10数億円もの借金を抱えて不眠に 米米CLUB・石井竜也を救った「父のひと言」
2026年02月19日 公開
30代半ばで10数億円という巨額の借金を背負い、裏切りやだましにも遭って人間不信に陥ってしまった、米米CLUBのカールスモーキー石井こと石井竜也さん。絶望の淵で眠れない日々を過ごす彼を救ったのは、父からの1本の電話でした。負のエネルギーに飲み込まれそうになった彼を勇気づけたひと言とは、いったい何だったのでしょうか。(取材・文:辻 由美子)
※本稿は、『PHP』2026年1月増刊号の内容を一部抜粋・再編集したものです。
争って時間を浪費するくらいなら、作品づくりにエネルギーを使いたい
僕がボーカルをつとめるバンド「米米CLUB」は、2020年にデビュー35周年を迎えました。
芸能界にいると、いろいろな人と出会います。すばらしい才能を持った人と知り合うこともあるし、人を利用するためだけに近づいてくる人間もいる。
僕は目の前のことに一心不乱に取り組んでしまうタイプなので、スキだらけ。簡単にだまされてしまいます。
でも、そうなっても争わないことが多いですね。そんな人たちと争って時間を浪費するくらいなら、次の作品づくりにエネルギーを使いたい。そうしないと、いつまでもクヨクヨしてしまって、心が休まらないですから。
負の感情を断ち切る勇気を持つ
そんな僕でも、さすがに落ち込んだ時期がありました。30代半ばに、映画を立て続けに2本つくって、大きな借金を抱えてしまったんです。まさに、どん底でした。とても前向きにはなれなかった。
1本目に製作した「河童」は高い評価を得て、興行的にも成功をおさめたのですが、2本目につくった「ACRI(アクリ)」という映画にお金をかけすぎてしまったんです。
何しろ、すべてがオーストラリアロケ。CG制作がまだ容易ではなかった時代に、ハリウッドからスーパーコンピューターを20台も取り寄せ、CGをどんどん使って編集しました。ビル1軒が建つくらいの制作費です。
それなのに、思うような収益が得られず、気がつけば10数億円もの借金が残ってしまったんです。
あっという間に、周りから人がいなくなりました。裏切られたり、だまされたりといったこともあって、ひどい人間不信におちいってしまったんです。
毎日、考えるのは借金返済のことばかり。睡眠薬の助けを借りなければ、夜も眠れなくなって、このまま目が覚めなければいい、と思ったことも1度や2度ではありません。
最悪の状況を抜け出すきっかけとなったのは親父のひと言です。ふだんは無口で、おとなしい人でしたが、僕がギリギリまで追い詰められていたときに、電話をくれたんです。
「おまえは、あれだけ人を喜ばせてきたんだろ。それは、お金に換算できないじゃないか。俺は、おまえの価値を信じている」
僕自身や、僕のやってきたことの価値は、お金にかえられない...。ハッとしました。借金と自分の命を天秤にかけていたことの愚かさに気づかされたんです。
そして、いつまでもクヨクヨとマイナスの感情をひきずっているのが馬鹿らしくなりました。負のエネルギーは何も生まない。失敗したことや後悔、恨みなどを、自分の中でいったんすべて終わりにする「勇気」と「覚悟」が必要なんだ。あの日、親父からの1本の電話で、そう思うことができたんです。
人をはげますと自分も元気になる
ちょうどそのころ、メンバーの方向性の違いもあって、「米米CLUB」をいったん解散することにしました。
僕は1人で音楽活動を始め、無我夢中で働いて、数年で借金を返しました。この間、走り続けましたが、つらくはなかった。なぜなら、人が喜んでくれる仕事をするのは楽しい、と思うようになったからです。
苦しいときに一目散に離れていった人や、だまそうとする人がいる一方で、グループを解散して1人になっても、集まってくれるファンがいる。僕が生きて活動することで、喜んでくれる人たちがいる。もちろん、状況は苦しいのですが、そんな人たちのおかげで、疲れやつらさは軽くなっていきました。
僕の歌で元気になってくれた人を見て、僕もはげまされ、強くなる。仕事を楽しみ、没頭するほど、元気を取り戻していったんです。
人生はおだやかな凪のときばかりではありません。ときには乱気流にまきこまれて、出口が見えなくなることもあるでしょう。
そういうときはいったん立ち止まって、勇気をもって負の感情を断ち切ってみる。そして、楽しいことに集中する。そんなふうにして、僕は自分をはげましてきました。