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ひとり歩きする認知症の親...「鍵をかけて行動制限」はやってはいけないのか?

工藤広伸(介護作家)

2026年03月31日 公開

介護をしていると、予想もつかない事態にたびたび遭遇します。介護本に書かれた専門家の意見を厳守しようとすると、現実との板挟みになってしまうと介護作家の工藤広伸(くどひろ)さんは語ります。

世の中にあふれる介護の"正論"との距離間はどうつかめば良いでしょうか? 工藤さんの著書『老いた親の様子に「アレ?」と思ったら』よりご紹介します。

※本稿は、工藤広伸著『老いた親の様子に「アレ?」と思ったら』(PHP研究所)を一部抜粋・編集したものです。

 

ひとり歩き(徘徊)する親に、どう対処する?

【くどひろ】介護では、たくさんの情報を集めることが大切だとお伝えしましたよね。でも、いざ親に介護が必要になったときに、その情報通りにやっても、うまくいかないことが結構あるんです。

【K】せっかく情報を集めたのに、なんでですか?

【くどひろ】目の前の現実との板ばさみになるからです。ちょっとわかりにくいと思うので、具体例をもとにお話ししていきますね。

【K】お願いします。

【くどひろ】たとえば、少し前に「認知症の人がひとり歩き(徘徊)をして、行方不明者が年間1万9000人をこえて過去最多になった」というニュースがありました。もしも自分の親が行方不明になったとしたら、Kさんは、どうしますか?

【K】そりゃ必死になって探しますよ!

【くどひろ】そうですよね。命を落としてほしくないから必死になって探すし、そんなことがまた起こらないように対策もしますよね。

【K】もちろんです。

【くどひろ】そのときに、たとえば、認知症の親が外に出られないように、玄関の内側に鍵をいくつもかけて親の行動を制限する家族もいます。

【K】命にかかわることなので、それも仕方がないと思います。

【くどひろ】でも、専門家のなかには、「鍵をかけて外出を制限することは、認知症の人の不安を強めたり、筋力低下を招いたりする可能性もある」と主張する人もいるんです。

【K】な、なるほど......。

【くどひろ】それは1ミリも否定のしようがない完璧な正論で、鍵をかけた家族は「自分は親にひどいことをしたな」と思ってしまうわけです。

【K】わたしが同じ状況になったとしたら、専門家の意見と目の前の現実のしんどさのあいだで、身動きがとれなくなりそうです......。

【くどひろ】正直、こういう正論と現実の板ばさみになるような情報が多くて、わたしも本当に頭を抱えています。

【K】くどひろさんでさえも......。

【くどひろ】鍵をかけないと、いつまでも介護する家族の不安は解消されません。それに、鍵をかけずに親が行方不明になって命を落とすようなことになれば、それこそ一生後悔します。専門家の主張は正論ではあるんですが、現在進行形で介護をしている人の正解になっているとは限らないんです。

【K】もし、くどひろさんがこの状況になったら、どう対応しますか?

【くどひろ】わたしなら、まずわたしなら、まず鍵をかけます。命より大切なものはないので。ほかに、GPSを使って親のいる場所をいつでも確認できるようにするし、認知症高齢者見守りネットワークにも登録します。あわせて、介護のプロの力を借りながら、親が外出する機会を増やして、筋力が低下しないように対策をします。

【K】どんどん現実的な策が出てきますね。

【くどひろ】「介護には正解がない」って言葉を聞いたことがありますか?

【K】い、いえ......。

【くどひろ】1人ひとり、体の状態や症状、環境などが違っているので、唯一絶対の答えがないってことです。でも、正解がないからといって、そこで考えることをあきらめるのではなく、正論をふまえながら、現実的な正解を見つけるようにしています。

 

正論だけでは介護はできない

【K】ほかに、正論だけど正解ではない例ってありますか?

【くどひろ】「地域や社会全体で高齢者を支えよう」という言葉ですね。

【K】よく耳にする言葉のような......。

【くどひろ】そうですね。これも正論なのですが、都市部では近所づきあいがかなり減っているし、地域との関係も希薄化しています。

【K】たしかに、広島の実家は近所づきあいがまだ多少は残っていますが、東京のわたしの家は隣にだれが住んでいるかも知らないです......。

【くどひろ】共感や相互理解で、すべての介護の課題を解決できたら最高なんですけど、地域や社会が変わるのを待っている余裕のない介護者も多くいます。

【K】何十年もかかってしまいますもんね。それじゃあ介護が終わってしまいます......。

【くどひろ】ですよね。さっきから何回も「○○って言葉があるんです」とか「△△って聞いたことがありますか?」とKさんに問いかけていたのですが気づきました?

【K】い、いえ......。まったく気づかなかったです(汗)。

【くどひろ】実は、それらの言葉って介護の本によく出てくる有名なフレーズなんです。これからKさんが情報収集していくなかでも必ず目にすると思います。でも、いざわたしが母のことで現実的な介護をせざるをえなくなったとき、「こんなことをしていいのだろうか?」と悩みました。ちゃんと情報収集していたからこそ、介護の正論にふれすぎてしまっていて、新しい不安が増えてしまったんです。

【K】正論と現実の正解のあいだには、やっぱり溝があるんですね......。しかも、くどひろさんは、いろいろ発信活動をされているから、余計に悩みそうです。

【くどひろ】そうなんです。わたしがやっているリアルな介護の姿を発信したら、専門家の意見に反していると思われて、炎上するんじゃないかって何度も思いました。

【K】実際にクレームなどが来たことはあったんですか?

【くどひろ】はい。たとえば、見守りカメラで母を見守ることですかね。「監視だ」とか「プライバシーを侵害している」とか。でも、正論を理解しつつも、現実的な介護をしないと認知症の母の面倒なんてみられないし、「最期まで自宅で暮らしたい」という母の願いも叶えられなくなると腹をくくってからは、葛藤もふくめて、そのままリアルな思いを発信しています。

【K】まさか、ちゃんと情報収集したことで、かえって悩むことになるなんて......。正論との距離感、わたしも気をつけたいと思います。

 

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