1. PHPオンライン
  2. 生き方
  3. 人前で話すのが苦手...オリンピック選手に学ぶ「緊張」を味方にする切り替え方

生き方

人前で話すのが苦手...オリンピック選手に学ぶ「緊張」を味方にする切り替え方

川畑亜紀(フリーアナウンサー)

2025年08月05日 公開

そもそも、緊張さえしなければ上手に話せる、というわけではありません。思い出してください。いかにも人前で話すことに慣れていそうな校長先生のお話、上手でしたか?

コミュニケーションにとって一番大事なことは、「相手の心に届く」スキル。
スラスラとなれた様子で話せても人の心に届かないのであれば、それは上手に話せ たことにはなりません。逆に、話し方は綺麗じゃなくてもフシギと相手の心に残る人もいます。

ひと言もミスしないで話せるかより、相手の心に迫れることのほうが大切なんです。

そこでポイントになってくるのが、緊張との付き合い方。
みなさんの大敵「緊張」の攻略法を伝授します。

※本稿は、川畑亜紀著『お人好しが損しない話し方の教科書』(日東書院本社)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

テンションとナーバス、緊張には2種類ある! 

「緊張」という単語を英語の辞書で引くと、最初にテンションとナーバスというふたつの単語が出てきます。

テンションは、糸などがピンと張りつめた状態のことを意味します。テニスのラケットにガットを張るときもテンションという言葉を使いますから、ご存じの方も多いですね。

一方のナーバスは、不安などから神経が張りつめた状態を意味します。みなさんが悩まされている緊張の正体、それがナーバスです。歩くときに右手と右脚が一緒に前に出たりします。

このテンションとナーバスについて、オリンピックに出場した選手を対象としたアンケート調査が実施されています。回答の選択肢は、次の3つ。

①緊張しなかった
②適度に緊張した
③すごく緊張した

ここでそれぞれの「緊張」の意味を紐解いていきましょう。「緊張しなかった」と回答するのは、いわゆる心臓に毛が生えた人です。参考にならないので無視しましょう。

②「適度に緊張した」は、さきほど紹介したテンションに当たります。

そして③「すごく緊張した」は、ナーバスになっている人です。これは「悪い緊張」。

そう、②と③は、単に緊張の度合いが高いか低いかではなく、緊張の「種類」が違うのです。

ここで、それぞれの回答をした選手の成績との関連性を調べると、明らかに「適度に緊張した」選手が一番いいパフォーマンスをしていたという傾向が出ました。もうわかりますね。テンションという「良い緊張」が、あなたには必要です。

 

適度な緊張が心の強度を増す

誰もが「緊張したくない」「普段どおりのパフォーマンスをしたい」と思うものです。ですが、その考えに縛られる必要はないんです。よく考えてみてください。みなさんの「普段どおり」って、どんな状態でしょう。自宅のソファでパジャマ姿でくつろいでいるときですか? コンビニで買い物をしているときですか? 

はたして、その状態で人前に立って最高のパフォーマンスができるでしょうか。いまいち、やる気スイッチが入らないのではないでしょうか。それよりも、適度な緊張感を感じながらぴしっと清潔感のある服装に身を包んでいたほうが、ちょっと格好いい振る舞いができると思いませんか?

スポーツ選手は日頃から厳しいトレーニングを積んでいますが、それとは別に本番前にはウォーミングアップや柔軟体操をします。同じように適度な緊張は心の準備運動であり、適度な緊張こそが心の強度を増して最高のパフォーマンスへと結びつけてくれるのです。

 

『ルパン三世』の次元大介から学べる緊張の解き方

アニメ『ルパン三世』のなかで、次元大介が何度も「面白くなってきやがった!」と呟いているのを、聞いたことありませんか? これ、単に物語を盛り上げるだけのセリフではなくて、みなさんの緊張対策にも、ものすごく役立ちます。

話し方講座の生徒さんの多くは、講座がスタートする初期に、「先生、わたし緊張するんです」「苦手なんです」とおっしゃいます。その気持ちは、よくわかります。でもこれは、自分を余計に緊張に追い込んでしまう自己暗示です。

ですからわたしは、講座の一番初めに「"緊張する"とか"話が苦手"とは二度と言わないようにしましょうね」と伝えるようにしています。

ネガティブワードを口にしてしまうと、それが無意識のエリアに残ってしまいます。無意識は肯定と否定を区別することができないので、ぜったい言わない。これが最初に気をつける大きなポイントです。

どんなに緊張して心臓がバクバクして「失敗できない、どうしよう」と思って震えていても、そこに自分で追い討ちをかける必要はないですからね。

なら、どうすればいいでしょう?

そこで登場するのが、次元大介のセリフ「面白くなってきやがった!」です。「これはワクワクしてきた」「面白くなってきた」と声に出す。頭のなかで考えるだけじゃなく、ぜひ声に出してください。するとその声が耳から外部刺激として脳に伝わって、無意識部分に影響します。

「こんなにお客さんがきている! 面白い!!」というメッセージが無意識に届いた瞬間、無意識は「え?」と戸惑います。周囲の環境や、それと連動した意識が緊張に支配されているというのに、真逆の言葉を浴びせられたら、誰の無意識もきっと混乱しますよ。

 

話せるキャラにスイッチオン!

多くのプロのアナウンサーも使っていて、実際に大きな効果を感じることのできる技。それが、スイッチングです。

わたしたちアナウンサーは新人のときによく、先輩から「放送用の別人格を作りなさい」とアドバイスを受けます。「別人格」という言葉が大袈裟に聞こえてしまうなら、「キャラ」と言い換えてもいいでしょうか。

じつは、みなさんは普段からいろんなキャラを使い分けています。家族と一緒の時間を過ごすとき、恋人と過ごすとき、友達と遊んでいるとき、会社で仕事をしているとき、電話をかけるとき。関係性に応じてそれぞれ違うモードに入って、別のキャラになっていませんか?

これを一番実感するのが、異なる関係性の知人が居合わせたときです。家族と外出中に友達と偶然に鉢合わせすると、家族モードのキャラになっている自分を友達に見られるのが少し気恥ずかしいですよね。そこで友達モードに切り替えると、今度はそれを家族に見られるのが恥ずかしい。それくらい、場面に応じて異なるキャラになり切っているからです。

もうわかりましたね。スイッチングは、なにも難しくありません。人前で話すとき専用の新しいキャラを作って、使い分けるだけです。アナウンサーがイベントの司会をしたりニュース原稿を読み上げたりするときも、「アナウンサー」というキャラにスイッチして人前に立っています。

このスイッチが入れば、緊張することも恥ずかしいと感じることもありません。

うまくそのキャラになりきれない人は、理想の人があの場面ではこういう言い方をした、ここではこう言ったという具体的なセリフを、丸パクリでもいいんです。

「あ、使える!」と思ったら、それをしっかり記憶して自分の引き出しのなかに入れておく。こんなときに使おう、この言い方はこのタイミングで、などと脳内でシミュレーションを繰り返してレパートリーが増えてくれば、別キャラにスイッチしたときに、必要に応じてそのセリフを使いこなしてくれます。

 

【川畑亜紀(かわばた・あき)】
神戸大学文学部卒業。静岡エフエム放送で局アナウンサーとしてキャリアをスタートし、のちにフリーアナウンサーへ転身。NHK大阪や毎日放送など、関西の放送局で多数のレギュラー番組を担当。2023年よりSNSでの発信を開始し、「話し方」ジャンルにおいて人気を博す。わずか2年でSNS 総フォロワー数5万5千人を突破。「話し方を義務教育に」をミッションに掲げ、一般社団法人戦略的コミュニケーション力育成協会(ASK)を設立。企業・教育機関・行政機関を対象に、「伝える力」に特化した人材育成を行っている。また、コミュニケーションに悩む個人向けの勉強会や、学生と社会人によるピッチ大会の企画・運営も精力的に実施。座右の銘は「話し方は筋トレ。誰でも鍛えればうまくなる」。

関連記事

アクセスランキングRanking