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ネガティブな感情を解消する「感情を書く」メソッド 筆記開示がもたらす効果

岸本葉子(エッセイスト)

2025年07月23日 公開

誰もが抱えうる、悔しさ、恨み、嫉妬...といったネガティブな感情。心にわだかまるモヤモヤとした気持ちをどう扱えば良いか分からないとき、文章としてを思いを書きつづることが心の整理に役立つかもしれません。本稿では、書くことが心に与える影響について、書籍『「人生で大切なことに気づく」ための文章術 自分のことを書いてみる』より紹介します。

※本稿は、岸本葉子著『「人生で大切なことに気づく」ための文章術 自分のことを書いてみる』(アスコム)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

なぜ、書き続けると心も文章も整うのか

ネガティブな感情体験を紙に書いて言語化することは、心身の健康に好影響を与える──。

これは、アメリカの社会心理学者によって開発された「筆記開示(Expressive Writing)」というメソッドにおいて、よく知られていることです。

1980年代に生み出されたこの方法については、その後、さまざまな分野の専門家たちが数多くの調査結果を報告しています。筆記開示を行った人々では、免疫機能が向上して病院に行く回数が大幅に減ったり、抑うつ症状の軽減が見られたりなど、さまざまなポジティブな効果があるとされています。

筆記開示の基本的な方法は、「1日20分間、自分の体験したネガティブなことについて思うままに書き続け、それを4日間継続する」というもの。書くことがなくなったら、すでに書いたことをくり返すだけでよく、句読点・スペル・文法などに注意をする必要もないとのこと。

文章の内容や表現よりも、「ネガティブなことを思うままに、とにかく書き続ける」ことに意味があるのでしょう。

ここで興味深いのは、初めから整理して書けるような人は「書くことによる変化」の恩恵をあまり受けず、だんだんと文章が変わっていく人のほうが「書くことによる心身へのよい変化」が起きていたということ。学力とは関係ないそうです。

自分のことを書く、その中でネガティブなことも思い出して書くことは、この「筆記開示」と似たような変化が期待できるかもしれません。

書き始めはドキドキするでしょう。他人に見せられるものになっていないでしょうし、「他人に見せられるものにしよう」と考えることも、この段階ではしなくていいと思います。

心がざわざわして、他の思い出の部分とは同じような調子で書けなかったら、他の思い出の部分と切り離して、そこだけ書いてみるのも手です。他の思い出の部分とは後でつなげる、すなわち思い出の並び順として、そこに置けば"ストーリーが通る箇所"に後から挿入するのでかまいません。

こうして、とにかく書いてみて、また日を改めて書いてみる。そうするうちに、心も文章もきっと整ってくるはずです。

 

ネガティブな言葉を書き続けると、文章も整っていく

「心への効用」だけでなく、「文章への作用」も現れると私が考えるのには、理由があります。

感情がほとばしるままに20分間も書き続けるのは、かなり大変な作業です。

理不尽な経験をしたならば、初めのうちは、「苦しい」「悲しい」「悔しい」「アイツが憎い」「運命を呪う」といった言葉がとめどなく出てくるでしょう。恥ずべきことではなく、必要なプロセスです。けれど、そういったネガティブな言葉ばかりを書き続けているとしだいに倦み疲れて、そうした言葉ばかりを書き続けていることが嫌になってきそうです。

書き終えた後には、ネガティブな言葉からくる「後味の悪さ」も感じそうです。すると、次の日も同じようにネガティブな言葉ばかりを書き続けるのは、むしろつらくて、困難になってきそうでもあります。

さらに、堰を切って出た感情のほとばしりが、落ち着いてくると「あの感情は何だったんだろう」「なぜあのように思ったんだろう?」と振り返る余裕が生まれてくるでしょう。

このような変化の相乗作用として、ネガティブな言葉を感情のままに書き付けていることに違和感をおぼえ、おのずと別の書き方をするようになる、すなわち文章が整っていくようになるのでは、と想像します。

調査研究によれば、筆記開示をした人の文章にみられる変化があるそうです。文章に「理由」「根拠」「洞察」「理解」「意味」などを表す言葉が増えていくといいます。とても興味深い変化です。

ネガティブな思い出に対して、感情のままに書き付けていたレベルから、「なぜかを問う」「自分にとっての意味付けや理由付けを探る」「人生の上での位置付けを直そうと試みる」といったレベルへの、考えの深まりが起きていることを、示唆していると思うからです。

筆記開示の話が長くなりました。

それを通して伝えたかったのは、ネガティブなことこそ実は「書きがい」があって、何度も書くうちに、ネガティブな思いから自力で抜け出せる可能性があるということです。

 

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