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医師が推奨する「60歳からはじめる運動」 避けるべきトレーニングも...

小林弘幸(順天堂大学医学部教授)

2025年02月04日 公開

順天堂大学医学部教授の小林弘幸さんによれば、60歳以上の健康の鍵は「体・技・心」だと語ります。体の鍛え直しに効果的で、無理なく続けられる簡単なトレーニング方法を書籍『老いが逃げていく10の習慣』よりご紹介します。

※本稿は、小林弘幸著『老いが逃げていく10の習慣』(講談社)の一部を再編集したものです。

 

「心・技・体」より「体・技・心」

私は長年アスリートの体調管理など、スポーツの分野でパフォーマンスを上げるためのアドバイスをしてきました。パフォーマンスを引き出すためには、「心・技・体」すべてをバランスよく整えることが大切で、これらがそろってはじめて最大限の実力を発揮できるといわれてきました。

やがてこれはビジネスシーンなどでも重視されるようになり、いまやこの言葉を知らない人はほとんどいないのではないか、というくらい日本人に認識されている言葉なのではないでしょうか。

ところが、私は「心・技・体」より「体・技・心」といつもお伝えしています。まず体が健康で自律神経が整っている状態が大切で、その上で初めて、技術や心の状態がついてくる、と考えています。

特に60歳以上の方は、「体・技・心」だと思います。実際のところ、まず体です。歳を重ねると、肉体が健全であることは、何ごとにも代えがたい強みになってきます。

ですから、私の「やりたいことリスト」の筆頭は「体を鍛え直すこと」になっています。60歳過ぎた方に「健康のため何か取り組んでいることはありますか?」と尋ねると、皆さん「暴飲暴食をしないようにしています」「できるだけ睡眠をとるよう心がけています」といった答えが返ってきます。

それももちろん大切です。でも私自身は、それだけではなく、ちょっと欲張って「体を鍛え直す」ということをやってみようかと思っています。

ちょっと私もやってみようか、と思ってくださる方がいらっしゃれば、とてもうれしいことですが、ここに一つ注意点があります。急にハードなトレーニングをすることは避けてください。急にハードなトレーニングをすると、かえって自律神経が乱れてしまいます。

そしてリンパ球という我々を守ってくれている細胞が減ってしまうことにつながります。リンパ球が減ってしまうと、免疫力が低下してしまい、風邪を引きやすくなったり、疲れやすくなったり、かえって体調を崩すことにつながりかねません。

私の外来にも、ジムには10年間会費を払っているだけで一回も行ったことがない、という方がいらっしゃいますが、定年後時間ができたからといって、ここぞとばかりにハードなトレーニングをするのは危険です。もっと手軽にはじめられるメニューをご紹介します。

 

習慣にしたい小林式簡単トレーニング

では実際にどんなトレーニングをすればよいか、ということですが、私は60歳からはじめる運動には次の3つの基準を定めています。

①息切れをしない運動
②にこにこ笑顔でできる運動
③翌日疲労や筋肉痛を残さない運動

この基準に当てはめて、自律神経を整えて健やかな体に導く60歳からのトレーニングメニューは次の3つを推奨しています。

①3分呼吸法

健康長寿のカギは肺と腸です。生きていくためには呼吸と食事が不可欠だからです。肺には残念ながら再生機能がなく、肺自体を鍛えることはできませんが、肺の広がるスペースを広げてあげるトレーニングはできます。

実際のやり方は、3秒鼻から吸って6秒口から吐く、という1:2の呼吸を3分間続けるだけです。姿勢を正すという意味でも、胸を広げて呼吸しましょう。「運動ではないじゃないか!」と思われる方もいらっしゃるかも
しれませんが、まずはここからです。3分がきつい方は1分からはじめてください。集中すれば瞑想に近い感覚があると思います。

②朝晩3回スクワット

これは呼吸法の応用編で、深く呼吸をしながらスクワットをします。膝が90度になるようなハードなスクワットをする必要はありません。できる範囲で大丈夫です。

まずリラックスした状態で両足を肩幅に開いて立ち、4秒間かけて口から息を吐きながら腰を落としていきます。そして4秒間、鼻から息を吸いながらもとの位置まで戻ります。これを3回くり返します。朝晩の習慣にできると、筋力強化、血流改善、認知症予防にもなります。

③10分ウォーキング

一番手軽な運動がウォーキングです。5分からのスタートでも大丈夫。自分のペースでリズムを意識すると自律神経が整います。少しずつ距離を伸ばしていけるとよいでしょう。

 

著者紹介

小林弘幸(こばやし・ひろゆき)

順天堂大学医学部教授

1960年、埼玉県生まれ。92年、順天堂大学大学院医学研究科博士課程を修了後、ロンドン大学附属英国王立小児病院外科などの勤務を経て帰国。順天堂大学小児外科講師、助教授を歴任後、現職。自律神経研究の第一人者としてアスリートや芸能人のアドバイザーを務めるほか、TV出演などメディアでも活躍中。著書に、『なぜ、「これ」は健康にいいのか?』(サンマーク出版)、『一流の人をつくる整える習慣』(KADOKAWA)など多数。

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