80代で現役ダンサー、20億ドル企業を築いた“ジャザサイズ”創業者の原点
2025年01月10日 公開
1970~80年代に世界的なブームとなったダンスフィットネスを牽引し、当時は全米2位のフランチャイズにまで成長した「ジャザサイズ」。「ジャズダンス」と「エクササイズ」を掛け合わせた「ジャザサイズ」のブームは一過性に終わらず、創業55年を迎える今も世界17カ国、約9万人の会員を抱え、累積売上高20億ドルを超える企業へと発展しています。
そんなジャザサイズの創業者であるジュディ・シェパード・ミセットさんが近著『JAZZERCISE ジャザサイズ物語』(かんき出版)を提げ、来日したのを機にインタビューを行いました。起業家のパイオニアとして、また一人の女性として2回に分けてお話を伺います。(本記事は前編です)
世界で愛されるジャザサイズ
――アメリカ生まれの「ジャザサイズ」は、日本に上陸してからも40年にわたって愛されているそうですね。本日もイベントのために来日されましたが、初来日は何年ですか?
ジュディさん:1989年ですね。横浜のイベントに20名のダンサーを連れて来日しました。日本のみなさんが、初めて見る振り付けであっても、本当に上手に踊ってくださって感動したことを覚えています。もう何度も来日していますが、日本のみなさんのハッピーな表情やあふれるエナジーに、いつも感動しています。
――ダンスエクサイズのパイオニア的存在であるジュディさんですが、一過性のブームに終わらずに、55年という長きにわたって世界中で愛されているジャザサイズの普遍的な魅力は、どのような点にあると思われますか?
ジュディさん:世界のみなさんに愛していただいている理由は、第一に「楽しい」こと、さらにフィットネスとして「非常に効果的」であること、この2点にあると思っています。
また、私たちはお客様一人ひとりに手を差し伸べるという意識を絶えず持っています。そして、どんな方であってもジャザサイズを踊っていただけるような取り組みを行ってきました。みなさんが取り組みやすく、愛されるものを継続的に届ける努力をすることによって、ジャザサイズが普遍的でいられるのではないかと思います。
――ジャザサイズは全世界すべてのスタジオで共通の振り付けを共有しているため、違う土地のスタジオでもエクササイズをそのまま継続できることも大きな特徴です。多くの方に飽きられない理由として、継続的に最新曲をどんどん取り入れられている点もあると思いますが、今までに振り付けを行った曲のレパートリーは何曲くらいになるのでしょうか?
ジュディさん:長年にわたってレパートリーを増やし続けているので、数えきれないんです。現在は、年に5回のペースでジャザサイズの振り付けをリリースしており、1回のリリースにアーティストのみなさんの素晴らしい楽曲を40曲ほど使用しています。さらに、色々なバリエーションで振り付けを作るので全部で100種類くらいになるんです。
――それほど多いのですね。ジャザサイズはジュディさんが1969年にたった1人ではじめられ、80年代にはドミノピザに次ぐ全米2位のフランチャイズにまで拡大されました。そんな女性経営者として有名なジュディさんですが、起業家精神というものを幼い頃からお持ちだったのでしょうか。また、お母様の影響も強くあったのでしょうか。
ジュディさん:もちろん母の影響は多大にあったと思います。母は、幼い私のためのダンス講師を探し、教室にできる場所を確保し、生徒を集め、さまざまなダンス教室を開いたりダンスリサイタルを開催したりしてくれました。さらに、私のみならず、他の女性の起業のお手伝いもしていました。母は、そういったマネジメントが非常に得意でしたね。私もきっとその精神を受け継いでいるのだと思います。
責任を他人にまかせる意志
――3歳でダンスを習い始めて13歳ですでにダンス講師として活動されていたジュディさんですが、声帯を傷めて声が出なくなってしまった際に、やむなく自分の代わりに経験のある生徒にクラスの指導を任せたという経緯があります。それをきっかけにインストラクターを育成する必要性を感じ、やがてフランチャイズ展開していく流れになったのですね。
書籍にも「責任を他人にまかせる意志」がマネジメント能力として重要だとも書かれていましたが、権限を譲渡する上で気をつけていることはありますか?
ジュディさん:その頃は、私もパフォーマーとしてのエゴやプライドがあり、私がすべてをコントロールしなければという気持ちがありました。ですが、声帯を傷めたことが一つの大きな転機となり、他の人に委ねることの大切さを覚えたんです。はじめて人に委ねた際にみんながついてきてくれ、さらに他の人々も伸びるという好循環が生まれると気付いてからトレーニングがスムーズに進むようになりました。
人に委ねる、任せるということは、自分の輝きを伝達して、さらに輝ける仲間を増やしていくというとても心温まることでもあるのです。ジャザサイズからは、私だけではなく、たくさんのスターが生まれています。
――ジュディさんのビジネスプランは、「たくさんの人の助けになるシンプルなアイディアから始めて、あとは自然な成長に任せること」とおっしゃっています。ビジネスの成り立ちは純粋なものでも、組織の規模が大きくなるにつれて、純粋な気持ちだけでは経営していけないシーンも出てくるのではないかと思います。経営するうえで、一番大事にしていらっしゃること、いわゆる経営哲学のようなものはありますか?
ジュディさん:はい、私は利益を求めてジャザサイズを始めたわけではないんですね。ビジネスの設計図があったわけではなく、「楽しくて健康になるジャズダンス」を広く人々に提供したいという情熱がきっかけでした。その情熱を皆さんに感じ取ってもらい、愛情を持ってお互い交流しながら成長してきたと思います。
ですので、私のビジネスの哲学としてもっとも重要なことはパッションを持つこと。それによって人々がついてきてくれ、自然と成長・成功につながるのだと思っています。
――書籍の中にも書かれていた「エンパワーとエンカレッジ(力を与えて勇気づける)」ですね。とても素晴らしい考え方だと思いました。ご自分のビジネスにここまでの影響力があると思っていましたか?
ジュディさん:いえ、本当に想定外でした。ここまで自分が愛することを続けて、周りにも影響を与えることができたということは、驚きでもあり、とても光栄なことです。
――ジャザサイズは、女性の地位がまだ低く活躍しづらかった1970年代当時において、女性インストラクターを自立したビジネスウーマンへと育てる、女性の自立支援の側面もありました。
ジュディさん:フェミニスト運動にすごく影響があったと感じています。女性も起業して活躍できるということ、そしてフィットネス、ウェルネスを通じて社会に貢献できるということを示すことができたのではないかと思います。
――ジュディさんの歩みと経営のノウハウをまとめた近著『JAZZERCISE ジャザサイズ物語』を読み、創業時からのスタッフなど、ジュディさんは周りの方にも恵まれているように感じました。良いビジネスパートパートナーと出会う秘訣や、採用基準などを教えてください。
ジュディさん:まず従業員でもフランチャイズでも、私たちのカルチャーを受け継いでくださる方に仲間になってほしいと考えています。
ジャザサイズが他のフィットネスと異なる部分は、利益のみを目的とするのではなく、"人を助ける"という精神を大事にする点だと思うんです。その精神が根本にある人を大切な仲間として、スタッフやお客様まですべての人がWin-Winになるような形を模索していくことがとても大事なことだと思っています。
ですので、私はどちらかというとビジネスのメインストリームというよりも、哲学的なことを重要視するビジネスパーソンだと思っています。
【ジュディ・シェパード・ミセット】
世界最大のダンスフィットネス・フランチャイズ会社ジャザサイズの創業者兼会長。世に先がけてフィットネスとエクササイズの大切さを提唱し、トップ・ウーマン・アントレプレナーのプレジデント賞、フィットネス栄誉の殿堂で4回の殿堂入り、女性議員とエンパワーされた女性のための全国基金のアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー賞をはじめ、数多くの栄誉あるビジネスの賞を受賞してきた。世界的なベストセラーになった『Jazzercise: A Fun Way to Fitness』と『The Jazzercise Workout Book』に続き、3作目である本書で初めてジャザサイズの55年にわたる巨大な成功の歴史をふり返り、その裏にある秘密の数々を明かしている。