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災害時は「キャンプ道具でほとんど対応できる」 キャンパーの実体験にみる防災アイデア

佐藤唯行(フェーズフリー協会代表),マミ(CAMMOC)

2024年10月26日 公開

キャンプ好きな3人の女性から成る「CAMMOC(キャンモック)」。防災士の資格をもつキャンプインストラクターとして、"いつも"の暮らしを豊かにするものが"もしも"のときも役立ち支えてくれるという「フェーズフリー」の考え方のもと、目指すは、理想的なライフスタイルと防災の両立。

そのためのアイデアが、新刊『ラクして備えるながら防災 フェーズフリーな暮らし方』にたっぷり収録されています。

キャンモックのマミさんが、フェーズフリーの普及や、フェーズフリーな商品やサービスの企画、認証を行う「フェーズフリー協会」代表、佐藤唯行さんと対談。その様子を全3回の連載でお届けします。本記事は第1回です。

(構成:三浦ゆえ)

 

キャンプのある暮らし、そして防災へ

【佐藤】マミさんたちは"ママキャンパー"3人で、キャンプから得た防災のアイデアを提案していますが、そもそもキャンプはいつはじめたんですか?

【マミ】3人それぞれですが、私はかれこれ30年以上前ですね。小学生の6年間、ガールスカウトに入っていました。仕事として"キャンプのある暮らし"を提案しはじめたのは、2011年ごろです。

【佐藤】ガールスカウトって、訓練が厳しいと聞きますよ。

【マミ】ハードで、まさに練習を繰り返す訓練のようなものは大変なこともありました。その後ブランクを経て20代の後半、いまキャンモックを一緒にやっているメンバーに誘われてキャンプをしたところ、好きなもの食べて飲んで、好きな音楽をかけて、キャンプってこんなに楽しいんだ! と一気にハマりました。

【佐藤】ガールスカウトの訓練とは違った?

【マミ】はい、最初は、自然のなかでいかに快適な空間を作れるかというのに夢中になって、アイテムをいろいろとそろえました。こんなに便利なモノがあるのか、おしゃれなものもある!と出会うたびに買っていましたね。

【佐藤】いいものがたくさんあるから、キリがないですよね。キャンプを極める人って、モノに頼らない方向にいきませんか? 火を起こすにもカセットコンロは使わないとか、持っていくものを極力ミニマムにして、できるだけ使わずに過ごすとか。

【マミ】そうなんです、私もガールスカウトのほうに戻っていった時期があります。多くのキャンパーが通る道ですね。モノを減らすクリエイティビティをいかに発揮させるかに興味がわくんです。

【佐藤】私がフェーズフリー、つまり「平常時」と「災害時」という2つの時間=Phaseを分けるのをやめてみよう、と提唱しはじめたのが2014年。マミさんたちはその前からキャンプの活動をしていたわけですよね。それが防災とつながったのは、いつ、どういうきっかけで?

【マミ】キャンモックとして「キャンプのある暮らし」を提案しはじめたときは、防災のことは特に意識していませんでした。私たちは3人とも大規模の被災経験がなく、いま思えば防災意識は高くなかったんです。それが2019年、関東が大型台風に襲われて......。

【佐藤】「令和元年東日本台風」ですね。

【マミ】はい、ニュースでも備えるよう盛んに呼びかけられて、私も何かしなきゃと思いました。ライフラインが何日かストップするかもしれない、じゃあ何が必要だろうと考えて......。そのとき「キャンプの道具でほとんど対応できる」と気づいたんです。感動しましたね、私はすでに備えることができていたんです。

それでも足りない水などは買いに行きましたが、キャンプをとおして自分が1日にどのくらいの水を必要とするのかを知っている。だから冷静に行動できました。


▲キャンプでも使っているウォータージャグは、日常時も非常時も役立つアイテムのひとつ。

【佐藤】経験の賜物ですね。キャンプは、日常の暮らしから非日常の暮らしに、自分の意思で入っていく活動です。街中での、便利なモノがたくさんあるところから、ライフラインがないところに行く。

一方で災害は、突然地震や台風に見舞われて、平常時から否応なしに非常時へと突入していく......。そこに自分の意志があるかないかの違いがあるだけで、同じことをやっているように僕は思います。そこでの生活の質をどう保つかを考えるのが、共通点かな。

 

経験から得た学びを日常生活に活かす

【佐藤】キャンプってたいてい、想定外のことが起きますよね?

【マミ】起きますね。私もたくさん失敗してきました。テントを建てようとしたらポールが折れるとか、寝袋を忘れるとか。でもキャンプの場合、楽しみにきているという前提があるので、「よし、乗り越えるぞ!」と気持ちを切り替えて、それすら楽しんじゃう。そうしたら、もうどうしようもないと思っていた事態が、案外その場にあるモノでなんとかなるんですよね。

【佐藤】寝袋を忘れたときはどうしたんですか?

【マミ】テントに身ひとつで寝てみたら、思ったより平気でした(笑)。そうやって失敗を重ねるうちに、「ひとつ失敗したら、ひとつ経験を得られる。今日はラッキーだぞ」と思えるようになりました。そのときはテントの下が土で過ごしやすい気候だったこともあったのでなんとかなりましたが、「環境が違っていたら......」と考える機会にもなりました。

【佐藤】そういう経験がベースにあったから、大型台風が来るというときに「キャンプの経験も、モノも、非常時にも役に立つんだ」という発見につながったんですね。それはとても自然な流れに見えるんですけど、マミさんたちの場合は、そこからさらにもう一歩ある。「キャンプや非常時に役立つ考えやモノを日常に取り込むことで、暮らしが豊かになる」という提案。これ、とてもいいと思ったんですよ。

【マミ】著書に込めたメッセージのひとつに「理想の暮らしと防災は両立できる」というのがありました。

【佐藤】その本を読んで、僕はすごくうれしくなりました。これこそがフェーズフリーな暮らしだと感じたからです。防災について「危険を察知するよう準備しておきましょう」「家のなかにも避難経路を設けましょう」と発信する人は多い。でもそこから、日々の暮らしでも役立つか、生活を豊かにするかというところには、なかなかつながらない。

【マミ】それには、私がズボラなことも影響しているかもしれません。ドアの近くにモノを置かないとか、モノがあるべきところにあって導線が確保されているとか、それをしておくと避難経路を確保できて防災になりますが、何より日々の掃除がラクなんですよ。


▲マミさんの寝室。ワゴンや観葉植物はキャスター付きで掃除がラクにできるが、普段は壁面の有孔ボードにフックで固定している。

【佐藤】そうすることで、暮らしがよりよくなりますよね。災害が起きる前段階では、「災害予知」が大事といわれています。住まいに当てはめると、「普段と違う雲行きや雨風の強さを察知できるよう、大きな窓を作りましょう」となる。

でも、わざわざ大金をかけてリフォームし、"危険察知窓"みたいなものを作りたいと思う人は、あまりいないと思います。これが、庭や周囲の景色を楽しめて、自然光がたっぷり入って、そのなかで子どもたちがのびのび成長しているけるような窓なんです、と紹介すると......。

【マミ】そんな大きな窓のある住まいで暮らしたい。

【佐藤】そうなりますよね。多少お金をかけてもリフォームしたいという人が、少なからず出てきます。その結果、災害を予知しやすくもなる。これを本に出てきた言葉でいうと、「五感が育つ」家となって、そこには豊かさがありますよね。こんなふうに、よりよい暮らしを送りつつ防災もできている、というのがフェーズフリーの本質だと思います。

著者紹介

CAMMOC・マミ(きゃんもっく・まみ)

防災士やキャンプインストラクターの資格を有するママキャンパー。「キャンプのある暮らし」をテーマに地球の未来を創造する会社を運営する。自分に合う暮らしや防災を探求し、キャンプを通して無理なく楽しく続ける防災法を提唱するほか、テレビ・ラジオ出演、執筆やイベント登壇など、幅広く活躍する。著書には『ラクして備えるながら防災 フェーズフリーな暮らし方』(辰巳出版)などがある。

佐藤唯行(さとう・ただゆき)

フェーズフリー協会代表

「災害軽減(防災)工学」を専攻し、防災の専門家として活躍。国内外で多くの社会基盤整備および災害復旧・復興事業を手掛け、2014年には「フェーズフリー」を提唱。フェーズフリーの推進において根源的な役割を担い、複数団体の代表を務める。著書には『フェーズフリー 「日常」を超えた価値を創るデザイン』(翔泳社)がある。

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