謎多き「エヌビディア」 AI革命を牽引する巨大企業の3人の創業者
2025年03月11日 公開
ビジネス書を中心に1冊10分で読める本の要約をお届けしているサービス「flier(フライヤー)」(https://www.flierinc.com/)。こちらで紹介している本の中から、特にワンランク上のビジネスパーソンを目指す方に読んでほしい一冊を、CEOの大賀康史がチョイスします。
今回、紹介するのは『エヌビディア 半導体の覇者が作り出す2040年の世界』(津田建二、PHP研究所)。この本がビジネスパーソンにとってどう重要なのか。何を学ぶべきなのか。詳細に解説する。
エヌビディア ベールに包まれた世界一の企業
エヌビディアの時価総額は2023年5月に1兆ドル(当時約140兆円)を上回り、それから約1年後には3兆ドルを超え、一時世界のすべての企業のトップに輝きました。それ以降もアップルとマイクロソフトとエヌビディアの3社でトップの座を争っています。
アップルやマイクロソフトと比べて、エヌビディアについては情報が少なく、アップルの創業者のスティーブ・ジョブズ、マイクロソフトのビル・ゲイツに対して、エヌビディアの創業者をまだよく知られていないように感じます。
謎めいた巨大企業のエヌビディアについて、どのようなプロダクトを作っているのか、創業秘話など、本書は知りたいことが一望できる一冊になっています。
AIや半導体に関わる世界的な動きを主導
エヌビディアの主力商品はGPUと呼ばれるプロセッサ、すなわちコンピュータ内部で動く演算装置です。GPUはGraphics Processing Unitの略で、元来はコンピュータ上で画像を描くための処理装置でした。描画の際には、似た処理を並列で一斉に計算することが求められ、GPUはそのための数学的な行列演算式を素早く解けるように作られています。
その行列演算はAIで使われているニューラルネットワークでも多用されます。そして、行列演算が得意なGPUはAIの演算装置としても優れていることが著名な論文で示され、その後爆発的に需要が拡大してきました。
また、エヌビディアは半導体GPUだけでなく、AIの活用に欠かせない学習機能を強化するためのソフトウェアライブラリを充実させ、並列処理演算を実行するソフトウェアの「CUDA(クーダ)」を提供して、AIに関するハードとソフトを融合したエコシステムを築いています。
さらに2020年ごろにエヌビディアは、ソフトバンクグループが買収し傘下となっていたアーム社の買収にも乗り出しました。アーム社は半導体の知的財産を多く有することから、すべての半導体メーカーや半導体ユーザーに対する中立性が重要なため、米国の反トラスト法当局から認められず買収は実現しませんでした。このように、AIや半導体に関わる世界的な動きをエヌビディアは主導しつつあります。
創業期
エヌビディアは1993年4月にシリコンバレーで創業されました。3人の創業者のうちの一人が今でもCEOを務めている台湾系アメリカ人のジェンスン・フアン氏です。フアン氏はAMDでマイクロプロセッサの設計を手掛けた後、LSIロジック社でディレクターを務めていました。
その他の2人はサンマイクロシステムズでエンジニアだったクリス・マラコウスキー氏と、IBMとサンマイクロシステムズでグラフィックスチップの設計者だったカーティス・プリエム氏でした。
フアン氏らは、きれいな3Dグラフィックスを描くアイデアでエヌビディアを設立しました。彼らの議論の場はデニーズと決まっていたようで、後日デニーズのCEOもそれを大変誇りに思い、賞金付きのコンテストを企画するほどだったといいます。
グラフィックチップに注目したのは、日本で沸き起こっている大きな波を感じたからで、ソニーのPlayStation、セガのセガサターン、任天堂のNINTENDO64といった家庭用ゲーム機における性能競争が白熱していたという背景があったようです。
1995年、フアン氏は開発したチップを受託生産してもらうために、当時すでに3,400名以上の従業員がいる最大手のファウンドリとなっていたTSMCのCEOのモリス・チャン氏に手紙を書き、直々に折り返しの電話があったといいます。そして、1997年にGPUの生産を開始し、1998年1月期に初めての単年度黒字を達成しました。
AI時代の先導者としての地位を確立
AIにおけるGPUの拡大の契機は、2012年に開催された画像認識の精度を競うコンテストILSVRC2012で、AlexNetというディープラーニングを活用したモデルが圧勝したことだったと言われています。なお、そのAlexNetは後にノーベル物理学賞を受賞されたトロント大学のヒントン教授等が開発していました。
そのヒントン教授がAIの学習にエヌビディアのGPUとCUDAを活用しており、論文でもGPUによるAIの学習の優位性を示されました。その情報をつかんだエヌビディアはAI向けの技術開発に着手していきます。
エヌビディアの2014年度から2024年度までの部門別売上を見ると、ゲーム市場向け製品は2014年度の15億ドルから2024年度に104億ドルに拡大したのに対し、AI用途が主に含まれるデータセンター部門は同じ期間に2億ドルから475億ドルにも拡大して、その驚異的な年平均成長率は75%にも及んでいます。
また2024年6月に発表された世界のスパコン性能ランキングのうち、上位10システム中の6つにエヌビディア製のGPUが採用されています。なお、ランキング4位の日本を代表するスパコンである富岳は、上位10システムでGPUを用いていない唯一の例となっています。
これからのAI
ジェンスン・フアン氏は2024年の講演で、コンピューティング能力への需要は急激に拡大しているのに対して半導体微細化技術は飽和していて、コンピューティングのインフレが起きている。さらにこれからは大量のGPUを使ってコンピュータを作る時代になり、今後ディープラーニング技術が再発明されると伝えられました。
AIはスマートフォン、自動車、医療機器、製造業の検査機器など、すでに様々なところで応用研究が進み、私たちにとって知らない間にも活用する身近な存在になりつつあります。ITバブルで熱狂した20世紀末と同じように、私たちは2010年代後半から続くAIバブルを経て、実用期を迎えつつあります。
そんな時代に暮らす私たちは、AIに対して2つの異なるスタンスを取ることができるでしょう。
1つはAIを人類の幸福を阻害する問題として、そしてもう1つは人の暮らしをよりよくする便利な存在として扱うというスタンスです。どちらかが正解なのではなく、私たちにとってどちらの影響もあるでしょう。そしてその進化はもう止められない不可逆的なものとも言えます。
その時代を現時点でリードしているのは、本書で紹介されているエヌビディアやChatGPTなどを開発しているOpenAIを代表とするテクノロジー企業です。AIを恐れるのも、活用するのも、しっかりした知識に基づくべきで、そのためにはまず本書のような体系的な題材が有用でしょう。AIの世界をより深く知るために、まず押さえておきたい一冊です。