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ウサギはなぜ、カメに負けたのか...「近道を求める人」が迎える悲劇の結末

加藤諦三(早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)

2022年12月17日 公開 2023年07月26日 更新

順調に成功を積んでいる人が必ずはまる「落とし穴」があると、早稲田大学名誉教授の加藤諦三氏は警鐘を鳴らす。そして成功への近道を行こうとする人より、たとえ遠回りでも失敗やつまずきを経験しながら地道に努力する人が、最後はうまくいくという。

※本稿は、加藤諦三著『絶望から抜け出す心理学』(PHP新書)を一部抜粋・編集したものです。

 

近道をする人が見落としがちなこと

結果としての成功を求めて近道をしようとするような人は、長い目で見るとあまりいい仕事はできていないことが多い。仮に近道をして成功しても、それはたいてい1回しか通用しない。

なぜなら正しいやり方が身についていないからである。正しいやり方とは、社会的な力を身につけても、自分は「内なる力」を得ていないと気がついていることである。

長期的に見れば近道をしないでじっくりと歩んだ人の方がかえって効率がいい。これがまさにマインドフルネスな人である。

成功しても正しいやり方が身についていなければ、次には今までの経験が生きてこない。近道ばかりしようとする人は結果だけで人生を考えるようになる。

自分を表現するのに、結果という視点で表現するか、それまでの自分の生き方という過程で評価するかで、自分の評価は全く違う。

人と同じ道では気が済まなくて、自分にだけ特別に安易で近い道がないかといつも探している人もいる。そのような人は神経症的傾向が強い。強迫的に近道を求めている人は最後には挫折する。

近道ばかりを求める人は遠回りのエネルギーがないのである。遠回りのエネルギーが「内なる力」である。人間としての力である。自分の周りにどんな人が集まっているかを見る心のゆとりである。

近道を選んだ人は着いたときに「辛かった」という。遠回りをした人は着いたときに「楽しかった」という。

1つ1つのコーナーをきちんと回って目的地に到達してこそ喜びがある。まさにコーナーを省いてはいけない。1塁を過ぎたら2塁を回って3塁にいく。

たとえばコーナーを省いてしまう人は、敵を友に変えることができない人である。敵を倒すことが近道である。しかし悔しい気持ちを抑えて敵を友に変えれば、時間とエネルギーはかかるが、その後の成果ははかりしれない。

マインドフルネスの人は、今の敵を「味方にしてしまおう」というエネルギーがある。コーナーを省いてしまう人は心がふれあう友人ができない。

 

他人と自分を1つの視点で比較しない

さらに、最終的に成功感を持てる人生を手にいれるために大切なことは、「他人と自分を1つの視点で、比較して見ない」ことである。

カメはなぜウサギと競走して山の上に行かれたか。ウサギではなく頂上を見ていたからである。

カメの自分に競走を仕掛けるウサギの気持ちがわかっていたのである。「もしもしカメよ、カメさんよ」とウサギに話しかけられたカメは、「このウサギは、自分の仲間のウサギとうまくいっていない」と気がついていたのである。

カメがウサギを「自分と同じ動物」と見たら、「勝てっこない」と思う。しかし「自分とウサギを比較しないカメ」はウサギと競走して山の上まで行ける。

別の言葉で表現すれば、カメは自我の確立ができていた。自分に話しかけてきたウサギは、仲間のウサギとコミュニケーションできないウサギと見ぬいていた。

すぐに騙される人は、相手を見ていない。つまり自分を理解していない。

他人に気を取られないで自分の夢を見ること。

これも自分に与えられた状況に対する対処の仕方で、物事は違って見えてくるという例である。

同じ状況でウサギを見て、「自分にはできないと諦める人」もいる。自分の自我の未確立に気がついていない。自分も相手も見ていない。

問題は状況よりその状況に対する対処の仕方に、その人の人格の形成、未形成が現れる。そして人格の未形成な人ほど自分の自我の未確立にも気がついていないし、相手の人格の未形成に気がついていない。

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不運を味方につけ「内なる力」を鍛える

著者紹介

加藤諦三(かとう・たいぞう)

早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員

1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

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