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「目標にできる上司が一人もいない」 早期離職していく若手の本音

井上洋市朗(株式会社カイラボ代表取締役)

2025年03月17日 公開

「目標にできる上司が一人もいない」 早期離職していく若手の本音

現在、50%以上の企業で人手不足が起きており、1人の求職者に2つ以上の求人があるというデータが出ています。人手不足の中で、若手の離職問題に頭を抱えている企業も少なくないでしょう。どうしたら離職を防止できるでしょうか? 若手が離職する原因について、書籍『離職防止のプロが2000人に訊いてわかった! 若手が辞める「まさか」の理由』より解説します。

※本稿は、井上洋市朗著『離職防止のプロが2000人に訊いてわかった! 若手が辞める「まさか」の理由』(秀和システム)を一部抜粋・編集したものです。

 

「尊敬できる上司がいない問題」が起きる理由

「会社が決めた配属先に従うのが当たり前」と思って働いてきた世代の方には、配属ガチャなんて言っている若手の考えが甘いと感じる方もいると思います。

キャリア論などを勉強している方であれば、クランボルツの計画的偶発性(プランドハプンスタンス)の話を引き合いに「キャリア上の予期せぬ出来事がチャンスになるんだ!」と、若手に力説している方もいるかもしれません。

私もキャリアには偶発性が必要だと思っています。かといって、配属ガチャ問題を今どきの若者のわがままだと一蹴してしまうのは早計です。

配属先によって、どんな上司のもとで働くかも決まります。若手社員にとって、どんな上司のもとで働くのかは非常に重要です。なぜなら「尊敬できる上司がいない問題」が発生する可能性があるからです。

「尊敬できる上司がいない」は、インタビューでも頻繁に聞く言葉です。大手IT企業を退職した方が「イケてる先輩がいない」ことを辞めようと思ったきっかけにあげていました。これも尊敬できる上司がいないのと同じような状態です。ほかにも、尊敬できる上司がいないと回答している例をいくつかご紹介します。

「『ついていきたい』とか『尊敬できる』という人を見つけられずに、なぁなぁに働いているみんなが敵に見えてしまいました。ミーティングで、患者さんのためにもっとよくするための提案をしても流されてしまうような状態で。(医療の専門職として)患者の気持ちを汲みとれない企業にはいられないと思いました」
(国際医療福祉大学卒業、大手医療法人グループの専門職を2年6か月で退職)

「上司が責任をとりたがらない、自分さえよければいいという感じでした。あと、裏ではお客さんの悪口を言っているのもイヤでした。あの人たちは自分が目指したい大人ではないなと思っていました」
(明治大学卒業、大手金融機関の営業職を1年6か月で退職)

「どれだけ自由にやっても、基本的にはクビにならないので、仕事中に居眠りしている人やプライベートなことをしている人もいて、がんばっても報われない感がありました。どれだけ自分が電話対応をがんばっても、隣で寝ている人のほうが給料が高いという状態でやりがいを感じられませんでした」
(津田塾大学卒業、地方公務員を3年で退職)

「先輩のターゲットにされて、怒鳴られたり、立たされたりしました。直属の上司との関係はよかったと思っていたけれど、今から考えると事なかれ主義なだけです。上司は『自分に攻撃してこない』というだけで、関係がよいと感じていたのかもしれません」
(立教大学卒業、大手旅行会社を2年9か月で退職)

「(社長のセクハラが発覚した後)社長は結構熱い人で夢や目標を語っていたのですが、その言葉を聞いても『セクハラをやっている人が何を言ってるんだろう』と感じてしまうようになりました。社員の中には社長を崇拝している感じの人もいて、その態度にも白けてしまいました」
(南山大学卒業、Web 制作会社のエンジニアを9か月で退職)

 

いずれのインタビューも、管理職にとっては耳の痛い話でしょう。

一方で「何を勝手なことを言ってるんだ!」という怒りの気持ちがこみあげてくる方もいるかもしれません。辞めた方へのインタビューなので、不平・不満が出てくるのは当然です。

もし、上司側にインタビューできれば、違った一面が見えてくる可能性もあります。離職者へのインタビューが、すべての真実を表しているとは限りません。

しかし、少なくとも離職者から見たときに、上司がどう見えていたのかを理解することはできます。そこに、離職対策のヒントが隠されていると考えられます。早期離職した方にとっては、尊敬できる上司がいなかった。そして、尊敬できない上司が、どんな発言や振る舞いをしていたのかがインタビューからはわかります。

 

なぜ、尊敬できる上司がいない問題が発生している?

では、そもそもなぜ、尊敬できる上司がいない問題が発生しているのでしょうか?
その理由は3つあると考えています。

【尊敬できる上司がいない3つの理由】
①SNSの普及による比較対象の拡大
②価値観の多様化
③上司のビジネススキル低下

①「SNSの普及」による比較対象の拡大は、平たく言えば「キラキラして見える人が増えた」ことです。会社員でもSNS上でフォロワーが多い、いわゆるインフルエンサーは存在します。若手社員の視点から、自分の上司とインフルエンサーを比べたときに「うちの上司イケてないな」と思えば、当然、尊敬するのは難しくなります。

②「価値観の多様化」の影響も大きいです。成果を残すためなら、残業や徹夜も辞さないという姿勢で仕事をしてきた人からすれば、仕事の成果にかかわらず、定時だから帰るという人の価値観を理解するのは難しいでしょう。逆も同じです。仕事に対する価値観が違いすぎてしまっては、尊敬したり目標としたりは難しいです。

③がいちばん厄介であり、多くの組織で起きています。「上司のビジネススキル低下」とは、上司のスキルが落ちたというよりも、業務上で求められるスキルがどんどん新しくなった結果、そのスピードに上司が追いつけていない状態です。

典型的なのは業務のオンライン対応です。若手社員はリモートワークやオンライン商談のための新しいツールもどんどんつかいこなすのに、管理職はなかなかつかいこなせないような状態が多くの企業で起きています。まさに、上司と部下とのスキルの逆転現象が起きているのです。

オンライン研修の講師をしていると、スキルの逆転現象には頻繁に遭遇します。

新入社員向けのオンライン研修では、すべての受講者がチャットや画面共有などを活用できるのでスムーズに研修が進行するのに対し、同じ会社の管理職研修では、いまだに「こういうツールは慣れていなくて」と言いながら、操作がおぼつかない受講者が何人もいることもあります。

こういう状況では、新入社員からすれば「簡単なオンラインツールすらまともにつかえない上司は尊敬できない」と思ってしまうのは仕方がありません。

ある民間企業の調査では、中小企業で働く20代の社会人の30.0%が「キャリアの参考や目標にできる上司が一人もいない」と回答しています。また同調査では、6割が今の会社でのキャリアビジョンが見えていないとも回答しています(株式会社あしたのチーム「中小企業で働く20代のキャリア形成に関する意識調査」2024)。

私がおこなっている早期離職者インタビューでも「尊敬できる人がいなかった」「あこがれる先輩がいなかった」という意見は非常に多く聞きます。辞めようと思ったきっかけが「唯一あこがれていた先輩が転職したから」というケースもあります。

若手社員にとって、上司や先輩の姿は、その会社で働き続けたときの未来の姿です。上司を尊敬できない、あこがれる先輩がいない状態では、当然その会社での未来に希望は持てず、成長予感も高まりません。ですから、成長予感を高めるには、管理職や先輩社員のスキルとマインドのアップデートが不可欠です。

 

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