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主体性が足りない部下を激変させる「上司の声かけ」

井上顕滋(日本リーダー育成推進協会(JLDA)特別顧問)

2025年02月17日 公開

消極的な社員に主体性を持たせるために、管理職はどう働きかけるべきか。長年、経営者・経営幹部への指導や研修に携わってきた井上顕滋さんは、著書『7つの"デキない"を変える"デキる"部下の育て方』の中で部下が主体的に動けるようになるためには「クリアリング」が有効だと語ります。

※本稿は、井上顕滋著『7つの"デキない"を変える"デキる"部下の育て方』(幻冬舎)より内容を一部抜粋・編集したものです

 

主体的に動けるようになる仕事の任せ方

部下が主体的に動けるようにするには、仕事を丸々任せるという仕事の振り方が有効です。仕事を頼むときには「もし失敗したとしても、責任は私がとるから」という言葉とともに依頼するようにします。

主体的に動けないタイプの部下は、失敗を極端に恐れる傾向があります。成長する過程で、親が指示を出し、本人はそれに従うというのが当たり前になっていたので、自分で考えて動くという訓練が足りていません。加えて、言われたことをそつなくこなしてさえいれば怒られることもなかったので、新たなことに手を出して失敗したら怒られることになるのではと不安になります。

その不安を取り除くためには、上司が「誰だって失敗するんだから気にせずにやってみて」と声を掛けて背中を押してあげることが大切です。

また、主体的に動けないのは単に訓練不足に過ぎないこと、訓練すれば必ず主体的に動けるようになることを本人に認識させることも有効です。

上手に泳げるようになるまでには、まず水に顔をつけるところから始まって、けのび、バタ足、腕のストロークの練習と段階を踏んでいったのと同じように、主体的に動けるようになるまでには時間がかかります。それでも、必ずできるから取り組んでみようと勇気づけます。そのうえで、主体的に動けるようになるための協力は惜しまないということを伝えます。

このような話をしたあとに、自分で主体的に動けるようになりたいかを部下本人に聞くと、ほぼ例外なく主体的になりたいという回答が返ってきます。その際に上司が、「必ず主体的に動けるようになるよ」と言い切ることが大切です。「時間がかかるかもしれないけれど、専門家の先生も言っているから大丈夫」などと、本人が納得できるように保証すると部下も前向きに取り組めます。

 

「クリアリング」で部下の考える力を育てる

部下が主体的に動けるようになるための訓練として勧めたいのがクリアリングです。クリアリングでは、その日にあった良かったところと改善すべきところ、次からはどうするかという決意を書き出すというものです。自分の仕事を振り返って分析し、自分の頭で次にすべき行動を考えます。これを毎日の習慣として、自分の頭で考え自ら行動し始める能力を磨いていくのです。

良かったところや改善すべきところをスラスラと挙げられたら、そこからが本番です。必ずまだ書くべきことがあるはずだと信じて、さらに考えます。これを続けていくと、考える力が飛躍的に伸びます。
じっくり時間をかけて行うことが重要なのですが、クリアリングの意義をきちんと理解していないと、ほどほどのところで良しとしてしまいかねません。

そうならないように、事前になぜクリアリングをするのか、クリアリングをすることでどのような効果が期待できるのかを部下にきちんと伝えておきます。

主体的に動けないタイプの部下は、自分が指示待ちで主体的に動けない自覚があり、自分で考えて動けと言われてもできずに困っていることが多いので、クリアリングがその解決策だということを伝えれば、真剣に取り組めます。

 

「クリアリング」は会社の業績アップにもつながる

クリアリングは社員一人ひとりの考える力を伸ばすと同時に、会社の業績アップにもつながります。その理由は2つあります。

1つ目は、良かったところをきちんと分析することで、うまくいったことの再現性が高まるからです。そのときは偶然うまくいったのだとしても、うまくいった要因を分析し把握することで、もう一度同じようにうまく実行できるようになります。

振り返りをするときには改善点を挙げることばかり考えがちですが、今日はなんだかいつもよりうまくいったと感じたときにこそ、それはなぜだろうと考えるようにします。すると、うまくいった要因が次々と挙がってきます。それをリストアップして部署内で共有しておけば、次回にほかの社員が担当する際の参考になり、同じように成功させることができに、今まで見逃されていたことに気づくことができます。

それは本人の成長と業績アップに大きく寄与する改善点になり得ます。クリアリングをするにあたってよくある間違いは、良かったところの中身が分析になっていないことです。例えば、「お客様に感謝の言葉をいただいてうれしかった」というように事実だけを書いてしまう人がいます。

確かに、それも良かったところに違いないのですが、ここでの「良かったところ」の肝は、どんなことをしたからお客様に感謝されたのかということのほうです。こんなことをしたから、こうなったという書き方をしないと分析にはなりません。

クリアリングの意義を伝えるうえでは、上司が自分のやっているものを見せて、「クリアリングで考える力が伸ばせるんだよね」と伝えるのも効果的です。最初は時間がかかりますが、要領を得ると徐々にスピードが上がっていきます。私自身は毎日20分ほど時間をかけてじっくりやっています。

クリアリングにはそれだけの時間をかける価値があるからです。毎日のクリアリングを通して、粘り強く考える姿勢が組織全体に浸透していくと、上司が放っておいても社員一人ひとりが自分で考えて改善していくようになります。

主体的に動けない部下は、長いスパンで見ていくことが必要ですが、クリアリングを始めて1年も経てば、かなり考える力がついたという実感を得られるはずです。うまくいった理由を分析することで分析能⼒、問題を⾒つけることで問題発⾒能⼒、さらにどう改善するかを考えることで問題解決能⼒を向上させることができます。

問題解決よりも問題を発見することのほうが頭を使うものです。問題発見能力があって、ほかの人が見逃してしまうような問題に気づける人がイノベーターと呼ばれます。

例えば、スティーブ・ジョブズは2000年代の初頭にほかの人が気にも留めていなかったCDの問題にいち早く気づきました。そして、iTunes Store をつくり音楽業界のあり方をガラリと変えました。今では音楽をダウンロードして楽しむというスタイルは当たり前のものとなっています。

クリアリングを取り入れるときには、クリアリングまでを業務として組み込んでおくとじっくりと腰を据えて取り組みやすくなります。実務が終わったあとにさらに数十分をかけるだけの価値があるということは、実際にクリアリングを日々実践してみるとよく理解できるはずです。

著者紹介

井上顕滋(いのうえ・けんじ)

日本リーダー育成推進協会(JLDA)特別顧問

1970年生まれ。2004年 Result Design株式会社を設立。最先端の心理学および脳科学を学び、それらを融合させることで人それぞれの持つ能力を最大限に引き出す、独自の能力開発メソッドを確立。3000社以上の企業で経営者・経営幹部への指導や研修を行い、「1年間で離職率8分の1」「2年間で経常利益26.8倍」「営業成約率平均31.9%アップ」などの実績をもつ。エグゼクティブコーチ、メンタルトレーナーとしてオリンピック出場の日本代表選手や世界一に輝いたプロスポーツ選手のサポートも行っている。自らも経営者として30年以上の部下育成の経験を持つ。
2011年に未来の成功者を育てるため、小学生を対象とする日本初の非認知能力専門塾Five Keysを設立。2015年には非営利型一般財団法人日本リーダー育成推進協会 (JLDA)を創設し代表理事に就任。現在は特別顧問。講座などを通じてこれまで指導した小学生の保護者は4万人を超える。

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