自己効力感(セルフエフィカシー)は、スタンフォード大学教授の心理学者アルバート・バンデューラ博士によって提唱された概念です。
自己効力感は、「自分ならできる」「自分ならきっとうまくいく」と自分の能力やスキルに対して、信じられている認知状態のこと。「自信」に近いものですが、ただやみくもに「できる」と思うのではなく、明確な根拠に裏打ちされた自信といえます。
一方で自己肯定感は、「自分という存在」を好意的、肯定的に受け止め、長所だけではなく短所なども含めて自分をありのまま認め、自分を信頼している感覚です。
本記事では、自己効力感を高める方法の一つ「生理的・情緒的状態の管理」、その中でも特に「心のコンディションと幸福感」について工藤紀子さんに解説していただきます。
※本記事は、工藤紀子著『レジリエンスが身につく 自己効力感の教科書』(総合法令出版)の一部を再編集したものです
ポジティブな気分をつくり幸福感を高める方法
心のコンディションを良くするために、ここでは一歩進んで、積極的にポジティブな気分をつくり幸福感を高める方法に焦点を当てます。
幸福感を高めることは、単に心地よいだけでなく、レジリエンスを築き、日々の取り組みやチャレンジに対して、より良く対応できるコンディションをつくります。
毎日の幸福感を高める小さな選択が、ポジティブな心理状態を形成し、結果として自己効力感を強化しやすい最適な環境をつくることにつながるのです。
感情は外部の出来事に反応して生じると考えがちですが、実際にはその出来事をどう捉えたかの自己解釈が感情をつくり出します。ですから、出来事に関する自己解釈を意識的に変えることで、ネガティブな感情をポジティブな感情に変換できます。
ここでは、ネガティブな気分をポジティブな方向に導く"幸福感"を高める具体的な方法を紹介します。
自分の機嫌をとる
誰にでも、気分が落ち込む日、気分が乗らない日はあります。
気分は、感情よりも漠然としていて、原因が特定できないことが多い心の状態です。この気分が、私たちの行動に間接的に影響を及ぼすことがあります。
気分が落ち込んだり、気分が乗らなかったりするときこそ、意識的に自分で自分の機嫌をとり、気分を良くしていくことをおすすめします。
自ら楽しいことや心が穏やかになること、気分が上がることなどをやってみます。
あなたが楽しめることを積極的に行って気分を良くするのです。
そのためには、自分は何をすると楽しいのか、気分が上がるのか、何が心を穏やかにするのかを理解することが大切です。事前に自分の好きなことを明確にしてみましょう。
「あなたは何をしているとき、どんなときに、心地よさや幸福感を感じますか?」
自分に問いかけて書き出してみましょう。
自分が楽しめる活動の例
音楽を聴く・演奏する、スポーツをする、絵を描く、リラクゼーション(アロマセラピー、マッサージ、瞑想、サウナ、温泉)、友人や家族と過ごす、旅行、カフェ巡り、おいしいものを食べる、自然に触れる、動物に触れる、睡眠など
気分が乗らない日には、書き出したものを見て、自分が一番欲しているものを実践してあげてください。
また、自分が楽しさや心地よさを感じる時間を積極的につくることは、自分の機嫌をとり、心身の健康を保つことになるので、意識的に毎日の中に取り入れることもおすすめです。
自分の機嫌をとることは、自分を思いやり労わることでもあります。ストレスの軽減にもつながります。周りにも優しくなれるので、より良い人間関係を築くことができます。ぜひ、実践してみてください。
人の良いところ(美点)を見つける
人の良いところ(美点)に目を向けられると、肯定的な受け止め方ができるようになるので、相手の言葉や振る舞いに対しネガティブに反応しにくくなります。
人の長所や良い行動に焦点を当てて認めると、自己の幸福感が高まることは研究でも明らかになっています。これは「ポジティブな他者認識」とも呼ばれています。
研究では、他人の良いところに目を向けることが個人の幸福感だけでなく、人間関係や職場環境においても前向きな影響をもたらすことが示されています。
対人関係におけるストレスが軽減し、コミュニケーションがスムーズになると、関係が良好になります。それは、心身のコンディションにも良い影響を与えるのです。
人には誰にでも良い面があるという前提で、「ポジティブな他者認識」をしてみましょう。
人の良いところを探すときに着目するポイント
・才能や特技、強み
〔例〕 誰とでも仲良くなれる、発想力がある、コミュニケーション能力が高い、気遣いができる、発想力がある、知識が豊富など
・特性、性格
〔例〕 記憶力がいい、集中力がある、優しい、温和、行動力がある、誠実、丁寧など
・言葉や行動(相手がどのように人と接するか、どのような行動を取るかに注目)
〔例〕親切な行動、明るく前向きな言葉と相手を尊重する態度など
・価値観や大切にしているもの
〔例〕 社会への貢献、キャリアの成功、持続可能な製品を選択する、家族を大切にしている、ウェルネス(よりよく生きようとする生活態度)を意識しているなど
その人の良いところを見つけたら、ぜひ相手に伝えてみてください。
誰にとっても感謝や賞賛の言葉はとてもうれしいものです。その人自身も自分の美点を自覚するきっかけになりますし、相手ともさらに良い関係が築けます。
人の良いところを見つけるためには、自分が自分に対してポジティブな視点を持つことが大切です。自分の長所や良いところを認識できると、人に対しても肯定的な視点を持つことが容易になります。
ポジティブな他者認識が難しいと感じたら、まず自分の良いところを見つけることから始めてみてください。