱なので、0~1冊の人が9割近くになってしまったというデータが出ています。

【三宅】本好きの身からすると読書はメジャーな趣味だと思っていたのですが、このデータを見ると、特に社会人の方には読書はなかなか手が出せないものになってしまっているのだと感じます。この調査は5年に1回行われているのですが、5年前は0冊の方が確か45%ぐらいでしたので、この5年で約20%上がったということになります。

【上田】驚きですよね。私はずっと出版業界の方と接してきたので、皆さん当然本を読んでいらっしゃったこともあり、本を読むのが当たり前だと思っていました。

【三宅】私は大学の専攻が国文学で万葉集を研究していたので、周りには本好きな人しかいませんでした。そこから大学院を出てリクルートという会社に入ったら打って変わって、みんな全然本を読んでいない。そのことに社会に出てから気付かされました。

【上田】1冊も読めない人が多くいるという現状で、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』が大ヒットしたのは素晴らしいなと思っています。本を読むコツや読書案内は定期的に流行ったりしますが、逆に「読めなくなる」ことについて書いた本でベストセラーになったのは珍しいなと思います。なぜ執筆されたのか教えてください。

【三宅】それこそ国文学の研究をしていた友達も、やっぱりそういう勉強をするぐらいだからすごく本好きな子が多いんです。それなのに、その子たちですら就職すると本を読めなくなったと言ってる子がたくさんいましたし、私自身も働き始めて読めなくなりました。

あるいは元々好きだった古典文学や海外文学のような、自分から遠い分野や文学作品からの距離ができてしまったという感覚を持つこともあり、「働いてると、本読めないよね」という話を友達とすることが多かったんです。

【上田】実際書いてみて反響はいかがでしたか。

【三宅】この本はWeb連載で約1年かけて書いていたのですが、連載のときから反響がすごくて。特にタイトルにただひたすら共感する声が来ていたので、これはパンドラの箱だったのでは...と思ったり。

出版不況の話が出てくると、みんなスマホが好きで、本なんか好きじゃなくなったんだという言い方をすることがありますが、私はそれよりも「本を読みたいけど読めない人」が想定より多くいるぞと思っていたんです。

友達の話を聞いていても、子育てをしていたり仕事がすごく忙しくて出張が多かったりすると、そもそも書店が空いてる時間に書店に行けない。会社が終わったら書店が閉まっているという話をよく聞くんです。

 

スマホゲームはできるのに、読書はできない

【上田】本書の中で、自身の仕事や自己実現で役立つ以外の情報をノイズに感じて摂取できなくなるという話がありました。この例として『花束みたいな恋をした』という映画が挙げられています。

【三宅】『花束みたいな恋をした』に、主人公が仕事にのめり込むにつれて、元々好きだった小説や詩集が読めなくていって暇があればスマホゲームをする状態になる、というシーンがありまして。実際そういう人たちは多いのではないでしょうか。

仕事はある程度充実しているんだけれど、だからこそ昔から好きだった本や漫画が読めなくなる。ただ、スマホゲームはできるのに本は読めないという、この境目は何だろうと連載中ずっと考えていて、その結論が「ノイズ」かなと思っています。

会社員的な仕事って、必要な情報と必要じゃない情報をひたすら選り分ける作業をしないといけなくて、例えばメールにしても「これはすぐ返すメール」「これはちょっと考えてから返すメール」...みたいな感じでパパッと情報を選り分ける作業をするじゃないですか。そういう作業に慣れていくと、本が提供する"自分が知りたいこと"を超えた知識、想像を超えた展開はノイズとして受け取ってしまうんじゃないでしょうか。

ただ長期的に見れば、ノイズは本当のノイズではないと私は思っています。例えば仕事をする上でも、昔読んだ知識が今の仕事に繋がるとか、全然繋がると思っていなかったことが仕事になることがあります。結果的にはノイズが自分の個性や、強みを作ってくれることがあります。

しかし、今の社会ではノイズを取り入れて強みを作る時間は、優先順位が低くなる。長期的なことはちょっと後にして、今のことを頑張りましょうという流れになっていると思いますね。

 

オーディオブックの可能性

【上田】働きながら本を読む手段としてオーディオブックが広がり始めていると思っています。まさに私も隙間時間で読書をするということでしか時間がとれなくて、オーディオブックを使ったらたくさん本を読めるようになったということがあります。そういったオーディオブックの使い方について、著者としてどう思われますか?

【三宅】最初の方を読んで、自分の求めてるものじゃなかったら読むのをやめておこうと判断する読者さんが多いですが、オーディオブックだととりあえず聞き流しておくか、と思ってもらえるので著者としてはすごく良いなと思っています。

また、『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』は、"働いていると『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』が読めない問題"というのがありまして...(笑)。「なんで本で出したんですか! 読めないんですけど!」と言われることもあり、オーディオブックは早いうちから出させてもらったので、「忙しいけど久しぶりに本を読めました」という声を沢山いただいて嬉しかったです。

【上田】オーディオブックが広がってるのは、本を読むのが苦手な人が実は多いからじゃないかと思っています。人間がそもそも本を読むのが得意な生き物なのかという話がありまして。

人間は赤ちゃんの時に親から話しかけられて、パパとかママとか喋り出して、幼稚園・小学校で文字を学んでいく、そういった過程をとります。そうすると人間の言語は音声で記憶していて、文字は後付けであるというのが実は脳科学上の大前提です。脳がどう本を読むのかというと、まず文字を見て、脳内で文字を音声に変換して、それから言語として認識理解するというプロセスをふむんです。

目で見て音声に変換するというタスクが得意な脳・不得意な脳というのは、先天的に決まっているという話があります。これが全く出来ないとなると、ディスレクシアといって本が読めないという症状になります。

字も本も読めるんだけど、読むのが遅い人たちもいます。読むのが遅いということは、結構な時間をとらないとじっくり読書ができないので、一冊読むのに多く時間がかかる人は仕事に支障がでるから読めないということが起きるのだと思います。そこで、オーディオブックであればさくっと聴けるので使っていただけているのではないかなと。

【三宅】私も聞いた話だと、やっぱり小・中学校のときに読書の時間があるけれども、ある一定の子どもたちはそもそも文字を読むのが苦手だったり、苦手と言わないまでもちょっとテンポがゆっくりだったりするそうです。そのことで、読書に苦手意識を持ったまま大人になった人でも、オーディオブックだったら読める方も絶対たくさんいらっしゃいますし、読書人口を増やす希望だなと思っています。

 

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