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「当時、JALが嫌いだった」3.11をきっかけに、“稲盛流”の希望が差した出来事

稲盛和夫(京セラ名誉会長/日本航空名誉会長)

2012年10月18日 公開 2022年12月28日 更新

お客様からの手紙に深く感動

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ライフラインがすべて止まり、川の水を汲み、ひっきりなしに続く余震と原発の恐怖で眠れぬ生活を送る母を心配し、我々子供が住む関西へ呼び寄せました。

ところが朝、茨城空港を出発するはずの某社便が被爆危険を理由に急遽欠航。家へ戻る交通手段がない中、途方に暮れる70歳近い母を無事に関西まで送り届けてくださったのが、御社の客室乗務員の方でした。

ご実家の神戸に帰る途中の彼女は、計画停電で電車が止まるなど混乱する中、機転を利かし、茨城空港から、つくば→成田空港→伊丹空港へと、母を無事送り届けてくださいました。

途中、要所要所で我々子供たちへ報告をくださったり、緊張する母を労り、いろいろと話を優しく聞いてくださったり……かと思えば、混乱するバス停で並ばず、横入りする輩たちに、毅然と注意されていたと、母が感心しておりました。

お礼を申し上げたいので住所を教えてくださいとお願いしても、「私は何もしてませんし、私こそお母様と過ごせて楽しかった。こういうことは、回ってくるものですし……私も人から助けていただいてます」と。

もしかしたら、乗客の安全を日常的に訓練されている客室乗務員にとっては、普通の行為なのかもしれません。でも、高齢の母の体を案じ、体温を下げぬよう、水分を取るよう、そして気持ちを和らげるよう、かつ、家族にまで気配りを忘れぬ行動は、もし自分だったら……と思いますと、到底できぬことです。

また、長く会社員を勤めましたが、自分の育てた部下や後輩たちが、有事に、彼女のような行動をとれるかと考えると、そうした教育を施した自信はありません。そう考えますと、その客室乗務員の方はもちろん、彼女の先輩・上司の方々の素晴らしいマネジメントにも深く感謝です。

こうしたご時世ですから、骨身を尽くして働かれても、ご苦労が絶えぬのではないかと想像いたします。ですが、このたびのことを通じて、私たちも微力ながら御社を応援し続けたいと感じ入りました。いつか乗客として、またその客室乗務員の方の思いやりに触れる機会を得られることを願いつつ、お礼を伝えていただければ幸いです。 
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このようなお便りを多数いただき、私は深い感動に包まれた。そして、このような感動を呼び起こす社員たちの行動の源泉に、「フィロソフィ」、つまり経営哲学があると再認識したのである。

経験も知識も、そして勝算もなく、まさに徒手空拳でJALの再建に乗り込んでいった私。わずかに持っていったものは、経営哲学「フィロソフィ」と、経営管理システム「アメーバ経営」だけだった。

その「フィロソフィ」の一端を理解してもらうだけでも、社員の意識が劇的な変化を遂げ、その行動が素晴らしいものになっていった。さらには、その社員の意識改革に伴って、会社の業績も飛躍的に向上していくことになった。

社員の意識が良い方向に変われば、自ずから会社の業績も向上していく。JALの再建は、まだ終わったわけではないが、これまでの実績は、私が常日頃から述べている、「心を高める、経常を伸ばす」という経営の要諦を証明する、格好の事例となったものと考えている。

 

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