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生き方

人生でもっとも大切なのは「思い出を作ること」 豊かに生きるための選択

小川仁志(哲学者・山口大学教授)

2025年09月08日 公開

人生は選択の積み重ねです。

「お茶を飲むか、コーヒーを飲むか」そんな無意識の選択から、「結婚」「転職」などの人生における重大な選択まで、私たちの一日は、あらゆる「選択」によって占められています。

では、いったいどうすれば「いい選択」ができるのでしょうか?

本稿では、「いい選択」をするための心構え「ファイナルアンサーだと考えない」ということについて、哲学者で山口大学教授の小川仁志さんに解説して頂きます。

※本稿は、小川仁志著『悩まず、いい選択ができる人の頭の使い方』(アスコム)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

いい形で「プレッシャー」をかわす

選択を迫られた際、「一度選んだら、もう引き返せない」という気持ちになる人は少なくありません。

特に、就職、転職、結婚など、人生を左右するような重要な選択を迫られたとき、人はそうしたプレッシャーを強く感じてしまい、必要以上に焦ったり迷ったりして、選べなくなりがちです。

まるでクイズ番組の「ファイナルアンサー」のように、決断を確定的で変更不可能なものととらえてしまうのです。それが、選択に怖さを感じ、選択に伴うリスクを引き受けられないと感じる大きな要因となっています。

しかし、哲学的に考えれば、そもそも人生の選択に「ファイナルアンサー」など存在しません。

チェスや将棋の対局において、序盤の一手一手は、その時点では「いい手」か「悪い手」かを完全に判断することなどできません。

なぜなら、その後の展開全体を通じて、初めてその手の意味が明らかになるからです。

同様に、人生においても、一つひとつの選択の意味は、その後の生き方によって変化していきます。視点を変えれば、あるいは時間がたち状況が変化すれば、選択の意味が変わることだってよくあります。

仮に「選択を間違えた」と思うことがあっても、そこからまた「次にどうするか」を考えればいいのです。

かつて私が指導したある学生は、大企業に就職したもののわずか数年で退職し、NPOに転身しました。
当初、彼は「安定した職に就けた」と喜んでいましたが、しだいに「社会への貢献」に価値を見出すようになったのです。

現在彼は、「あの会社での経験があったからこそ、今のNPO活動で組織運営のノウハウを活かせている」と語っています。彼はもしかしたら、当初の就職の選択を「ファイナルアンサー」だと思っていたかもしれません。

でも実際には、それはただの通過点でしかありませんでした。

会社を辞め、NPOに転身するという選択が、当初の就職の選択に新たな意味を与えたわけです。

 

「最後までやり通す」ほうがリスク

選択に直面したとき、「これはファイナルアンサーではない」と考えると、一つひとつの選択を「正しい選択」「間違った選択」という二分法でとらえることがなくなります。

どんな選択からも新たな学びがあり、そこから新たな道を模索できるとさえ思えるようになるでしょう。

そうなると、選択に対するハードルが格段に下がって、より気軽に、自由に選べるようになりますし、「少しぐらい冒険してみてもいいのでは?」という気持ちが生まれ、選択の仕方も変わってくるはずです。

たとえば、あなたが就職や転職を考えたとき、「これがファイナルアンサーだ」と思うと、なかなか応募に踏み切れないかもしれません。

しかし、「応募しても受かるとは限らないし、応募して受かっても、そこに入社するかどうかはそれから決めればいい」と思うと、気が楽になるのではないでしょうか。

また、「昨日決めたことを、今日変えたくなる」ということもあるかもしれません。

世の中では、「初志貫徹」「一度決めたら最後までやり通す」「筋を通す」といったことが美徳ととらえられがちですが、人間は変化し続ける生き物です。

変化の激しいこの時代、過去の選択にいつまでもこだわるのではなく、常に今の自分にとっていい選択は何かを考えることのほうが大事なのではないでしょうか。

選択することに怖さを感じるのは仕方のないことです。

どれほど決断力のある人、心が強い人でも、特に人生を左右する重要な選択をするときには、やはり怖さを感じるのではないかと思います。

だからといって、重要な選択を避けたり、先延ばしにしたりしてばかりいると、自分らしい人生を歩むことはできません。

一つひとつの選択に対し、常に「これはファイナルアンサーではない」と考え、ハードルを下げ、どんどん自分らしく選択していきましょう。

 

「選択の数」が人生の豊かさをつくる

アメリカのコンサルタントであるビル・パーキンス(1969~)は、世界的ベストセラー『DIE WITH ZERO』の中でこう書いています。

「人生でしなければならない一番大切な仕事は、思い出づくりです。最後に残るのは、結局それだけなのですから」

これと書名の「ゼロで死ぬ」というのは、どういう関係があるのか。

パーキンスが言わんとしているのは「お金を貯めることばかりに夢中にならず、最適なタイミングでお金を使い、思い出を作ろう。そして死ぬときは資産はゼロになっているくらいでちょうどいい」ということなのです。

人生においてもっとも大切なのは思い出を作ることである。

そう考えることも、選択へのハードルを下げてくれるかもしれません。短期的、長期的な結果がどうであろうと、すべての選択は思い出になるからです。

「この選択は正解だろうか」「失敗したくない」と考え、選択を避けたり、他人の敷いたレールに乗って生きたりするより、積極的に生き、どんどん分岐点を作り、選択の回数を増やしていったほうが、よりたくさんの思い出ができるはずです。

選択に直面したとき、「哲学を使った選択思考」で頭の中を整理することで、今まで思ってもいなかった選択肢が生まれ、人生が大きく変化することもあるでしょう。

その選択が正しかったかどうかは、人生を終えるときまでわかりません。
いや、人生を終えても、わからないかもしれません。
そもそも、選択に正解も不正解もないのですから。

ぜひ「これはファイナルアンサーではない」と考え、ハードルを下げ、選択を楽しんでください。
それがあなたに、豊かな人生をもたらしてくれるはずです。

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