あなたは、「お人好し」で損をしていませんか?
「こんなこと言ったら相手に悪いかな......」
「反論するのも面倒だから、黙っておこう」
「わたしのために言ってくれてるから、聞いておかなくちゃ」
そう思って、言いたいことを我慢していませんか?
そして、けっきょく損をしていませんか?
そう。日本人には、主張しないことで損をする「お人好しの口下手さん」が多すぎます。お人好しであるがゆえに自分を出せず、自己評価も低くなってしまう―そんな人を、わたしはたくさん見てきました。
でも、人の話をきちんと聞けるあなたは、じつはすぐに「コミュ力の達人」になれる可能性を秘めているんです。
※本稿は、川畑亜紀著『お人好しが損しない話し方の教科書』(日東書院本社)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
コミュニケーションはテクニックの連続!
日本人の多くは、「わたし、口下手だから」と自分をコミュ障でお人好しなカテゴリーに分類して、天敵であるパワー系コミュ障(後ほど解説)との対決を避ける傾向にあります。
自分さえ黙っていれば集団の和を乱すこともないし、余計なトラブルも回避できる。どうせ、言葉で対決したくても、話す力で太刀打ちできないし。そんな諦めの気持ちに支配されていませんか?
天性の才能でコミュ二ケーションの達人(以下「コミュ強」)となっている人もいますが、じつはテクニックを身につけてコミュ強に変身できた人もたくさんいます。
これはスポーツと同じ。恵まれた資質でものすごい記録を出すとんでもない人がいる一方で、日々のトレーニングを積んで優秀な成績を残す選手がいます。
そして近年では、スポーツの世界でも科学的トレーニングが積極的に導入されています。昭和の時代に支配的だった汗と涙の根性論ではなく、きちんと理論構築されたノウハウです。
コミュニケーションの世界でも、同じように全体を俯瞰した分析とアプローチが可能です。そこで、人を4つのタイプに分類しました。
・誰をも引きつける魅力を持った「コミュ強」。
・天敵になりがちな「パワー系コミュ障」。
・ この本を手にした多くの方が当てはまっていそうな「お人好し系コミュ障」。
・ 我が道を行く「無関心系コミュ障」。
この4者の違いをはっきりと把握することで、とるべき対策はしっかりと見えてきます。
それぞれのタイプを解説していきますが、まずは自分がどのタイプに当てはまるのか、あらためて考えてみてください。
「インプット力」と「アウトプット力」が両立したコミュ強
みなさんが「かくありたい」と思う存在、それがのコミュ強ですね。
カリスマ性があって話し上手で行動力があり、語る言葉に多くの人が耳を傾けてくれる。1対1でも多数が相手でもトークが盛り上がり、場の空気を明るく支配してくれる。そんなコミュ強の最大の特徴は、じつは上手に話せることではありません。
まず、人の話を聞く。人の意見にしっかりと耳を傾け、その上で相手の気分を害さない言葉を選んで自分の意見を伝えることができる、それがコミュ強です。
ですから、話す内容があっちこっちに蛇行せず、こちらが提案した話題については、しっかりと結論まで導いてくれます。それも、だれかの意見に言いくるめられるのでなく、こちらがなにを期待し、どんな決着を求めているかを汲んだうえで、解決策に気づくよう巧みに誘導してくれるのです。
こんなタイプの人が職場の上司にいたら、人望を集める存在になっているに違いありません。あらゆる職種に達人は存在していますが、相手の意見をしっかり聞ける「インプット力」と自分の意見を無理なく伝える「アウトプット力」が両立するというのは、じつは想像以上に高いスキルです。
自覚はないけれど密かに嫌われている? パワー系コミュ障
言いたいことは言うが人の話を聞かない人。しかし、なぜか職場などではコミュ強より目立つ存在であることが多いのが、このパワー系コミュ障です。
パワー系の最大の特徴は、自分のことに大きな自信を持っていることです。会話も自信満々の態度で進めますし、会社ではそこそこ出世している人も多いです。
しかし、優秀だから出世しているとは限りません。声が大きいから自分の意見を押し通しやすいだけなのです。ときには周りのコミュ障さんたちにストレスを撒き散らし、いいところだけを自分が持っていってしまうので、陰で部下から嫌われていたりします。
パワー系コミュ障の典型的行動パターンは、人の話を聞かない(もしくは自分の話題に誘導して自分が多く話す)、自分の意見を押しつけてくる、反論するとすぐに不機嫌になる、などなど。
そして、自分のコミュ障ぶりに無自覚。中小企業のワンマン社長などによく見られるタイプですが、大きな会社組織の管理職にいたりすると、その部下になった人たちは不運としか言いようがありません。
パワー系コミュ障と遭遇したら、正面からぶつかっても非生産的です。押しつけられた意見を「いいアイデアですね」と笑顔で持ち上げてから、「そこでこんなアイデアも加えたら、もっと良くなりそうですね」と提案し、さりげなくこちらの意見に誘導してしまいましょう。
コミュ強への伸び代がたっぷり!お人好し系コミュ障
「わたし、口下手だから」というのが口癖になっているみなさんの多くが該当するのが、このお人好し系コミュ障です。
あ、悲観しないでくださいね。そんなあなたこそ、コミュ強に生まれ変われる最高の伸び代が存在しているんです。別の言い方をするなら、じつはみなさんは真の意味でのコミュ障ではないのです。
よくよく考えてみてください。みなさんは、ちゃんと人の話が聞けてますよね。相手が言わんとすることの意味をちゃんと理解できてますよね。そこまでは、すでにコミュ強と同じです。
その上で、気の利いた言葉、もしくは的確な言葉を発することができず、口ごもってしまう。そんな自分をもどかしく思って、自虐的に「コミュ障」と言ってしまうだけなんです。
そんなあなたは、ぜひ本書を隅から隅まで読んで、紹介しているテクニックをからだに覚え込ませてください。コミュニケーションは、テクニックの連続です。
これを使いこなすのはスポーツの練習と同じ。日頃からトレーニングを積み重ねることで、コミュ強の人たちと同じように話すことができるようになります。話せるようになれば、自信もついてきます。
自信がつけば表情も明るくなってきて、まわりの人たちから「コミュ強」と見られるようになります。
わが道を突き進む!無関心系コミュ障
「コミュ障」という言葉で一番イメージされやすいのがこのタイプが無関心系コミュ障さんです。ここでいう無関心とは、「自分の興味関心以外のことには」強い関心を持たないという意味です。
なによりも自分の世界を大事にしていますので、そもそも広くたくさんの人とコミュニケーションをとりたいと思っていません。興味のない相手の話を聞いたり、自分が伝えたりすることに必要性を感じていないんですね。
これが、お人好し系コミュ障との決定的な違い。
ですから、自分がコミュ障であることにあまり悩んでいない割合が高いでしょうか。このタイプは自分の興味ある世界に深くのめり込む方に多い傾向があります。
その力を生かして研究者になっていたり、なにかのオタクだったりという方もいるでしょう。ただ、その専門性を活かすときにも、知識のない素人にわかりやすい言葉で語るのが難しかったりします。
興味のないことにはインプットもアウトプットもしたがらないので、付き合うときにはある程度の知識をつけるか、専門用語を翻訳してくれる仲介人が必要です。
コミュ強への冒険の旅を始めよう!
みなさん、自分がどのタイプに当てはまるか、わかりましたか?
「わたし、じつはコミュ強かも」と思えるなら最高です。「まずい、本当はパワー系コミュ障だったかも」と思ったなら、まずは相手の話にしっかり耳を傾けるようにしましょう。「無関心系コミュ障だな」と思ったあなたは、そのままわが道を行くのもいいかもしれません。
そして「わたしはお人好し系コミュ障」と実感したあなたは、コミュ強になれる大きな可能性を秘めています。
コミュ障から卒業したいという意欲を持っている時点で、すでにあなたは冒険の第一歩を踏み出しているのです。
【川畑亜紀(かわばた・あき)】
神戸大学文学部卒業。静岡エフエム放送で局アナウンサーとしてキャリアをスタートし、のちにフリーアナウンサーへ転身。NHK大阪や毎日放送など、関西の放送局で多数のレギュラー番組を担当。2023年よりSNSでの発信を開始し、「話し方」ジャンルにおいて人気を博す。わずか2年でSNS 総フォロワー数5万5千人を突破。「話し方を義務教育に」をミッションに掲げ、一般社団法人戦略的コミュニケーション力育成協会(ASK)を設立。企業・教育機関・行政機関を対象に、「伝える力」に特化した人材育成を行っている。また、コミュニケーションに悩む個人向けの勉強会や、学生と社会人によるピッチ大会の企画・運営も精力的に実施。座右の銘は「話し方は筋トレ。誰でも鍛えればうまくなる」。